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ある夜夕飯を食べている頃、セラが俺の家に走ってきた。
ばん、とドアが開いて、驚いて部屋から出てきた俺の胸へ駆け込んでくる。
「ウミが、行方不明なんだって!!」
息をきらしながらセラは言った。俺はそれを聞いて、どこかにふらっと出かけたのだと思った。
ウミは少し風変わりだから、どこに行っていてもおかしくはない。
「じきに戻ってくるだろ。」
俺はそう言ってセラを落ち着かせようとした。
セラは叫んだ。
「違うの、遺書があった!」
…え?遺書?
セラは泣きそうな目で俺を見つめた。
「ねぇ、分かった?放ってたら、ウミは、死ぬよ。」
セラの目は強ばっていた。死ぬ、が震えて、消えるように小さかった。
頬が、鼻先が、唇が、寒さなのか恐ろしさなのか震えていた。
俺は訳が分からなくなった。
ウミが、死ぬ?自殺?なんで…。
俺の脳裏に楽しかった日々が映る。それと、いじめについて。
…とにかく早く探さないといけない。
早くしろ、ウミが死んでからじゃ遅い!!
俺は自分の脚を殴った。
ウミはほんとうに隠すのが得意だ。嬉しいことも俺たちの前意外ではかくす。辛いことを隠すのがとても得意だよな、ウミは。それなのに俺たちに助けを求めたのは…。
「セラ!来いっ!」
気づくと俺の足は近くの河へ向いていた。
夢想川。大きくてキラキラした河だ。有名な観光スポットだ。
深くて俺でも足がつかない。俺より5センチ小さいウミも、到底つかないだろう。
橋は全部で3つある。1つは森を抜けた所に、2つ目は町の通りに、3つ目は夢想公園にある。
俺は迷いなく夢想公園の橋を選んだ。
ただ三人で遊んだ場所だったからだ。
だけどいなかった。人の多い町は選ばないだろうと、俺の足は森へ向いた。
「おい、セラ。」
俺は走りながらセラに話しかけた。驚くほど低い声だった。
「着いたら木に隠れてろ。来いって言ったら来るんだ。」
セラはなにも言わず、頷いた。
セラは思っていたよりも体力があって、ずっと変わらないペースで速く走っていた。音を1つも立てず。
忍者のようで、俺はこんなときなのに、見とれてしまう。セラが好きだ、って思ってしまった。
そんなこと考えてる暇がないことは知っていた。
「ウミ!!」
森を抜けてすぐに見つけた。
ウミは、うつ伏せに河に沈んでいた。
なんで、と、体を見ると驚くほどのあらゆる重りがジャケットに入っていた。金属類などをかき集めたみたいだ。
ウミはその影響で、ずん、と重かった。
でもガムテープでしっかりからだごと巻かれていて、そのままあげる他なかった。
だけどウミはとても軽かった。なぜかはすぐに予想がついた。
(こいつ…いつも飯を食っていないんだ。)
最近痩せていると思っていた。でもそこまで気づかなかった。
綺麗な水だったからすぐに見つけられた、それが不幸中の幸いだった。
俺はすぐにウミを助けた。
ウミは、瞳の光を失っていた。どこかを、ただぼうっと、眺めていた。
「ウミ!ウミ!」
俺は叫んだ。
汗と混じり、涙がでてきた。
真っ黒い光を失った目に、冷たい体がより一層悲しげだった。
でもウミは死んでいない。息はないけど心臓は動いていた。
俺は人工呼吸をしてウミを必死に助けた。
セラにはなにもするなと伝えた。
勝手に俺がそう思っただけだけど、ウミが、そう言っていた気がした。
そして、ほんのほんの、とても少し、ウミの口角が上がった気もした。
「げほっ、げほ、っ…」
ウミはその時、息をふきかえした。俺はとんでもない安堵感に包まれた。
ウミははぁ、はぁと大きな息を繰り返した。時々息が吸えなくなるのか、息をつまらせた。
「マイ…か…?」
「ウミ!!」
俺は涙が止まらなかった。ウミ、ウミ、と何回も叫んだ。
「げぼっ、おぇ…っはぁ、っ、」
ウミは水を大量にはいた。よかった、ウミは助かった。でも表情はまるで死んでいる。
「ウミ、なんで…」
ウミは息をきらして真っ黒い瞳をして言った。
吐き気があるのか、口元をおさえ、気分が悪そうだった。
「俺がいることに、意味はなかった。例え俺がいてもいなくても世界は変わらない。だったら死んでもいいはずなんだ。それにマイだってセラだって…俺を助けようとしてくれなかっただろ…。まあ、いいんだよ、俺はそんなの期待しちゃいけなかったんだから。…死のうと思ったんだよ。何回も、やめようとしたけど結局、死のうかなぁ、って…。」
俺はかける言葉も見つからなかった。この時初めてウミを傷つけていたことを知った。
「中途半端に助けないでよ。ますます死にたくもなってくるよ。」
ウミはちからなくいった。そして少しだけ空っぽの胃から胃液を吐いた。おえ、と、苦しそうな嗚咽が聞こえて、耳を塞ぎたかった。
でもこれは忘れてはいけない。だから俺も苦しいけど、もっと苦しそうにしているウミの嗚咽を聞いていた。
「……」
俺はなんと言えばいいのか分からなかった。でも、このままだとまた…。
「ごめんね、ウミ…」
気づくと涼しい風に乗ってセラが来ていた。
座り込んでいるウミを正面から抱擁し、静かな声でいった。
ウミにはなんの感情もわかないようだった。
セラは目を閉じていた。金髪の長い髪を2つにまとめている。
揺れる毛束とセラの真剣な優しい表情にまた、きゅんとする。
「ウミ、私は、ウミになにも言えない。私はウミと同じ状況にあった訳じゃないからね。ごめんね。だけど、ウミに生きててほしいとは思うよ。ウミがいることにね、意味がないことはないんだよ。私もマイもウミが大好きだから。」
ウミは初めて心が動いたようだった。目が揺らいだ。
「意味がない人間だよ、俺は。」
泣きそうな目でウミはそう言った。
「きっとね、みんなそうなんだよ。人が1人いなくなったって、人類からすればどうってことない。でも私は、マイは、悲しいんだ。ここに、既に2人、ウミがいなくなったら困る人がいる。世界にとってウミがいる意味がなくたって、生きてていいんだ。」
ウミは初めて瞳に光を見せた。
そして初めて泣いた。
大きな泣き声だった。
セラにしがみついて、子どものようにないた。
「うぁ、うっ…っ、..」
俺も泣いている。
嗚咽を漏らさないように、しっかり口を閉じて。
「マイ…セラ…ごめん。」
俺とセラの方を向いていつものようにへらっ、と笑った。その笑顔に安堵する。
「俺、こそ、ごめんな。もう少し、かける言葉、あったよな…。ほん、とに…ごめん…。」
泣いて、ほぼ話せなかった。セラは涙1つ見せなかった。そして、
「ウミ、生きててくれて、ありがと!それに…これからも頑張ろーね!」
ピースをして笑った。ウミも腫れた目で、いつも通りにへらっと笑った。