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りんご三兄弟
この街の雨は、少しだけ不思議だ。
霧のように細かく、街中を銀色に染め上げる。
そしてその雨が降る時だけ、街の片隅にある
「古い時計塔」の下に、本来出会うはずのない二人の道が交差する。
若井は、ごく普通の大学生。
雨が嫌いだった。靴が濡れるし、気持ちが沈むから。
その日も、突然降り出した銀色の雨を避けるように、彼は時計塔の深い軒下に逃げ込んだ。
「……また、雨か」
溜息をついて空を見上げた若井は、
隣に先客がいることに気づき、息を呑んだ。
そこにいたのは、びしょ濡れのまま、楽しそうに雨空を見つめる不思議な青年・元貴だった。
「綺麗だよね。この雨は、
街の汚れを全部吸い込んで、
宝石にしてくれるんだよ」
元貴が歌うように言う。彼の声は、雨音に溶け込むほど透明で、けれどどこか寂しげだった。
若井は、気づけば見ず知らずの彼に言葉を返していた。
「宝石……。俺には、ただの邪魔な水滴にしか見えませんけど」
「ふふ、君は現実的だね。……僕は元貴。君は?」
「……若井、です」
それが、すべての始まりだった。
不思議なことに、元貴は雨の日以外、
街のどこを探しても見つからなかった。
晴れた日の時計塔には誰もいない。けれど、一度雨が降り出せば、彼は必ずそこに立って若井を待っているのだ。
若井はいつしか、天気予報を見ては雨の日を心待ちにするようになっていた。
しかし、若井はまだ知らない。
元貴が着ている薄いシャツの背中に、「雨に濡れるたびに消えかかっていく青い翼の紋章」があることに。
そして、時計塔の文字盤が、
雨の日だけ「逆回転」していることに—。
「ねえ、若井。いつか雨が止んでも、
僕のことを見つけてくれる?」
元貴のその言葉が、壮大な約束の伏線になるとは、今の若井には知る由もなかった。
コメント
1件
スゲー!!! 絶対面白い!