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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第2話 〚心臓が“何も見せない不安”〛(澪視点)
朝から、少し変だった。
胸に手を当てても、
心臓は何も教えてくれない。
嫌な予感も、
未来の映像も、
いつもの“あれ”が、何も来ない。
(……静かすぎる)
教室に入って、席に座る。
周りはいつも通りだった。
えまが騒いで、
しおりが注意して、
みさとが静かに笑っている。
海翔は前の席で、玲央と話している。
私が来たことに気づいて、軽く振り返った。
その一瞬も、
心臓は動かない。
前なら、
小さくでも反応していたのに。
(見せない、の……?)
怖くない、わけじゃない。
でも、何が怖いのかが分からない。
それが、一番落ち着かなかった。
授業中、黒板を見ながら、
何度も胸に意識を向ける。
ドクン、ドクン。
規則正しい音。
ただ、それだけ。
未来を拒否しているのか、
それとも、何も起きないのか。
判断できない。
昼休み、
えまたちと話しながら笑っても、
心の奥ではずっと考えていた。
(もし、何か起きたら……)
予知がないまま、
私は選べるのだろうか。
今までは、
見えてしまう未来に怯えていた。
でも今は、
見えないことが不安だった。
放課後、帰り支度をしていると、
海翔が隣に来た。
「今日、元気ない?」
その一言で、
少しだけ胸が揺れる。
でも、未来は見えない。
「……ちょっと考え事」
「そっか」
深くは聞かない。
その距離感が、ありがたい。
廊下を歩きながら、
私は思った。
心臓が何も見せないのは、
きっと“変化”だ。
良いのか、悪いのかは分からない。
ただ一つ言えるのは——
もう、前と同じじゃない。
私は、
予知がなくても進めるのか。
それとも、
何かを見落とし始めているのか。
校門を出る時、
冬の風が頬に当たった。
心臓は、静かなまま。
その沈黙が、
これから始まる何かの前触れだと、
私はまだ知らなかった。