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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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廊下のドアから建物に入ったとき、誰かとぶつかりそうになった。


高い位置にあるその顔を見上げ、蓮は大きく頭を下げる。


「あっ、脇田さんっ。

昨日はどうもありがとうございましたっ」


「あれから傷大丈夫?」

と言われたので、


「いや、脇田さんこそ、大丈夫なんですか?」

と言ったが、


「まあ、そんなに仕事に支障はないよ。

パソコン打つのは、浦島さんがやってくれるしね」

と言う。


まあ、支障あっても、この人は言わないだろうな、と思った。


「そうだ。

今、あの悪霊に会いましたよ」


そう報告すると、彼は、

「何処で?」

と訊いてきた。


「駐車場に居ました」

と言うと、脇田は木々の陰になって、今は見えないそちらを窓から窺いながら、


「そう、ありがとう」

と何故か言った。


「で、会って、また孕まされそうになった?」

と笑う。


「いや、俺とデートしろと言ってきました」


「……段々要求がショボくなってきてるね、その色情霊」


「色情霊っていうか。


襲いかかってくるんじゃなくて。


理路整然と迫ってくるんです。

骨盤の大きさがどうとか、体格がどうとか」


ああ、と脇田は笑った。


「大変だね」

と含むところがあるように言う。


「あっ、呼び止めてすみませんでした。

じゃあ、失礼します」

と頭を下げると、


「じゃあね」

と脇田はにこやかに手を振ってくれた。


言葉だけで、穢されそうな男にあっただけに、和むな、と思いながら、蓮は微笑んで、もう一度頭を下げ、警備員室へと向かう。



「駐車場にね」


あのサボりめ、と思いながら、脇田は、姿勢の良い蓮の後ろ姿が、廊下の角を曲がるまで見ていた。


「君はあの悪霊からは逃げられないよ。

僕もだけどね……」

と呟いた。



警備員室にたどり着く前、蓮は、外回りから帰ってきたらしい奏汰に出会った。


「石井さん。

今、駐車場から来ました?」


「来たけど?」

「すごい生意気そうで高飛車そうな社員の人に会いませんでした?」


「……見ただけで、そんなのわかんないよ。

居なかったと思うけど?」


そうですか、と言うと、

「いつか言ってた奴、まだ探してんの?」

と笑われた。


「んー。

いや、会えたんですけどね。

お金返しそびれるわ、何処の部署なのか聞きそびれるわで」


話しながら、気がついていた。

渡り廊下から来た真知子がこちらを目で追っていることに。



「こんにちはー」

と警備員さんに声をかけ、備品を渡して戻ろうとした蓮を、仁王立ちになった真知子が待ち構えていた。


今日はなにやら態度のデカイ人にばかり出会うな、と思いながら、挨拶をすると、真知子は、

「あんた脇田さんと仲いいわね」

と言ってくる。


どうやら、さっき話していたのも見ていたようだった。


「服部さん、脇田さんがお好きなんですか?」

と訊くと、


「いや、私は、他狙いだから別にいいんだけど」


仲がいいのね、って言っただけよ、と言ってくる。


あ、いいんだ?

意外とあっさりな人だな、と思った。


自分が興味なくても、イケメンを人に取られるのは我慢できないという人もいるが、そこまで根性は悪くないらしい。


「私は石井さん。

石井さんよ、よろしく」

と真知子は言ってくる。


選挙か。


名前を連呼されると、総出で駆り出された親戚の選挙を思い出す。


「ところで、あんた、暇?」

「は?」


「今日、どうしても行きたいランチの店があったのに。

みんな都合がつかなかったのよ。


あんたでいいわ。

ついて来なさいよ」

と言い出す。


えーっ! と蓮は声を上げた。


「服部さん、一人で平気そうな人じゃないですかー」


「……あんた、本当に言いたいだけ言うわね。

いいから、行くわよ。

奢らないけど」


「えー」


「戻ったら、さっさと支度して。

十二時ちょい前に出るわよ」


わかったわね、じゃあね、とさっさと行ってしまう。


どうして、此処の人たちはみんな人の話を聞かないんだ……と思いながら、渡り廊下を戻っていく真知子を見送った。












派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

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