「好きなんですけど」
唐突に発された言葉を理解するには、少し時間がかかり過ぎたようだ。
何も言えず固まる俺を見て、彼は怪訝そうな顔をする。
「…聞いてました?今の」
「嗚呼」
聞いていたのは確かだが、かといってそれを理解できたとは限らないだろう。
言葉を頭の中で何度も反復させ、ようやく呑み込む事が出来た。
「…、俺のことが好きなんだって?」
真っ直ぐに相手の目を見つめられず、目を逸らす。
逸らした先に広がっていたのは、ただの密閉空間。
彼がここで生活している場所であり、テーブルの上などはきちんと整理整頓されている。
密閉された…ということはつまり俺はここから逃げられない訳で。
しくったな…と自分の犯したミスを悟ると同時に彼はぐい、とこちらに距離を詰めてくる。
「答えを」
「は??」
「貴方の答えを教えてください」
それはいささか性急すぎやしないかい。
肩をがっしりと掴まれ無理やり目線を合わせられる。
目を逸らす事は許されていないのか、それを戒めるようにこちらに引き寄せられる。
「顔、真っ赤ですけど」
期待していいんですか?
にっこりとそんなことを囁かれては、こちらが頑張って取り繕ったポーカーフェイスも意味がなくなってしまう。
「、こっちの気も知らないで」
奴を引き剥がすように肩を押すも中々離れてはくれないようで。
先程まで静かだった部屋に、自分の鼓動が響いている。
鼓膜が破けそうなくらいに心臓が鳴っている。
そんな自分の状態を誤魔化すかのように机に置かれていたコーヒーを一気に飲みこむ。
ぷはー、と空気を吐き出せば彼は「それ、私のなんですけど」と爆弾を投下してきた。
「!?!? 嘘つけ」
「本当ですが」
ということは…つまり……、
「間接キス……ですか」
面白い。とにやにやする彼に俺は机に伏せるしか出来なかった。
さっきよりも真っ赤な顔を、彼には見られたくなくて。
「でもするんだったら直接のほうがいいでしょう。 ね?」
その言葉の真意が分からず顔を上げた瞬間、自分の唇に何か柔らかいものが触れた。
「…!?!?!」
そのまま舌まで入れようしてきたのでとりあえず無理やり突き離す。
ただ突き離された本人は嫌そうな顔をせずケタケタと笑うのみだった。
「……おい」
俺はまだあんたに答えを言っていない筈だが。
そう付け加えれば、彼はにんまりと笑う。
「、さっきまでの貴方の行動で答えは出ていますから」
さっきのそれをもう一度、と再度近付いてくる彼に完全に絆されてしまった俺は渋々それを受け入れることにした…。