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第9話「歪んだネオンの影と、蛇の涙」
サーペンシャスがハズビン・ホテルに「降伏」の形で住み着いてから、数日が経過していた。
彼はホテルの住人たちから激しい警戒を受けていた。特にバギーは、ことあるごとに天使の槍を彼の首元に突きつけ、「怪しい動きをしたらただじゃおかない」と睨みを利かせている。
だが、フェザー・デーモン――ノアだけは違った。
ノアはいつものように、少しふわっとした黒髪を揺らしながら、ホテルの廊下で寂しそうに縮こまっていたサーペンシャスに近づいた。
その肩にはいつも通り、相棒のカラス、レインが静かに羽を休めている。
「サーペンシャス、お腹は空いていない? チャーリーちゃんが美味しいサンドイッチを作ってくれたのよ。
一緒に食べましょう」その少し低い、耳に心地よいイケボで優しく声をかけられ、サーペンシャスはびくりと長い身体を震わせた。
生前、全身の痣のせいで誰からも近づいてもらえなかった過去を持つノアは、地獄でどれだけ不気味に忌み嫌われる悪魔に対しても、その心の痛みに寄り添うような底なしの優しさを持っていた。
「あ、いや……俺様は、そんなもの……」
サーペンシャスは差し出されたサンドイッチを震える手で受け取り、ノアの穏やかな笑顔を見つめた。
人間だった頃、誰からも愛されなかったというノア。
だが今の彼女は、裏切りと欺瞞に満ちたこの地獄で、誰よりも純粋で温かい光を放っている。
その温かさに触れるたび、サーペンシャスの胸は、鋭いナイフで抉られるような罪悪感に苛まれるのだった。――なぜなら、彼は
『スパイ』
だったからだ。
その日の深夜、ホテルの使われていない暗い客室で、サーペンシャスは一台の古いポータブルモニターを起動させていた。
画面がバチバチと青い電気ノイズを発し、ネオンに輝くテレビの頭部を持つ男――ヴォックスの顔が映し出される。
『よぉ、サーペンシャス。潜入調査の進み具合はどうだ? あの目障りなラジオ野郎(アラスター)の弱みは掴んだか?』
ヴォックスのギラギラとした声が、暗い部屋に響く。
サーペンシャスは冷や汗を流しながら、必死に声を震わせた。
「は、はい、ヴォックス様……。アラスターはいつも通り隙がありません。それよりも……あの、新入りのフェザー・デーモン、ノアのことですが……」
『あぁ? ノアちゃんがどうした。あの女、俺の完璧なスカウトを断りやがって。アラスターやルシファーの野郎とベタベタしやがってよぉ……。おい、サーペンシャス。あの女の魔力の源は、30羽のカラスたちと、あの隠された左目だ。奴が油断している隙に、カラスの一羽でも毒殺するか、あの左目の弱点を探り出せ。Veeズの力を見せつけてやるんだよ』
「な……ッ!?」
ヴォックスの無慈悲な命令に、サーペンシャスの顔が青ざめた。
自分に初めて偏見なく優しくしてくれたノアを傷つけろ、というのだ。
ノアが戦闘時に隠された左目を開き、漆黒の翼を広げた時の圧倒的な強さは知っている。
だが、普段の彼女はあまりにも気さくで、自分やエッグマニズたちを「可愛い」と本気で愛でてくれる、地獄で唯一無二のオアシスだった。
『おい、どうしたサーペンシャス? 返事が遅いぜ。まさか、あのボロ宿の更生ごっこに本気で染まったわけじゃねえだろうな?』
画面の向こうから、ヴォックスの青い電撃がバチバチと威圧的に鳴り響く。
「滅相もありません! このサーペンシャス様が、あんな奴らに情を移すはずが……!」
『ならさっさと動け。期待してるぜ、地獄のネクスト・支配者さんよぉ』
ツン、と通信が切れ、部屋は静まり返った。暗闇の中、サーペンシャスはモニターを抱えたまま、ボロボロと大粒の涙を流した。
「俺様は……俺様はどうすればいいのだ……。ノア様を裏切るなんて、そんなこと、俺様には……」
彼が絶望に打ちひしがれ、尾を丸めて泣いていた、その時。
カチャリ、と静かに部屋の扉が開いた。廊下の薄暗い明かりを背に、少しふわっとした黒髪のシルエットが浮かび上がる。
ノアだった。
その隠された前髪の奥の左目が、暗闇の中でわずかに、だが優しく、すべてを見透かすように静かに光っていた。
「……サーペンシャス。泣いているの?」
彼女の低い落ち着いた声が、静かに部屋に満ちていく。
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第9話「歪んだネオンの影と、蛇の涙」
次回、第10話「黒羽の優雅な挑発」
お楽しみに……♪
コメント
3件
あぁぁぁぁぁあ……見るのが遅れたぁぁぁぁ😭😭 最高最高最高💗🫵💗🫵あとネーミングセンスよすぎ✨️ ツヅキマッテルゼ🫵😏🫵