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「9時まであと5分だから」
「ははっ、自然乾燥中か?」
ソファーでゴロゴロする千愛を覗き込んだ夫の向かいに立つと…髪の匂い?
髪から違う香りがする、と思った。
前にも一度そんな気がしたけど、洗濯するときには気にならなかったので、気のせいだと完結させていた。
でもその時も髪だったら……
私は千愛の前で、ご機嫌な夫に聞いてみる。
「パパ、髪…いつもの香りと違うわね」
「ママも思った?私も変な匂いって思った」
顔を覗き込まれていた千愛も思ったのか…
慌てて千愛から離れた夫は、私と千愛を交互に見て
「あああ…飲食店街で、なんか、あの、ヘアワックスの試供品もらったから…」
と、髪を撫でた。
「そう……千愛の好みでもなさそうなヘアワックスね。捨てておこうか?」
「あああ…もう捨てたから…大丈夫だ、千愛」
私から目をそらして千愛に言った夫は、明らかに挙動不審だと思う。
「そう。ワックス、つけてないみたいにさらっとしてるタイプ?外も暑いのに」
「そんなことない。風呂入るっ。千愛、寝ろよ」
「暑いよね、ママ。明日プール出来たらいいなぁ」
「プールがいいわよね。てるてる坊主、作ればよかったんじゃない?」
絶対に怪しい。
千愛とほとんど話さないままお風呂なんて、怪しい。
え…っ………後ろ……
部屋を出る夫の後ろ姿は、シャツの襟の真後ろが整わず、歪んだ折れ方になっている。
朝は絶対にそんなことなかった。
え…やだ……スラックスの右後ろが、微妙にソックスに挟まっている。
この前、気のせいだと思った香りの日は、帰宅が遅くもなかった。
今夜は飲み会だと聞いていて、9時に帰宅という一次会だけなら辻褄の合う時間。
こういう場合、妻というのは夫に対して何と言うのが正解なのだろう?
浮気?
そう聞けたら、一番ラクかもしれない。
けど、私がそんなこと聞けば、名前を呼んだ時以上に激ヅメされそうで難しい。
だからといって、千愛がいる前で、そんなこと聞けるはずもない。