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しばらく歩くと、駅の近くに一台の車が停まっていた。暗くてよく見えないけど、高そうだった。
「汚くてごめんね。乗って。」
「…お邪魔します。」
中に入ると、ふんわり新車の匂いが漂ってきた。
まだ、買って時間が経っていないのだろう。
――ブロロロ――
ほどなくして、エンジンがかかる。サイドブレーキにかかった店長の腕をじっと見つめる。
左手の薬指にハマった輪っかが目に入る。
こんな人でも結婚できるんだな、と失礼なことを思ってしまった。
「もうちょっとしたら、暖まるからね。」
「…店長。私、やめます。」
真っ直ぐに店長の横顔を見つめながら、ぽつりと告げた。
すると、店長はぱあっと表情を輝かせてこっちを向いた。
「本当かい?いやー、よかったよ…」
「そうじゃありません。仕事を…辞めようと思います。」
「……えぇ!?」
今度は、すっとんきょうな声をあげてハンドルに手をかける。
それでも、私は無表情のまま、窓の外を見て淡々と話す。
「だって、もう皆さんにバレちゃうじゃないですか。援交のことも、普段猫を被っていたことも。そんな状態でいれるほど、精神強くないです。」
「俺が言わなきゃバレないよ。大丈夫!!必ず上を説得して給料をあげてもらうさ…」
「っ…だから、違うんです!!別に私は、お金がほしいからやっていたわけじゃ…」
いつまでも能天気な思い違いをしている店長に、とうとう我慢できなくなって全力で否定する。