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すみれちゃんは、話している途中に、マシュマロ入りのココアを私にくれた。そのココアは甘くて冷たいココアだった。小さなマシュマロが何個かココアと一緒に私の口へと入っていく。その口の中は、ココアとマシュマロの甘さが広がっていた。でも、他の味も入っているような、少しの苦味も感じた。

まあ、ココアなんてそんなものだろう。きっとマシュマロを入れて甘くしているんだ。

「…ねえ、美香ちゃん」

迷ったていたようにすみれちゃんが私に困り眉で話しかけてきた。

「…私の、私たちの前では、さっ…?ありのままでいいんだよ?」

すみれちゃんはそう言うと、最後に暖かい笑顔で笑った。

「…本当に、いいの?」

「いいの」

「…後悔しないの?」

「したくない」

私が質問をすると、すみれちゃんは迷いなく、さっきの笑顔とは真逆で、真剣な眼差しで私の瞳を見つめている。

ああ、そういう所だ。

すみれちゃんの悪い癖。

すぐに人を認める。

すぐに人を慰める。

そういう所が、とてつもなくあいつに似ている。

そういう所が、たまらなく、たまらなく_______






「………うざ」

そう、うざくて仕方がない。

あいつと、春香と似ていて気分が悪い。不愉快だ。

すみれちゃんは戸惑ったように私を見つめた。

「あっ、ごめぇんっ。私友達とか恋愛対象外の人とかにはぁ、はっきり言っちゃうタイプなんだよねぇ。サバサバ系女子、みたいなぁ?きゃはっ」

馬鹿にするように最後に笑い声を出すと、すみれちゃんは少し俯いて黙ってしまった。

しばらく沈黙が流れると、すみれちゃんのスマホが、テーブルの上でブーブーと鳴り始めた。

「……はっ、はい。もしもし…」

スマホを耳に当て、すみれちゃんは電話越しに誰かと話す。

「お父さん……。どうしたの?」

すみれちゃんと電話をしている相手は、すみれちゃんのお父さんらしい。電話の声はよく聞こえないけれど、すみれちゃんが焦っているのだけは分かる。

「えっと…バイトの悩み…?あ、えっと、ないよ!特には…本当に大丈夫だから…」

すみれちゃんのこの反応で分かった。お父さんに聞かれたのは多分、バイトで悩みがあるかないか、などだろう。でも、この反応はきっと、バイトをしていないだろうと私は推測した。でなきゃこんなに焦る必要がないだろう。

私は無意識のうちにすみれちゃんのスマホを分捕り、耳に当てた。はっとなり、気がついたが、取ったものは戻れまいと思い、つい話し始めた。

「すみれちゃんのお父さんですかぁ?」

私がそう聞くと、年齢は分からないが、低いけれど、爽やかな声が聞こえてきた。

「あぁ、そうですけど…誰ですか?」

すみれちゃんのお父さんは私にそう聞いてきた。

「私っ、すみれちゃんのお友達ですぅっ!すみれちゃんがバイトの話してたんですけどぉ…すみれちゃん、バイトなんて何もしてませんよぉ?」

「……は?」

私がそう言うと、話していた声よりももっと低く、すみれちゃんのお父さんはそう言い放った。

「お父さん騙されてますよぉ…。すみれちゃん仕事とかバイト、本当は何もしてないんですよぉ…」

私は何も知らないが、わざと呆れたようなため息をつき、すみれちゃんのことを全て知っているような雰囲気を出した。

「…すみれに変わってくれるか」

はてなマークが最後につかないくらいに、電話越しでも圧が凄かった。声は低くて、言い方もキツイもんだから、さっきの非でないくらいに驚き、私は慌ててすみれちゃんにスマホを返した。

すみれちゃんは、私がカミングアウトをした時から、目にハイライトが入らないくらいに俯き、焦っていた。

「…はい、お父さん。…そうです。明後日…、は空いてます。……分かりました。奇縁ちゃんもいいですか?…ありがとうございます。…しあ」

そう言って暗めの雰囲気で電話を切ったすみれちゃん。

「あんたみたいなやつが一番嫌い」

私は傷ついているすみれちゃんに対して、もっと攻撃を仕掛けた。

「優しいだけで対して陰キャでも陽キャでもないやつがモテるんでしょ?別に私は遥輝センパイが好いてくれればそれでいいけど…、春香…私の大っ嫌いな幼馴染みみたいな性格で不快なんだよね」

そう言って立ち上がり、すみれちゃんの方に歩き、上から見下ろし、そして言った。

「どうせそういう性格のやつは嘘つきだと思ってた。いい子ちゃんぶんの、いい加減やめたら?私、あんたのこと全然知らないけど、誰もあんたを認めることなんかないんだから。好きになられても、それは認められてなんかいない。勘違いしないようにしないとね」

そう言って家に帰る準備をしようとしていた時だった。

「…美香お姉さんっ!」

奇縁ちゃんが困り眉で私を止めた。

「私ね?難しい話とかは分からないけど、私に美香お姉さんの話聞かせて!えっと…、あそこの部屋で!」

そう言って指さしたのは、最初の方に、奇縁ちゃんのバッグが放り投げられていた部屋だった。

「…分かったっ!奇縁ちゃんとお話できて嬉しいなぁっ!」

奇縁ちゃんだってまだ小さい子供だ。今の話は何一つ分かってやしないだろう。なら、気づかれないように奇縁ちゃんに合わせるだけでいいんだ。私はそう思った。

「じゃあ、向こうの部屋行こっ!美香お姉さんっ!」

笑って私の手を引いた奇縁ちゃん。でも、その顔は笑っていないように見えた。作り笑顔のような、そんな感じに見えたのだ。

よくよく考えればそうだ。

誘われた時も、今だってそうだ。

笑顔は見せるものの、作り笑顔のように目が笑っていなかった。

そしてなにより、奇縁ちゃんの赤い瞳に私が入ったことも、すみれちゃんが入ったこともない。

誰も映さないのだろうか。

それとも、いつか愛する人ができた時に、初めて映すのだろうか。

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