テラーノベル
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午後のグラウンドには、
朝以上の熱気が満ちていた。
体育祭最後の大種目――全員リレー。
各クラスの総合力が試される、
まさに締めくくりにふさわしい競技だった。
ひなは自分の胸に手を当て、
静かに深呼吸をする。
これが、今日最後の出番。
そして、
綾小路くんと同じレースを走る最後の競技でもあった。
「ひな、緊張してる?」
軽井沢恵 が隣に並ぶ。
「うん……でも、頑張りたい」
「それで十分!」
桔梗ちゃんも明るく微笑んだ。
「最後まで楽しもうね〜!」
二人の言葉に、
ひなはしっかりと頷く。
走順表を見る。
ひなのすぐ次に走るのは、
綾小路清隆 だった。
つまり――
ひながバトンを渡す相手は、
綾小路くん。
その事実だけで、
胸の鼓動がさらに速くなる。
「ひな」
呼ばれて振り向くと、
綾小路くんが立っていた。
「さっきの障害物リレー、見ていた」
「……うん」
「最後まで走り切ったな」
短い言葉。
けれど、それは彼なりの最大級の称賛だった。
「今回も同じだ」
彼は静かに続ける。
「順位は気にしなくていい。お前の走りをすればいい」
「……うん」
「バトンを受け取るのは俺だ」
その一言に、
ひなの胸の奥がじんわりと温かくなった。
「だから安心して走れ」
競技開始。
各クラスの代表が次々とバトンをつないでいく。
歓声と応援がグラウンドに響き渡る。
Dクラスも順調に順位を保っていた。
そして――
ついに、
ひなの番がやってくる。
「天白さん!」
前の走者からバトンが渡される。
ひなは全力で駆け出した。
風が頬をかすめる。
観客席のざわめきが遠くなる。
見えるのはただ一人。
バトンを待つ、
綾小路くんの姿だけ。
足は重い。
呼吸も苦しい。
それでも、
彼のもとへ走ると思うだけで、
不思議と力が湧いてくる。
あと少し。
あと数メートル。
「綾小路くん!」
名前を呼ぶ。
彼は無駄のない動きで走り出し、
ひなの速度にぴたりと合わせた。
そして――
二人の手の中で、
バトンが確かにつながった。
ほんの一瞬、
指先が触れ合う。
それだけで、
胸がいっぱいになる。
「任せろ」
彼の短い声が耳に届いた。
次の瞬間、
綾小路くんは驚くほど滑らかなフォームで前へと飛び出していった。
ひなはその背中を見つめながら、
その場に立ち尽くした。
自分の想いを込めたバトン。
それを、
誰より信頼する人が受け取ってくれた。
その事実だけで、
涙がこぼれそうになる。
「ひなー! すっごくよかった!」
恵ちゃんと桔梗ちゃんの声が聞こえる。
だが、
ひなの視線はずっと、
遠ざかっていく綾小路くんの背中を追っていた。
静かで、頼もしくて、
どこまでも安心できるその背中を。
想いをつなぐバトン。
それはただの競技用の筒ではなく、
信頼と愛情の証だった。
ひなから綾小路くんへ。
二人の間で確かにつながったものは、
誰にも見えなくても、
確かに存在していた。
コメント
1件
うわああ、めちゃくちゃ熱い展開でしたね…!体育祭のクライマックス、ひなちゃんが綾小路くんにバトンを渡すために全力で走るシーン、読んでいてこっちまで息が止まりそうになりました。「任せろ」の一言に込められた信頼関係がすごく伝わってきて、じーんときました…指先が触れた一瞬の描写も、すごく丁寧で心に残りました。素敵なエピソードをありがとうございます!
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