テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
俺はマイの頭をポンと叩く。
「そういうつもりじゃねえよ。俺が高いボトルを入れてやるんだから、暫くは”そういう事”を止めな。」
マイはポカンとした表情を浮かべてこちらを見る。そして、みるみる内に顔を歪ませて、今にも泣きだしそうな表情になった。
「ねぇ……なんで……? 私、そんなに魅力ない……?」
「逆だよ逆。マイは普通に話をしているだけで楽しいし――つまり、一緒にいるだけで十分に魅力のある女性なんだ。だから、このお店を辞めて欲しくないし、もっと健全な形で続けて欲しい。」
そう、マイには魅力がある。人を引き付けるカリスマ的な雰囲気も――。だから、身体を使う必要なんてないんだ。
「でも、私は一番になれないから……。このお店にはアイさんやミィみたいな魅力的な女性が沢山いる。そんな人達に太刀打ちするには身体を使うしかないじゃない!」
俺は一瞬「一番にならなくても、マイは十分魅力的なんだから良いじゃないか。」と言いそうになり言葉を飲み込む。一番になりたいという気持ちは痛いほど良く分かるからだ。
俺はWEB小説サイトで掲載していた作品を、編集者さんに拾い上げて貰いデビューしたラノベ作家だ。WEB掲載していた頃は喉から手が出る程、ランキング1位を欲していた。「星の数が多いんだから良いじゃないか。」「作品フォロー数が多くて羨ましい。」と散々言われてきた。実際、俺も執筆を始めた頃はランキング1位を目指している人を見て、「十分評価されているのになんて強欲な人なんだ。」と思っていた。
しかし「貴方の順位は何番です。」とランキングが表示されると、自分よりも高い順位の作品があることに耐えられなくなるのだ。それはきっと博巳も――いや、ランキングに乗っているWEB小説家全員が同じ気持ちだろう。
WEB小説サイトとは、「俺の作品が一番面白いはずなのに、何で順位が上がらないんだ……。」と悩み、頭を抱え、悪態をつきながらも書くことしか出来ない――そんな傲慢で強欲な人達のみが生き残る戦場なのだ。
そして、マイのいるコンカフェ業界も同様なのだろう。キャバクラと違い売り上げランキングがあるわけではないと聞いているが、各キャストが「月何本のボトルを入れて貰ったのか。」「どんなシャンパンを入れて貰ったのか。」などが分かるはずだ。同じ店で働いている以上、意識をするなと言う方が無理な話だろう。
そんな彼女――いや、彼女達に「一番になる必要なんてないだろう。」などと、無責任な言葉を投げかけられる分けがない。
「俺は……俺の中ではマイが一番のコンカフェ嬢だと思っている。何というか、一番気楽に話が出来るんだ。だから、俺にとってはマイが一番だし、俺と同じ気持ちの人はたくさんいると思う。」
これは今、俺が感じている本音だ。
アイさんは完璧なコンカフェ嬢だと思う。しかし完璧がゆえに、お店で対峙すると少し緊張感がある。
一方でミィの場合は距離感が近すぎるのだ。普段から俺の部屋に入り浸っているからか、お店に来て、お金を支払っているのに特別感が無い。
友人的な雰囲気を感じながら、しっかりとした特別感を感じるマイの距離感が俺にとっては一番心地が良いのだ。
マイは俯いたまま黙りこくってしまった。普段とは全く異なるマイの雰囲気に俺も黙っていると、マイは一言だけ口を開いた。
「SNSを表示して……。」
俺はスマホで自身のSNSの画面を表示しマイに渡す。マイは俺のスマホを素早く操作したかと思うと、画面を消して俺の胸元にスマホを押し付けた。
「今度DM(ダイレクトメッセージ)を入れるから……。」
それだけ呟いて席を立った。そしてカウンターのミィの元へと近づいていく。ミィは今にも俺に殴りかかりそうな物凄い形相でこちらを見ているが……まさか……。マイはミィの表情を見ることなくミィの手を叩き、そのままカウンターの奥へと入って行った。
ミィは一瞬驚いた表情を浮かべたが、再び怒りに満ちた表情を浮かべ俺の前に立ったかと思うと、これ見よがしに溜息を吐き、テーブルを挟んだ対面にドスンと座った。
今すぐにでも帰りたい気持ちに心の中を支配されるが、ミィはお隣さんなので、このまま帰ったら後が怖い……。俺は可能な限り爽やかな笑顔を浮かべながら「やあ!」と挨拶をすると、ミィは俺の挨拶を完全に無視する。
「一番高いシャンパンを入れるってどういう事!? 脳みそまで下半身に支配されたって分け!?」
「そう言う分けではなくて……。」
「言い訳は聞きたくない!」
(一番高いシャンパンを頼んだ理由を聞いてきたのに、理由を話そうとしたら、言い訳は聞きたくないって……理不尽過ぎませんか?)と思うのだが、もう今のミィに対して何を言っても無駄なのだろう……。縋るような思いでアイさんの方を向くが、アイさんは優しい笑顔を浮かべながらこちらを見るだけだ。
もしかしてアイさんも、俺がマイに枕を強要するためにシャンパンを頼んだと思っているわけじゃないよな……?
コメント
1件
うわ……この話、すごく胸に刺さりました。主人公がマイに「身体使わなくていい」って言ったところ、すごく優しくて、でもちゃんと本音で語ってて。ランキングへの執着を自分の経験として重ねるところ、読んでて「わかる」って思いました。ミィの怒りもリアルだし、アイさんのあの微笑みが逆に怖い(笑)。DMくれるって言ったマイの行動にドキドキしました。続きが気になります🥀
#大人の恋
月詠 涼
1,024
榎本くもり
2,133