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私とアリアの精神的ダメージを代償として、音声情報の商品は無事完成した。
内容的にはなかなか良く出来ていると思う。
しかし何と言うか、知り合いには絶対聞かせられない代物だ。
しかも……
「これ、最初の分は私達で売るんだよね」
何かを訴えるような目でアリアが尋ねる。
「文字で書いても読めない人が相手。だから最初は私達で声を出して売る。そうしないと知ってもらえない」
確かにその通りだ。
正し過ぎて反論出来ない。
「アリアとエリナには録音で頑張って貰った。だから基本的に呼び子は私がする。店を出す場所も確保済み。
でも私1人だと不安。だから手伝って欲しい」
そう言われてはやるしかない。
そんな訳で翌日、討伐をお休みにして迷宮前へ。
アドストリジェン迷宮前は露店が並んでいる。
この迷宮、1日に500人を超える冒険者が中で討伐なり探索なりをしている。
その分人が通るから、当然それなりに物も売れる訳だ。
ただそれだけに場所取りは熾烈。
コネも何もない私達がいい場所に店を出せるとは思えない。
何処に売店を出すのだろう。
そう思ったらレナードは露店の列を通り過ぎる。
「何処に出すの、お店?」
「この先、冒険者ギルド出張所内。冒険者の安全にも役立つという事で交渉したらOKが出た」
いつの間にそこまで交渉したのだろう。
そう思う私を尻目に、レナードは出張所の待合部分の端に寄せて置かれていたテーブルと椅子テーブルと椅子、それらしい看板を動かし始めた。
「勝手に使っていいのかなあ?」
「ギルドと交渉済み。看板はギルドの講習用を借用」
一枚板の看板は何も書かれていない状態。
しかし何やらレナードの魔力が動いたかと思うと、『アドストリジェン迷宮情報 音声版』という文字が浮き出てきた。
「今のはどうしたの?」
「熱魔法で描いた。慣れれば簡単」
レナードの魔法の熟練度は私やアリアとはかなり違う模様。
これもまあ、レナード語と同じだろう。
気にしてもどうしようもないという意味で。
「2人は看板やテーブルの向こう側にいて、私が連れてくる客に応じて説明するなり販売するなりして欲しい。私が呼び子をする」
そう言ってレナードは魔道士用のフード付きマントを脱ぐ。
下に着ていたのはいつもの頑丈な冒険者用普段着ではなかった。
何と言うか、貴族家でメイドが着ている服に似ている。
ただ色が良くある黒や紺では無く、鮮やかな青基調。
デザインもスカートが微妙に短かい気が……
髪型もいつもと違っている。
いつもは長い髪をただまっすぐ伸ばしているだけ。
しかし今日は左右にそれぞれまとめて、下にのばしている形。
レース付きのカチューシャまでつけている。
「何か見た事がない服装だよね」
「ツインテールメイド。萌えは重要」
またレナード語が出た。
これ以上追求してもわからないのは学習済み。
だからレナードの言う通りにする。
それにしてもレナード、話す事が苦手なのに呼び子なんて出来るのだろうか。
そう思いながら、私達は指定されたテーブルのところで待つ。
早くも冒険者が通り始めた。
「音声版の迷宮攻略情報はいかがですか。本日はサービスで正銅貨2枚ですよ。音声で案内しますので文字が読めなくても大丈夫です……」
何か聞き覚えのない声が聞こえる。
いや、声そのものは聞き覚えはあるのだけれど……
「あれ、レナードだよね?」
アリアの言いたい事はわかる。
声の調子も喋り方もいつものレナードとは全く違うから。
「何でしたらお試しも出来ますよ。いかがでしょうか?」
ちらっと見えた動きも違う。
何と言うか表現に困るけれど。
私とアリアがあっけにとられていると、早くもレナードが御客様を連れてきた。
いかにもという感じのごっつい若者だ。
「あの娘の言っていた攻略情報ってのは、此処でいいのか?」
「はい、こちらで正銅貨2枚で取り扱っております」
いつもと違うお仕事、開始だ。
◇◇◇
12の鐘が鳴った。
レナードが戻ってくる。
「お疲れ様。今日のお仕事はこれまで」
レナードはささっとマントを着てフードをかぶった。
「50個しか売れなかったけれど大丈夫?」
「問題無い。これはあくまで宣伝」
口調が元に戻っている。
「これで明日から売れるようになるかなあ」
「すぐには無理。でも口コミで広まれば……儲かるとしても再来週以降になると思う」
やっぱりいつものレナードだなと感じる。
とするとさっきの呼び込みの様子は何だったのだろう。
「それにしてもレナード、呼び込みなんて事も出来るんだね。知らなかったなあ」
私より先にアリアが質問。
「台詞と動き、役柄さえ決めればその通り動くのは簡単。バ美肉みたいなもの」
またレナード語が出てきた。
バ美肉と何なのだろう。
それに呼び子をやっていた時の動きや台詞、そんなに簡単に出来るものなのだろうか。
私はアリアと顔を見合わる。
理解の範囲外、アリアもそう思っているようだ。
一方でレナードはいつもの調子で続ける。
「売れ残った魔石は此処のギルド売店で委託。売れても儲けはほとんど出ない。でも今回は宣伝だから仕方ない」
1個正銅貨2枚というのはレナード語で『お試し価格』というものらしい。
わかる言葉に翻訳すると、『とりあえず手に取って貰う為に、最初だけ気軽に手をだせる位に安くして販売すること』だそうだ。
来週号からは1個正銅貨5枚で売るとの事。
その事は録音した情報の中にも入っている。
レナードは売れ残った魔石を袋に入れた。
「売店に行ってくる」
魔物に化かされた気がする。
それが今日の私の感想だ。