春菜と智也の関係は、少しずつ変化を見せ始めていた。智也の言葉は春菜に安心感を与えたものの、心の中には依然として不安が残り続けていた。智也の気持ちを信じようとする一方で、春菜は彼との関係における不安定な部分にどう向き合っていけば良いのか分からなかった。
その日、二人はカフェで偶然にも再び顔を合わせた。智也はいつも通りに優しく春菜に微笑みかけたが、その笑顔の奥に少し不安げな影が見え隠れしていた。春菜はそれを感じ取ると、胸が少し痛んだ。
「智也くん、最近、なんだかすごく遠く感じる。」春菜は思わず言葉にしてしまった。彼女の声には、わずかな震えが含まれていた。
智也は驚いたように春菜を見つめた。「そんなことないよ、春菜。俺は変わらず君のことを大事に思ってる。」
「でも、最近、あなたといるときに感じるのは、どうしても距離感なんだ。なんでだろう、私、あなたを信じたいのに…。」春菜はその不安を吐き出すように言った。
智也は少し黙ってから、ため息をついた。「分かってる、春菜。俺も君を信じたいと思ってる。だけど、俺が何か不安にさせるようなことをしてるのかもしれない。俺が君に何も気持ちを伝えきれていないのかも。」
春菜はそれを聞いて、自分の気持ちを整理しようとした。智也の言葉は優しかったが、心の奥では彼が本当に三咲を忘れたのか、そして自分をどれだけ愛しているのかという疑問が消えなかった。
「でも、智也くん、私、まだどうしても不安なんだ。あなたが三咲のことを完全に忘れたって信じられない。」春菜はため息をつきながら言った。彼女は自分でも何が正しいのか分からなかった。
智也は沈黙を破り、真剣な表情で春菜を見つめた。「春菜、三咲のことは確かに過去のことだよ。でも、君の不安をどうしても完全に取り除けないんだ。君がそれを感じるのも無理ないよな。俺だって、君に安心感を与えられていないことを分かってる。」
その言葉に春菜は少し胸が痛んだ。智也が自分を思ってくれていることは分かっていたが、その気持ちを信じることができるかどうかは、別の問題だった。彼の優しさに触れるたびに、心の中で一歩踏み出す勇気が湧く一方で、また一歩後退する自分がいた。
「私、あなたを好きだし、信じたいって思ってる。でも、心の中の不安がどうしても消えない。」春菜は涙をこらえながら言った。「私がもっと強くならないと、私たちはうまくいかないんじゃないかって、いつも不安になってしまうんだ。」
智也は春菜の手を取ると、静かに言った。「春菜、俺は君を信じてるよ。君が不安に感じていること、俺はちゃんと理解してる。でも、俺も君を幸せにしたいんだ。だから、君が少しでも不安を感じなくなるように、俺は努力するよ。」
春菜はその言葉に胸が温かくなるのを感じたが、それでも心の中で何かが引っかかっていた。彼の言葉が本当なら、なぜ自分はこんなにも不安を抱えているのだろうか。
「ありがとう、智也くん。私、頑張ってみる。」春菜はようやく少しだけ笑顔を見せたが、その笑顔にはどこか切なさが滲んでいた。
二人の関係は、確かに前進しているように見えたが、その実、春菜の心の中での不安定な感情は、依然として続いていた。智也の言葉がどれだけ優しくても、春菜はその不安を完全に拭い去ることができなかった。
そして、春菜は心の中で一つの決断を下す。智也に対する信頼を少しずつ築いていくために、彼と一緒にいる時間をもっと大切にしようと決めた。しかし、その不安定な関係は、まだどこかで揺れ動いているのだった。
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