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俺は今からミノリに旅の目的を改めて訊くつもりでいる。
彼女たちモンスターチルドレンが助かる方法があるのか?
そしてどちらの世界も救うことができるのか? ということについて。
まあ、何にせよ訊いてみないと何も分からないし、何も始まらない。
なので、とりあえずミノリの話を最後まで聞こうと思う。おっとそろそろ話が始まるようだな。
そんなことを考えているうちにミノリ(吸血鬼)が語り始めた。
「それじゃあ、今度こそ『旅の目的』について話すわよ。途中で寝たりしたら、その時は……」
ミノリの鋭い視線が俺に向けられた。え? 俺って信用されてないのか?
それに万が一、寝たとしても殺気ですぐに起きるぞ? まあ、みんながみんな俺を疑っているなんてことは。
俺は恐る恐る後ろを向くと全く予想していなかった事態に遭遇した。うそ……だろ……。
俺はまさかの展開に驚愕した。
なぜなら全員が俺の方を見ていたからである。俺って、すぐ寝てしまうようなやつだと思われているのかな?
いやいや、そんなことはない。これは多分、夢だ。
俺はそれから、ゆっくりと目を閉じた。これは夢だ、これは夢だ、と自分に言い聞かせながら。そして、もう大丈夫だと思い、目を開けた。
「……………………」
うん、どうやら夢じゃないようだ。どうしてかって?
それは、みんながずっと俺を見ているからである。怖い、というか、わずかながら殺意を感じる……。
俺は苦笑いしながら、みんなの視線に耐えられずにミノリの方を見た。これで少しはマシになっただろうと思ったが。
「ナオト、あんたに一つだけ言っておきたいことがあるんだけど、いいかしら?」
そこには、今にも襲いかかって来そうなオーラを纏ったミノリがいた。
本当にどうしていつも俺ばっかりこうなるのだろう。
このままでは話が進まないため、そこから後は考えるのをやめた。いや、やめざるを得なかった。
「ああ、いいぞ。なんでも言ってくれ」
俺はミノリの要求をのむことにした。俺としては、さっさと旅の目的を知りたいのだが、ミノリにそんなことを言ったら、まず間違いなく半殺しにされる。
それだけで済むのなら、まだいいが、怒りのゲージが溜まりに溜まっていた場合は……。
そう思うだけでゾッとした。これ以上は危険だと俺は判断し、詮索するのをやめた。すると。
「じゃあ、言うけど、あんたは旅の目的を知ってどうするの?」
ミノリがそんなことを訊いてきた。旅の目的を知ってどうするか……だと?
俺は今も世界中にいるモンスターチルドレンたちのことを考えた。
彼女たちは世界を救うためだけに生まれた、チェスで言うところのポーンだ。
ただ、チェスとは少し違う。それは『それで終わり』だということだ。
チェスの駒はゲーム終了後なら、次のゲームでも使用できる。
しかし彼女らは違う。なぜなら『命は、例えモンスターの力を宿している者であるとしても一つしかない』からだ。
だとしたら、それを知っている俺は、俺の選択肢一つで彼女らの未来を決めてしまうことになる。なら、俺はどうすればいい?
俺はみんなも……もちろん世界も救いたい! どちらか一方を選ぶことはできない。
例え、それが悲惨な結果になったとしても俺は。その時、俺の中のもう一人の俺が本心を告げた。
『なら、どちらも救えばいいだろう?』
____どちらも救えばいい。俺は自分の中のもう一人の俺にそう言われた。
まさか俺の中のもう一人の俺にそんなことを言われるとは思っていなかったが、その通りだと思った。
俺が諦めたら、そこでみんなも世界も終わってしまう。
なら、例えこの身を犠牲にしてでも俺はどちらも救うべきだ。それができないのなら……いや必ず成し遂げる!
それが『二兎を追う者は一兎をも得ず』というのは知っている。だが、残念ながら、それは違う。
たった今、俺の辞書には『二兎を追わず者は一兎をも得ず』という言葉が追加されたからだ。
二つのことができないのなら一つのこともきっとできないだろう、という意味だ。その後、俺はミノリにこの気持ちを伝えた。
「ミノリ、俺は世界も、お前らのことも、救いたい。いや、救ってみせる! だからお前たちの力を貸してくれ!!」
「……考える時間が長いのは相変わらずだけど、まあ、あんたにしては上出来ね」
「じゃあ、旅の目的を話してくれるだな!」
「ええ、いいわよ」
「なら、早く……!」
俺が催促するとミノリは。
「焦らないで。その前にしておきたいことがあるから先にそっちを済ませましょう」
俺にそう告げた。しておきたいこと? なんだかよく分からないが、とりあえず了承するか。
「ああ、分かった。いったい、何を……」
その時、俺の背後にいた四人が俺に飛びかかってきた。
「お、お前ら! 一体どういうつもりだ! セリフが少ないからって、それはないだろう!」
俺がそう言うと。
「ち、違いますよ!」
「ナオ兄、私たちはそんなことで、こんなことをしたりしないよ?」
「兄さん、さすがに酷くないですか?」
「マスター、私はどこかの女王様気取りの吸血鬼とは違って、そんなことでこんなことはしませんよ?」
みんなは口々にそう言った。
俺は為す術もなく四人に捕まった。
右腕をマナミ(茶髪ショートの獣人)、左腕をシオリ(白髪ロングの獣人)、右足をツキネ(変身型スライム)、左足をコユリ(本物の天使)に、それぞれ封じられた。
すると、ミノリ(吸血鬼)が俺にゆっくりと近づいてきた。
「コユリの発言がちょっと気になるけど……。まあ、いいわ……」
「おい! ミノリ! お前いったい俺に何をするつもりなんだ!」
「うるさいわね! あんたは黙ってなさい!」
「理不尽だあああああああああああ!」
俺はそう叫んだが、その直後に体が動かなくなってしまった。それに声もある程度しか出せなくなった。こ、これは……!
「まったく……あ、あんたが悪いんだからね」
「前にも、こんなこと……あったよな? たしか、マナミとシオリが来た時に……」
「ご名答。確かに、あれもあたしがやったわ。でもどうして分かったの?」
「……簡単な……ことだ。共通点があった……からだよ」
「共通点?」
「ああ……それはな『お前の目が一瞬だけ紅《あか》くなる』って、ことだ」
俺がそう言うと……ミノリは、お見事と言わんばかりにパチパチと拍手した。
「ピンポーン! 大正解! さすがはあたしの未来の夫ね! そう、これこそがあたしにふさわしい最強の固有魔法、その名も『アブソリュートドミネイト』よ!」
それを聞いた俺は、ミノリのネーミングセンスが中二病をこじらせてしまったやつのようだと思った。
そう思うと今の状況が続いても大丈夫な気がして心の中で少し笑ってしまった。
「詳しいことは後にしないか? そうしないと、時間切れになっちまうぞ?」
俺がミノリにそう言えるほど回復していることに気づいたミノリは、こう言った。
「そ、そうね。本題に入りましょう」
「おバカさんにはもったいない魔法ですね」
「何か言ったかしら?」
「空耳じゃないですか?」
「そう……」
ミノリとコユリってこんなに仲が悪かったのか? まあ、それは置いといて。
「で? 何なんだ? 俺をこんな状態にしてまでしなくちゃいけないことなのか?」
「う、うるさいわね! それはこれから分かるから少し黙ってて!」
「はいはい、分かりました」
「殴られたいの?」
「了解しました。女王様」
「よろしい」
ミノリって案外チョロいんだなあ、と俺は心の中で思った。
「じゃあ、単刀直入に言うわね。旅の目的はズバリ!」
「ズバリ?」
「あたしたちの世界のどこかにあると言われている、あたしたちを元の姿に戻せる【薬の材料】を探すことよ!」
その時、ミノリ以外の全員が黙り込んだ。
「………………………………」
「……で?」
「……え?」
「俺をこんな状態にしてまでしたかったことは何だ?」
「え! あ、ああ、それは……えっと」
ミノリは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、こちらを見た。
どうやらとても言いにくいことらしい。
俺はやれやれと思いながら起き上がると。(四人は俺が起き上がろうとすると、どいてくれた)
「その話は向こうに着いた時に話してくれないか?」
荷物をゲートの前に移動させた後、そう言った。
「え? あ、ああ、それもそうね」
「じゃあ一日早いけど異世界に行くか。なあ、女王様?」
俺はミノリの方に行き、頭をポンポンと撫でながら、そう言った。
ミノリは少し嬉しそうな表情を見せたが、すぐにいつものテンションに戻って。
「じゃあ、みんな! 一日早いけど、出発するわよ!」
高らかに声を上げた。うんうん、ミノリはこうでなくちゃな。
『おーー!!』
俺たちはそう言いながら、天井に拳を掲げると荷物を持ってゲートをくぐり始めた。(荷物を持っているのは俺だけ。みんなの荷物は、もう向こうの世界に転送してあるらしい……)
俺はこの時、この先に何が待っているのかは分からないけど、みんなで力を合わせて頑張っていこうと思った。