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好きだぁぁぁぁぁぁぁああッ!!!!!
え、最高すぎッ!! 鏡花ちゃんの小説読んだ事なかったけどめっちゃ好き! スイ星ちゃん本当に凄い!!
⚠︎敦鏡つよめ
⚠︎太宰さん暴走
⚠︎全員キャラ崩壊
⚠︎ギャグとシリアス混じり混じり
⚠︎奇病(殺人病)
⚠︎色々すごい
それでも大丈夫な人は
どうぞ⇩⇩⇩
きっかけが何なのかは憶えていない。
只、気付いたら私は布団から起き上がっていて、押し入れの中で眠る敦の躰の上に乗っていた。
夢を見ているような感覚だった。
謎の浮遊感の中、私の意識で躰が動いていないような感じ。魂と躰が別の場所に隔離されているような感覚。
そして──
私の両手は、敦の首に触れていた。
まるで此れから首を絞めるかのように、頸動脈の部分にしっかりと親指を当てている。
動きが止まった。
私の意識が躰に戻ったのだ。
「えっ」と声がもれる。
手が震えていた。
私は何を……?
そんな疑問が、脳を埋め尽くす。
「ん……っ?」
敦の睫毛がぴくりと揺れた。そしてゆっくりと目を覚ます。
「あれ、鏡花ちゃん……?」
ぼやけた視界で敦は私を見た。
そして──
「えっ!?鏡花ちゃんッッ!!?」
驚きの声を上げて、敦は後退りして頭を壁にぶつけた。
痛っ!と声を上げる。頭を抱えていた。
「大丈夫?」
「ぇ、あ……うん、大丈夫だけど……」
目をぱちくりとさせながら敦は私を見る。「どっ…如何して此処に……?」
其の言葉に、私は一度考えた。
確かに其の疑問の通りだと思った。
何故──私は此処にいるのだろう?
開いたままの襖から、私が何時も眠っている布団を見る。
起きてたたみもせず、そのままの状態の布団だった。そして開いた襖、敦へと私は視線を移す。
私が敦の所へ来た。──其の回答が妥当になる。
「えっと、其の……」
妥当な回答だけれど、何故来たのかと云う理由が判らない。
気付いたら此処に居たなんて云ったら、きっと敦は心配する。
何か……。
そう考えていた瞬間、押し入れ──否、部屋全体が光に包まれる。雷だと云う事を、瞬時に私は理解した。
其の数秒後、空間が何かに依って裂かれたような悲痛な轟音が響いた。
心臓が躰から飛び出たかと思うほど私は驚き、頭の上にある中段に頭をぶつけそうになる。
「凄い音だったね……近くで雷落ちたのかな?」
呟くように敦は云った。けれど私はそれどころでは無い。
雷……、ッ…。
寝間着の裾を震える手で握り締める。
そんな震えた私の手の上に、敦は優しく自分の手を置いた。
「そっか鏡花ちゃん雷嫌いだもんね、確かに押し入れは音がこもって聞こえるから彼処で寝るよりは善いと思うけど……」
きょろきょろと辺りを見渡し、何かに頭を悩ませながら敦は云った。
私が敦の所に来たのを、雷が鳴る所為だと思ったのだろう。
触れた敦の手から温もりを感じる。
「ぁ、敦……」
「ん?」
何かが咽喉で止まる。
息を吸って、私は云った。
「一緒に…………寝た、い…」
敦が目を見開く。そして数秒後、「えっ!?」と声を上げ乍ら顔をブワッと赤くした。
何故敦は顔を赤くしたのか不思議に思い私は首を傾げる。
「ぇっ、あ……そうだよねっ、怖いからだよね!?」
「…?うん」
何の確認…?
「あははー、そうだよね〜!」
自分に云い聞かせるように敦は云って、逃げるように押し入れから出た。
そして何故か私から距離をとる。
「えっと、でも鏡花ちゃん……幾ら何でも一緒に寝るって云うのは……」
苦笑いをしながら敦は云う。
「其れにそんな事したら多分、明日与謝野女医あたりにシバかれるし……」
「…?何故?」首を傾げ乍ら私は訊く。
「とっ──兎に角!!一緒に寝るのは流石に……」
私から視線を逸らし乍ら敦は云った。
「………判った」
小さく呟く。
其れに敦は何かと葛藤するかのように呻き声を上げた。
「………………………じゃあ、鏡花ちゃんが寝るまでそばに居てあげるから……其れで善い?」
敦の言葉に私は深く頷く。
そんな私に、敦は笑みを溢した。
布団の上に横になる。隣には敦が座っていた。
「…布団、持ってきたら?」
「えっ!?」私の言葉に敦は慌て出す。「さ、流石に……」
「………」
私はあつい視線を敦に送った。
敦は脳内で何かを目まぐるしく考えているかのように、目を回す。
そして数秒程固まったあと、敦は息を吐いた。そして何時もの優しい笑顔を浮かべる。
「じゃあ……今日だけ」
「うん」
敦の笑顔につられ、口元が綻んだ。
あの後、敦は押し入れから布団を取り出して、私の横に敷いた。同じように横になる。
其れまでに何度か雷が落ち、雷鳴が鳴り響いたけれど、敦が「大丈夫?」と直ぐに訊いてきてくれたおかげで、安心できた。
「鏡花ちゃん寝れそう?」
不意に敦が訊いてくる。
私は天井を見上げながら「判らない」と云った。
敦はくすくすと笑みを溢し乍ら「僕も」と云う。
「じゃあ子守唄でも歌ってみようか?」
其の言葉に、私は頷く。
小さく優しい声で敦は歌い出した。
耳に優しい……落ち着く…。
瞼がゆっくりと下がっていく。私は眠りについた。
***
武装探偵社事務所の扉を開ける。
「おはよーございまぁ〜す!」
何時ものテンションで、私は事務所に入った。
「遅刻ギリギリだぞ太宰」
そう云って、ギラリと眼鏡を光らせて私を睨んだのは、理想という手帖を持った国木田君だった。
「まぁまぁ国木田君、遅刻して居ないのだから善いだろう?」
「遅刻ギリギリが問題なんだ!!」
国木田君が私の首根っこを掴み、くどくどと説教をしながら私の首を揺らす。
其の振動が楽しく、あははと私は笑った。
刹那、振動が止まる。間を置かずに国木田君は云った。
「そうだ太宰。道中で敦と鏡花を見なかったか?」
「敦君と鏡花ちゃん?見てないけど……」
「そうか」
国木田君はそう云った後、私の首から手を離して、珍しいなと呟く。
私は脳裏に疑問符を浮かべ乍ら、敦君と鏡花ちゃんが何時も使っている執務席に視線を移した。
二人の姿は無い。
まだ出勤して居ないのだろうか…?
確かに珍しい、何時もなら鏡花ちゃんの愛妻弁当ならぬ愛妻朝食を食べて敦君と二人で出勤してるだろうに……。
「オイ太宰、如何せ貴様は仕事をせんのだから二人を起こして来い」
何時の間にか自分の業務席で仕事をする国木田君に、指を指されて云われる。
「えー、国木田君が行けばいいだろう?」
「佳いからさっさと行け!」
「ちぇ……はぁい…」
***
あれから私は社員寮に向かった。
敦君と鏡花ちゃんが一緒に使っている部屋の前で立ち止まる。
鍵は閉まってるなぁ……。
ちらっと地面を見渡す。何処にでも落ちているような何の変哲もない針金を手に取って、扉の鍵の形状に合わせて私は針金を少し曲げる。
鍵穴に差し込んで回した。ガチャっと、鍵が開く乾いた金属音が聞こえる。
小さく笑みを溢し、ドアノブに触れ、思い切り開いた。
バンっと音が鳴る。
「グッドモーニング!敦君!鏡花ちゃん!太宰先輩が起こしに来て…あ……げ……………え?」
目の前の光景に目を見開き、言葉が途切れる。
上に伸ばしていた右手がゆっくりと下がっていった。
「っ、……うぅん?」
敦君が目を覚ます。
然し私は其れどころではない。何なら敦君を覚まさせてしまった事に後悔すら覚える。
目の前には──添い寝をする敦君と鏡花ちゃんが居た。
「あれぇ、?太宰さん……?」
私に気付いた敦君が、躰を起こし、目を擦りながら私の名を呼ぶ。
「ご免ね敦君。如何やら私、来るタイミングを間違えてしまったみたいだ」
外に出て、扉を閉めていく。
「否、何でですか!?」
敦君は焦ったように私を止めようと立ち上がる。走ってきて、私が閉じようとしていた扉を止めた。
扉を閉めようと、腕に力を入れる。然し敦君は反対方向に力を入れた。
敦君は若く、最近は国木田君から武術も習い始めている為、筋肉が佳くつき始めているが、私とて此処は負けられない。
後輩に恥をさらしては、先輩として面目がたたないからだ。
とは云っても、するならするで相談して欲しかったな……私の方が先輩だし(色んな意味の)。
そんな事を思い乍ら、扉を閉めるのに全力をそそぐ。
「大丈夫だよ敦君……国、木田君にも……上手く、誤魔化して…おく、から……」
左右に引っ張られる扉が、ギギギッと軋むような音を立てて震えていた。
「誤魔化すって何ですか!?如何して閉めるんですかーっ!!?」
***
「只今……」
「太宰か、遅かったな。敦達は起こせたか?」
「ぁ、うん…」
「…?」
扉の奥で太宰さんと国木田さんが何かを話している。
先刻の力勝負で少し疲れ、僕は上手く聞き取れなかった。
不意に、鏡花ちゃんが僕の服を引っ張った。
「大丈夫…?」
疲れてるのが顔に出ちゃってたから心配してくれたのかな…?
其の事に嬉しさを覚えると共に、申し訳なさを感じ、「大丈夫だよ」と答える。
然し鏡花ちゃんはまだ顔を曇らせて僕を見た。
苦笑する。
「お前達、今日は随分遅かったな」
国木田さんが話しかけてきた。
其の通り、僕は武装探偵社員になってから遅刻はした事が無い。鏡花ちゃんが来てからもそうだ。
朝目を覚ましたら温かい御飯とともに「おはよう」と云ってくれる。
だからこそ珍しいと国木田さんは思ったのだろう。
「ちょっと国木田君、やめたげなよー」
にやにやとした笑みを浮かべ乍ら太宰さんが云う。其の笑顔に、何だか厭な予感を感じ取った。
「遅くなるのもしょうがないよ。二人は昨夜、大人の階段をのぼったのだからね」
全部わかってるよ、とでも語りかけるような目線を太宰さんは僕と鏡花ちゃんに送ってくる。ウインクが何処かうざかった。
「「は?」」
僕と国木田さんの声が重なった。
「何の話ですか太宰さん……」
呆れた視線を太宰さんに向ける。すると太宰さんは意外だとでも云うように目を丸くして、そして云った。
「えっ?付き合ってるからシたんじゃないの?」
目を見開く。
一瞬、太宰さんが云った言葉の意味が判らなかった。
其れは国木田さんも同じで、目を見開いている。鏡花ちゃんは首を傾げていた。
そして──
「はいぃぃぃっ!!?」
僕は声を荒げる。
「如何云う事だ敦ィ!!」
国木田さんが僕の方を向いて云ってきた。
「僕も判りませんよ!太宰さんが勝手な事を云ってるだけです!!」
「えー事実じゃないのかい?」
「何を見たら其の発想に至るんですか!?」
「だって二人して一緒に寝てたじゃない」
太宰さんが僕と鏡花ちゃんを指す。
国木田さんに至っては、見ているのは僕達じゃなく宇宙だった。
「何時もは押し入れで寝てるのだろう、敦君。だのに何故、鏡花ちゃんの隣で寝てたんだい?」
たっ、確かに寝てたけど………。
「其れは……」
「ハッ────真逆、寝てる間に!?流石に其れは佳くないよ敦君!!」
「だから違いますって!!」
そんな僕達のそばに、谷崎さんとナオミさんが近付いてきた。
「何の騒ぎですか…?」
「如何かしましたの?」
「そ、それが……」
勘違いだと、僕が谷崎さん達に云おうとした瞬間──
「敦君と鏡花ちゃんが一夜を共に過ごしたんだって」
後ろから爆弾(発言)が投下された。
谷崎さんが力強く僕の肩を掴む。
「ぁああぁ敦君、其れ本当!??」
何時もの谷崎さんとは思えない程の気迫に、思わず僕はたじろぐ。
「ちっ──ちち因みに敦君は上か下どっt──」
「敦さん!其れ本当ですか!!?」
谷崎さんを物理的に踏み越えて、ナオミさんが訊いてきた。
僕の知らない単語がつらつらとナオミさんの口から発せられる。
恐らく、此れにも表してはならない言葉だろう。
「ぇ、いや…あの……」
目を回し乍ら、兎に角、訂正をしないとと考える。
刹那、乱歩さんが声を掛けてきた。
「どしたの皆?」興味なさげに訊いてくる。
「超推理してみますか?」太宰さんがにやにやしながら云った。
この人〰︎〰︎っ!
乱歩さんは暫く黙り込んだ後、懐から黒縁眼鏡を取り出した。
何時もの乱歩さんなら絶対にしない行動だ。
社長もだが、乱歩さんまで何故こんなにも鏡花ちゃんに甘いのだろう……。
「異能力──────────超推理」
数秒後、乱歩さんが目を見開く。現状を理解したのだろう。
乱歩さんは名探偵。きっと直ぐに誤解を解いてくれr──
「敦」
静かな声で乱歩さんは僕の名を呼ぶ。息を吸って、そして云った。
「付き合ったなら先ず僕と社長に報告しろ、僕に報告もできなきゃ漢としてやっていけないぞ」
お兄ちゃんじゃんッッ!!
確かに兄弟みたいだなって思ってたし、社長は判るけど、乱歩さんお兄ちゃんじゃんッ!!!
「皆さん如何したんですか?」
賢治君が純粋に光る瞳を揺らしながら、首を傾げる。
「アンタはまだ来なくて善い領域だよ」
与謝野女医が云った。手にはナタが握られている。僕の死亡は決まったようだった。
「判りました!」
賢治君がにっこりと笑って手を上げる。
もう面倒くさくなり、一通り全員の勢いが止まってから訂正しようと思っていた其の時──
「──違う」
透き通るような彼女の声が、事務所に響き渡った。
全員が喋るのを止め、動きが止まる。
「昨日、雷が落ちてて怖かったから一緒に寝てもらっただけ」
朝おはようと云う当たり前の動作ように、特に大きな感情がこもっていないような声で、鏡花ちゃんは云った。
訂正してくれたのは嬉しいんだけど……何かモヤモヤが…。
「なぁんだ、そうだったの?」
太宰さんが僕に云う。「まぁでも、流石に夜の先輩こと私には相談はしてね」
「何ですか夜の先輩って……」
他の皆さんも、何故か胸を撫で下ろしている。然し乱歩さんだけは「詰まんないなぁ」と口にした。
乱歩さん絶対判ってたな……。
何はともあれ、漸く静まった空間に、僕は疲労を吐き出すようにため息を吐く。
「大丈夫?」
鏡花ちゃんが声を掛けてきた。
「うん、大丈夫だよ。鏡花ちゃんこそ有難う」
「如何いたしまして」
小さく口元を綻ばせて、鏡花ちゃんは云う。
「ところで……」
「ん?」
「何故、貴方は怒られていたの?」
鏡花ちゃんは首を傾げて訊いた。
其の純粋な問いに、僕は頭を悩ます。如何にかして、脳から答えを絞り出した。
「…………………其れは鏡花ちゃんがまだ知らなくて善い領域だよ……」
***
翌日──。
私と敦は仕事を無事終了させ、武装探偵社へと向かっていた。
「何事も無くて佳かった……」
口先から言葉を溢す。
「そうだね、鏡花ちゃんも沢山手伝ってくれて有難う!」
敦が笑顔で云う。其の言葉に返事をしようと口を開いた瞬間──
猫が横から飛び出してきた。
「…!」
「わっ!」
猫は私と敦の前を通り過ぎで、素早い速さで道路へと飛び出した。
トラックが道路を走り、猫に近付いていく。死がそばにある事に、猫は其の事に気付いていなかった。
私は目を見開く。
猫が飛ばされて、血が舞い上がる。そして一つの小さな命が消える。──そんな光景が脳に浮かび上がった。
只の妄想に過ぎない。
それなのに私は──
「危ないっ!!」
敦が脚の一部を異能で虎化し、道路に飛び出して猫を捕まえる。そして直ぐに跳んで、道路を出た。
一瞬の事に、頭が直ぐに追いつかない。けれど判ったのは、敦が猫を助けたと云う事。
「敦…!」
私は敦のそばに駆け寄る。「大丈夫…ッ?」
「うん、大丈夫だよ」
そう云って、敦は私を安心させるように笑った。
猫も敦も無事、怪我はしていない。其の事に、私は安堵する。
刹那、猫が敦の腕の中から飛び出した。
裏通りを走って行く。
「もう道路に飛び出しちゃ駄目だからなーっ!」
猫が走って云った方へと、敦は声を張って云う。
「其れじゃあ、帰ろっか鏡花ちゃん」
「うん…」
私と敦は武装探偵社へと再び歩き出す。
あれは只の妄想に過ぎない。
「…………」
でも────
──見てみたかった……。
***
何時ものように、私は川を流れていた。
今日は天気が良く、川は丁度善い冷たさである。
此れで美女と心中できたらなぁ……。
そんな事を思いながら川を流れていると──通り過ぎた橋の上に、鏡花ちゃんが立っていた。
おや、一人とは珍しい。
横になっていた体制を直し、その場に浮かぶ。
「おーい、鏡花ちゃ〜ん!」
私の声に彼女は気付き、橋の欄干に手を置いた。
「何してるの?」
「何って入水だよ、入水〜」
へらっと笑顔を作る。「今の気温に此の水の温度は気持ちいいよ」
「そう……」
うーん、何とも思わないような発言……流石鏡花ちゃんだ、私の心にぶっ刺さるよ……。
「それで──死ねそう?」
鏡花ちゃんの其の言葉に、私は思わず目を見開いた。
こんな言葉を彼女の口から聞かれたのが初めてだった。とは云え、彼女がこんな言葉を云うとも思ってもいなかった。
「…………うーん、そうだねぇ」
水面に視線を移す。
青年の顔が浮かび上がった。小さく笑みを溢す。
「今日はしゅっぱいが多そうかな?」
「…そう………」
鏡花ちゃんが間を置く。
何の間だろうと素直に思った。はっきり云って、こう云う空間は少し苦手だ。
何を云ったら相手にとって正解なのかが、私には判らないからだ。人間が理解できていないのだから当たり前だろう。
だからこそ、私は黙る事しかできない。そして、其の地獄の空間は何分も続いてしまう。
私にできるのは、相手が疾く言葉を発してくれるのを願う事のみだ。
「なら────」
鏡花ちゃんが口を開いた。息を吸う。
「何だい?」
と私は訊いた。そして、私は再び目を見開く。
彼女がした其の一瞬の表情に、私は見覚えがあったからだ。
「………、…ぁ……」
自らの口を覆い、鏡花ちゃんは恐怖地味た声をもらす。そして走り出した。
「えっ!?鏡花ちゃん!??」
水に浮かんでいる為、鏡花ちゃんの姿が直ぐに見えなくなる。
そして尤も不思議だったのは、あの表情と雰囲気に、見覚えがあった事だ。
脳に流れ込む追憶はノイズのような耳障りな音が響く。
視界に、赭色の髪が入った。
『来ンな。どっか、行きやがれ太宰…ッ』
何かを堪えるように、絞り出した声で彼は云う。
『疾くッ、俺のそばから……』
『うん、そうだね』
僕はそんな彼を見ながら静かに云った。
彼の手は酷く震えている。そして瞳は何かに飢えていた。
細めた目で彼を見る。
『じゃあ何故──』
『僕の首を絞めてるの?』
『ぇ?』
人の死を求める──殺人を愛するような狂気に満ちた其の顔で、中也は絶望の声をもらした。
映像が途切れる。
私は瞼を閉じて、水の中に沈んでいった。
口から空気が溢れ出る。白い気泡は美しく見えた。
「…………」
真逆、ね──。
***
何かが怪奇しい。
魂がそう囁いた。
何かが怪奇しい。
感覚がそう云った。
何かが怪奇しい。
何かが──
目の前に、死に掛けのカラスがいた。外傷はない。寿命だと云うのは見て判った。
カラスは此処で、只々死を待っているのだ。
そして気が付いたら──短刀の鞘を抜いていた。
また、あの浮遊感。自分の意識で躰を動かしていないような感覚。
私は短刀を振りかぶった。カラスの小さな命に、花をさかせる。赤く綺麗な花を。
短刀を振り下ろそうと力を入れた時──
「あっ!鏡花ちゃん!」
後ろから敦の声が聞こえる。
浮遊感が無くなり、躰に魂が戻ったようだった。
瞬時に剥き出しになった銀の刃を鞘に戻し、短刀を袖に隠す。
「次の依頼で一緒だから迎えに来たんだけど……」
振り返ると敦が気恥ずかしそうに頬を掻いていた。目を細める。
「ありがとう……」
私の言葉に、敦は優しく微笑む。
「そうだ、近くに美味しいクレープ屋さんがあるんだ。ほら、鏡花ちゃんが此の前食べてみたいって云ってたクレープだよ!」
「うん、食べたい……」
「じゃあ帰りによろっか!」
「……うん…………」
嗚呼────矢っ張り怪奇しい…。
***
また、あの浮遊感。
もう何がしたいのか。何をしたら駄目なのか、判らない。
只ひたすらに、何かを求めている。
短刀の鞘を抜く。刃は月光を反射に、鋭く光った。
これが血に染まる。
そんな想像をしただけで、全身に電気が走ったかのようにゾクゾクした。躰が仄かに火照る。
短刀を持つ反対の手で、私は押し入れの襖を開けた。
敦が小さく寝息を立てて眠っている。
ノイズのような耳障りな音が脳に響く、流れる映像は色褪せていて、彼は何度も刺され血に染まり、目は虚ろんでいた。
彼の死だ。彼を私は殺したのだ。なのに何故、私は笑っているの?
「……………」
只の妄想にすぎない。
なのに私は──短刀を振りかぶった。
──駄目ッ!!
何処からか、自分の声が聞こえる。浮遊感は消え、躰に魂が戻ったような感覚。
そして短刀が振り下ろされていた。
「っ!」
短刀を持つ右手の方向を変えて、私は左手の甲を刺した。
「──っ!!」
痛みよりも違和感が勝ち、気持ち悪い。そしてじわじわと痛みが全身に広がっていった。
同じように傷口からドクドクと血が溢れ出る。
「ッ、ゔ……」
湧き上がる衝動を痛みで抑制する。
ドクンッ
鈍い鼓動が躰中に響き渡った。
「ぁ……あ、ぁ…あぁぁ……」
膝を着いて畳と顔を合わせ乍ら、私は唸る。
血液が逆流しているかのようだった。躰は妙に熱く、あの衝動が何度も込み上げてくる。
気持ち悪い……。
「っ…ん?」
何処からか聞こえた其の声に、私は顔を上げた。
敦の睫毛が揺れている。瞼がゆっくりと開いた。
「……ぁ…れ…?鏡花ちゃん……?」
「…!」
起きて……。
「えっ!?鏡花ちゃん!!?」
目を見開いて敦はガバッと起き上がった。押し入れの中から出て来て、敦は行き場のない手を振る。
「どっ、如何して怪我!?凄い血が出てる!えっ、これ抜いちゃ駄目だよね!?あ!そうだ与謝野女医に!!」
落ち着きのない声で云って、敦は立ち上がった。
「直ぐ戻ってくるから!!」
そう云って、部屋から出ていく。
敦の姿が遠のいていくのと同時に、視界は赤く染まっていった。
ドクン!
鈍い鼓動が全身に響く。
目眩が襲い、五感を狂わせた。
行っちゃダメ。戻って来て。逃げて。疾く。戻って来て。何故逃げるの?戻っ。疾く逃げて。おねがい。しんで。ダメ。疾く逃げて。殺したい。殺し。逃げて。逃げて。殺したい。殺したい。だめ。やめて。逃げて。戻って来て。だめ。殺したい。殺す。にげて。殺す。殺す。だめ。殺す。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す。殺す。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したいっ。殺したい!殺したいッ!殺したい!!殺したい!!殺したい──!!!
***
振動と扉を強く叩く音が何処からか聞こえてきた。
「っ……」
私は浅い眠りから覚める。
時計に視線を移すと、深夜二時を指していた。
こんな時間に一体何だい…?
目を擦り、躰を起こす。
『与謝野女医!すいません!起きてください!!』
扉の外からこもった声が聞こえてくる。
敦君…?
私は立ち上がってドアノブに手をかけた。扉を開ける。
外に出ると、与謝野女医の部屋の扉を敦君が叩いていた。
「一寸敦君、一体如何したんだい?」
「あっ!太宰さん!」
不安混じりの声で敦君は私の方を向く。
「煩いぞ敦!!今何時だと思ってるんだ!!」
国木田君が部屋から出るなり怒鳴り声を上げた。
国木田君、君の方が煩い気がするよ……。
私は国木田君の方を向いて、口元に人差し指を寄せ、しーっと云う。
其れに気付いた彼は、はっと躰を揺らし「済まん……」と云った。
「……それで、こんな夜中に何をしてるんだ貴様は」
国木田君が敦君に訊く。
「じっ、実は……」
呼吸を震わせて、敦君は口を開いた。説明する為だろう。然し其れよりも疾くに、私は或る事に気付いた。
「敦君、私に説明するより彼女に説明した方が身の為だよ」
私はそう云って、敦君の後ろを指す。
「与謝野女医がお怒りだ」
其れを聞いた敦君は血相を変えて、恐る恐る後ろを向く。
其処には、ナタを持った与謝野女医が居た。
「解体手術か皮を全部剥がされる──何方が好いんだい?敦」
如何やら敦君の死亡フラグは無事回収されたようだった。
御愁傷様、敦君……。
まぁ夜分に女性を起こす精神力が素晴らしいのは認めよう。しかも与謝野女医だし……私や国木田君だって無理。
「ち、違うんですよ与謝野女医!!」
敦君は慌てて否定した。
「何がだい?」
「実は鏡花ちゃんが怪我をしてて!其れを治してもらおうと与謝野女医を起こしたんですっ!」
「鏡花が…?」
与謝野女医が目を見開く。私も国木田君も目を丸くした。
「敦君、レ◯プはまだ早いよ…」
「何時まで持ってくるんですか其の話!!違います!!」
軽くキレながら敦君は私の冗談を否定する。
「鏡花は何処に居るんだい!?」
「部屋の中にいます!」
そう云って、敦君は部屋の前に走る。与謝野女医が其れに続き、私と国木田君は後ろから覗き込んだ。
何処からか血の臭いがする。怪我をしたと云うのは本当らしい。
「鏡花ちゃん!与謝野女医を連れてきたよ!!」
そう云って、敦君は部屋の扉を開ける。
然し目に入った其の光景に、誰もが絶句した。
其処には──短刀を持って立つ鏡花ちゃんが居た。
短刀を持っていた事に驚いたのではない。
怪我をしていた事に驚いたのではない。
彼女が纏う其の異様な雰囲気に、驚いたのだ。
感覚が囁く。
此れはあの時と同じだ──と。
刹那、鏡花ちゃんが敦君の目の前に現れた。先刻立っていた場所から異様な速さで来たのだ。
鏡花ちゃんの光を失った瞳に殺意が宿る。
「っ!」
短刀が──敦君の首元目掛けて空間を割いた。
触れる寸前に、私は敦君が着ている服の衿足を掴んで後ろに引っ張る。
そして判ったのが、鏡花ちゃんが敦君を殺そうとしたと云う事だ。
鏡花ちゃんは其の勢いのまま部屋から出て、奥にあった金属製の手すりの上に飛び乗る。
何もかもが一瞬だった。間を置くこともない。
どろりとした視線が此方に向けられた。
何の感情も抱かない瞳。殺戮と鮮血を欲する冥闇の瞳。ぽっと頭に浮かんだのが、夜叉の姿だった。
刹那、短刀が空気を裂き、鮮血が舞う。
目を見開いた。
自分が斬られている事に、私は今漸く気付いたからだ。
何故──
「太宰さんっ!!」
「太宰!!」
国木田君と敦君が私の躰を引っ張る。
当たる寸前で私は鏡花ちゃんの攻撃を避けた。
「………鏡花ちゃん、如何して……?」
震えた声で敦君が訊く。
然し彼女は返事をしない。只其の場に立って──短刀を振り翳した。
拙い…ッ。
刹那──
「………、……て」
鏡花ちゃんの口先から声が溢れた。振りかぶられた短刀はおりてこない。
何かを堪えるように、短刀を持つ鏡花ちゃんの両腕が震えている。
全員が目を瞠った。
「に…げ、て…………………逃げて……逃げて…ッ!」
鏡花ちゃんの瞳に一瞬の光が宿る。
絞り出すような声で叫ぶ彼女の声が響き渡った。
「私のそばから────疾く逃げてッ!!」
───あとがき───
皆さん今日は!スイ星です!
今回は奇病!殺人病ですね!
確か実際はないんだっけ?
やっぱりテーマがあると描きやすいね〜、一万文字いったよ笑。
いやぁね、不思議な事に太宰さんの思考に毎回中也出てくるし、中也の思考に毎回太宰さん出てくるし………。
まぁ寝ても覚めても如何すれば中也に厭がらせをできるか考えてる宣言してるからね、太宰さんが笑。
しょうがない、しょうがない。
いや〜キャラ崩壊すごいねぇw。
太宰さんなんか頭いってんじゃん笑、後輩に云う事じゃないもんw。
マジで此処まで読んでくれた人、神だよ!
と云うわけで、読んでくれた皆様!本当にありがとうございます!
次の御噺でお会いしましょう。
ばいばーい!