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5月初旬の夜、東京区六本木・芋洗坂中程の老舗旅館『時空屋』向かいのマンション305号。暗がりの室内の窓辺で、柿崎と大野は時空屋の様子を伺っていた。

奥のテーブル席では、亀山がパソコンのデータを見ながら呟いている。

時空屋に入る全ての人間の顔写真を大野が撮影し、顔認証システムでその人物の詳細を亀山が羅列する。

もちろん、バックアップされた内容は瞬時に特捜機動隊本部へと転送される仕組みになっていた。

亀山は自信有り気に、


「知ってます?インターネット大手企業の大半なんですが、個人情報はダダ漏れ・・・先進国の国民監視社会ってのは2012年頃から始まってんですよ」


と言うと。柿崎が小声で反応した。


「難しいことは知らねえよ、それよりお前の相棒の和久井はどうした?」

「わくちゃん?」

「聞いたぞ、亀、お前は案外ヘタレなんだってな、リバース亀か、こりゃ傑作だ!」


柿崎は笑った。

亀山は、中川での一件を思い出して苦笑いした。しかし、亀山から見れば、腐敗した遺体を目の当たりにしても、平然としている和久井が異質なのだが、そんな話をするつもりもなく口をつぐんだ。

その時、大野が双眼鏡を覗きながら叫んだ。


「あ、ちょっとちょっと、あれ、多分韓洋ですよ。データ送りますね…てか間違いないでしょう!」


時空屋の前に滑り込んだ車から、韓洋はボディーガードを従えて、時空屋の中へと入っていった。

韓洋グループの取引先に江東区の広告代理店が存在しているが、定期的だった金の流れが昨年の1月で停止していた。

その広告屋は、指定暴力団『稲垣組』の幽霊会社で、資金の多くは中国マフィアへと流れていた。

それに気付いたのは大野だった。

亀山のパソコン画面に、韓洋とボディーガードの布施のデータが表示されていくのを眺めながら、柿崎は納得顔で言った。


「間違いないな。ビンゴだせ!お前、案外すごい奴なんだな…」


大野は照れながら、薄くなった頭をかいた。

柿崎は愉快そうに笑った。


東京が世界地図から消えたあの日の落日

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