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「姉さん、小銭持ってる? 」


「うん、」


「飲み物買って来るよ」


財布から痛んだ小さな紙切れが落ちた。忘れていた遠い記憶の欠片。小さな紙切れを広げた瞬間に、緑風が髪を巻き上げ、思い出と伴に横切った。


【運命の人…… 】


薄くなったインクでそう書かれていた。10年間、途切れたままの想いが鮮明に浮かぶ。当時の私は捨てられずにいたんだろう。でも、今の私なら―――


握り捨てようとした手が止まる。溜息を軽くつくと、財布の一番奥にまたしまい込む自分がいた。


(おじさんの喫茶店、暫く行ってないな。まだ置いてあるのかな)


もう直ぐまた、忘れようとした季節がやって来る。


「姉さん、まだ少し冷えるからホットにしたよ」


「うん、有難う――― 」


私は空に思いを馳せ、車いすの車輪を弟へと向けた。



※※※



とある廃道で蔦《つた》に覆われ放置された車が見つかった。それだけならば幾つも話は転がっている。廃車処理に困り放置したか、盗難車かだけの話だ。その後、ナンバーと車体番号を確認すると、盗難届けが随分と昔に提出された事が判明した。記載された持ち主とされる連絡先の番号は、現在使用されて居ない状況で有った為、したがって所轄も盗難車ではあるものの、犯罪に使われた形跡も、事件性も薄いものと判断し、それ以上捜査を進めようとはしなかった。


だがその半年後―――


山菜取りで入山していた老人が、その近くの山中で白骨化した遺体を発見する事となる……


「ご苦労様――― 」


鑑識のフラッシュが光る中、一人の薄汚れた男が規制線を潜る。ポケットからストップウォッチを出すと停止のボタンを押した。


「お疲れ様です築城《つきしろ》さん。随分とはやいですねぇ」


若い刑事がニヤリとする。


「嫌味かお前…… 今日は酒臭くねぇはずだぞ」


クンクン―――


「あ~ 本当だぁ」


若い刑事は驚いた表情を浮かべた。


「仏さんの前で不謹慎だぞ! もう一度地域課からやり直すか? 」


鑑識の識別腕章をした人物に叱責され、若い刑事は項垂れる。


「そんで⁉ おやっさんの見立てはどうよ? 白鬼《しろおに》って聞いたけど」※白鬼=白骨遺体


煙草に火を吸わせると大きく空に向かって息を吐いた。


「現場は火気厳禁! 何度も言ってるだろう? 相変わらず仕方ない奴だ。人台《じんだい》は現状不明。留《るい》の類《たぐい》は若干残ってるが身元には繋がらんだろな」※人台=被害者の情報 留=遺留品


「採取は? 」


「そこの木にロープが吊るされてる。腐乱して首が伸び頭蓋が落ちてしまってる。下足痕《げそこん》も、こう現場が古くちゃねぇ、何とか努力はするが期待はしないでくれ」


「仏さんの下足痕《げそこん》だけなら安心するんだがな」


「科捜研の連中にも情報は共有しちょるし、何か解るとすれば、司法解剖はそれからだな」


「他殺じゃ無きゃ何でもいいさ」


「それがな…… 一つ気になる点を見つけちまった」


「何だよ、おやっさん、厄介な事言うのは無しだぜ? 」


「扼殺《やくさつ》の可能性も否めん。詳しく調べんと判断に苦しむが、喉にある舌骨がどうやら骨折しているかもしれん」


「それって――― 」


「あぁ、だとしたら絞殺した後に吊るした――― 殺人だ。」

白詰草の咲く丘で~最後のKissを忘れない~

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