テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

遥が背中に刺さる視線を感じながら、机に手を置く。椅子を引く動作さえ、何かを挑発するような音になって響いた。


けれど──

日下部のいない空席は、そこだけ異質な沈黙を纏っていた。


彼は、本当に来ていない。

遥がどれだけ教室のざわめきに慣れていても、

そこだけは、どうしても無視できなかった。


「なあ、アイツさ……もう学校来ないらしいよ?」

「マジで? やっぱやばいことしてたってことじゃん」


誰かが囁く。

教室のあちこちで、微かに言葉の破片が跳ねる。


《日下部、遥を庇って脅されたらしいよ》

《でも実際、庇う理由って……そういうことでしょ?》

《なんかさ、あのふたり、もう……って感じじゃね?》


──そう、分断は既に完成しつつあった。

ふたりは「セット」で見られている。

けれどその関係性は、もはや「気持ち悪さ」としてしか語られない。


遥は自分の指先を見た。

手は冷たい。けれど震えてはいない。


ただ、考えていた。


(俺が……全部、壊したんだろ)


あの屋上で、日下部が自分の肩を抱いた瞬間。

確かに“温度”があった。

でも──それを他人に見られた時点で、もう終わっていたのかもしれない。


あの瞬間に宿っていた優しさも、信頼も、

見た目を変えられて、歪められて、

ただの「罪」にされるのなら──


(だったら、最初から……)


そう思ったとき、ガラッと教室の扉が開いた。


「──日下部だ」


誰かが小さく呟く。


教室の空気が一瞬止まった。


遥が、反射的に振り返る。


そこにいたのは──

昨日までと何も変わらないはずの、日下部の姿だった。


けれど、何かが違った。


彼の視線はまっすぐに遥を捉えていた。

周囲の空気にも、噂にも、沈黙にも、微塵も動じない。

制服の襟元は少し乱れていた。手には、小さな傷跡があった。


──誰かと、何かがあったのは明白だった。


それでも、日下部は歩いてきた。

誰の視線も振り払わず、何一つ遮らずに、真っ直ぐ遥の席へ。


そして、遥の机に、そっと手を置いた。


言葉はなかった。

けれど、その行為は、言葉以上の宣言だった。


“ここにいる”

“まだ、終わってない”


遥は、息を飲む。


周囲がざわつく。

けれど日下部は、微動だにせず立っていた。

その静けさは、ひどく異質で──

だが、遥のなかで確かに何かを揺らした。


(……なんで、おまえは)


遥は目を伏せた。

感情が渦巻く。怒りでも悲しみでもなく、ただ圧倒的な、自己嫌悪。


なのに。


その隣で、日下部は変わらないまなざしでそこにいた。


──誰にも揺らされず、歪められず。


遥の世界が、ほんの少しだけ、音を立てて軋んだ。


この作品はいかがでしたか?

34

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚