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目覚まし時計が転がるように鳴り続けている。

ふとんの中から手だけを伸ばしてアラームを止めた。

二度寝をし始めた。



「実花!! 起きなさい! 時間よ!」


バタンと勢いよく扉が開くと、大きな声で起こされた。

時刻は午前5時。



「もう眠いー、もう少し」


「何、言ってるの? 今日はいつもよりクリームパン多く作るって言ってたじゃない。仕込みに時間かかるから早くしてちょうだい」


「あ。そうだった。はい、起きます。今すぐ起きます」


体をすぐに起こして、敬礼をしては服に着替えた。

実花の隣で寝ていた紬は、寝返りを打ってはスヤスヤと眠っていた。


「起こさないように……と」


実花は身支度を済ませると、厨房の方へと駆け出した。すでに実花の父の雄亮が生地の仕込みをはじめていた。


「お父さん、おはよう」


「ああ……。おはよう」


黙々と作業をする雄亮は特に喋ることはない。お喋りが得意ではない。必要なことだけしか言わない。話さない分、手で作られる精巧な雄亮のパンは、人々の心と胃袋を鷲掴みにするほどの絶品なものだった。それを昔から真横で見てきた実花は、

パン屋になりたいと思って、パン作りの魅力にハマってしまった。朝から晩まで仕込んでは焼いて

棚に並べて、接客しての繰り返しの毎日だったがお客さんの笑顔を見ているだけで心が洗われるようだった。

紬も実花と同じでパン作りに興味を持ちはじめていた。粘土を使っては見よう見まねで、クロワッサンの形

チョココロネの形を作っては祖父である雄亮にどうぞとあげていた。


「ほら、朝ごはん用意したよ。大したものじゃないけど、昨日の残りのカレーライスね。実花、紬を起こしてきて!」


実花の母の豊実が、台所から食卓にトレイを使って運び出していた。


「はーい、起こしてきます」


「全く、実花も、一緒に起きてくればいいのに」


「……」


雄亮は黙って席に着いた。2階の部屋から2人で大きな音を立てて降りてきた。


「静かに降りてきなさいよ!」


「ごめんなさい。ほら、紬、席に着いて」


「じいじ、ばあば。おはよう!」


「つむちゃん、おはよう。今日のごはんもカレーライスにしたよ」


「わーい。つむの好きなやつー」


雄亮はおはようを言う代わりに席を立ち上がって紬の頭をポンポンなでなでした。

紬は嬉しそうな顔で返事をした。


「はいはい、食べましょう。いただきます」


みんな揃って両手を合わせて挨拶した。カチャカチャとスプーンの音だけが響くのは嫌だと思った豊実が、口を開いた。



「実花、そういやー、来週じゃないの? 3人で出かけるって話」


「あ、うん。来週の土曜だね」


「本当に行けるの? 前も約束した時、仕事が入ったとか何とかで断られなかった?」


「あー、そうだったね……。今回は大丈夫だよ。紬と電話で話して、お願いしたし、たぶん」


「自信ないの? 実花、もう少し颯太さんのこと考えてあげなさいよ。向こうで1人で頑張ってるんだから」


「これでも考えてないわけじゃないんだけどな」


「実花、本当に颯太さんのこと好きなの?」


「おい、紬の前で!」


ここぞと言う時は口を開く雄亮。


「でも大事なことよ。紬ちゃん、ごめんね。宇宙人ごっこして耳塞いでおこうか」


豊実は紬の後ろに立ち、紬の耳を塞いではあわわと手を口に持って行っては実花と話を続けた。


「私は自分の仕事を蹴ってでも、お父さんについて行きたいって気持ちでここのパン屋に嫁いだのよ。まだ1代目だからやりやすいけども、それでも嫌な仕事だなって初めは思ってたけど、慣れていくうちにお客さんの喜ぶ笑顔見て幸せだなあって

思うようになったからね。それくらい好きかって言うのを聞いてるのよ」


「仕事は辞めたくない。パン屋の仕事好きなんだもん」


「そこまでの熱がないってことね。あっちも本当に実花を好きなら一緒にパン屋やるものね。やらないってことは……。会う回数も年々減ってきてるなら考えても良いんじゃない? お互いが無理してるは良くないと思うわ」


「え、でも、この子は?」


「子は鎹(かすがい)ってよく言うけど、今の時代じゃ通用しなくなってるみたいよ。大人たちが自由にやってるからね。新しい人見つけたらいいさ。たった1人の男で人生決めるんじゃないよ。世界に何人男がいると思ってるのさ」


「かあさん、それってまさか」


「35億!」


「はいはい、面白いですね」


棒読みで答える。


「と言いつつも、私は初めての男にして最後の男はお父さんだけだけどね。子供3人もいて、実花以外は独立したけども」


「え? 働いてるでしょ? ダメなの?」


「自分でパン屋立ち上げてもいいじゃない」


「引き継いではダメなの?」


「別に良いけど、ずっと戻ってこないかもよ」


「え、ばあば、何が戻ってこないの?」


「それはね、流れ星のことよ。つむちゃん」


天井を指さしてメルヘンチックに言う。


「そうなんだ」


紬は祖母の豊実の話を聞くのが楽しみだった。

実花は苦虫をつぶしたような顔してカレーを、パクパクと食べた。

今後をどうして行くか来週土曜日に颯太に話をしようと決めた。

仕事人間に生きる女子はオス化現象になってるとよく週刊誌で書かれているがまさかに実花は仕事一筋で

家事はろくにできない。育児は祖母の力がないとろくにこなせていなかった。

颯太に尽くせと言われても、体と心がそれを望んでないし求めていない。

さらさら、専業主婦になったり、パン屋以外の仕事をして共働きして核家族で生活する自信なんてない。

何かを削るには単身赴任でと言う形をとってなるべく夫婦としての生活がない方が

実花にとっては都合が良かった。見られたくないのだ。炊事、洗濯、料理ができない姿。子どもの世話もろくにせず

祖母に預けては休憩時間にスマホをいじってやり過ごすところ。

仕事してる以外はダメだとわかってる。

そして、颯太が実家に帰ってきてもお客さん状態でパンをご馳走しては特に何もすることもなく。

颯太も居心地が悪いと仕事あるからとすぐ帰ってしまう。

嫁として久しぶりに会う颯太にもてなすことさえもできない。


どうして、専業主婦として成り立つ人がいるんだろう。

れっきとしたメスなんだろうか。


夫に尽くす主婦を見て尊敬すら感じる。

専業主婦は暇してるんじゃない。

家族に時間をたっぷり注いでるんだ。

家にいるだけで心地よいし、安心感を与えてくれるホームポジション。

何物にも変えられない時間を注いでくれる。

それができたら苦労しない。

実花は実花で悩んでいた。

愛の充電器がほしい

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