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白い記憶が、ふたたび舞い戻る。
音を出すことすら許されなかった日々。
そこにあったのは、たったひとつの目的――「完璧な声をつくる」こと。
施設の名前は【響導研究所】。
表向きは音響医学の研究機関。
けれど、その実態は「人の声」を武器にするための非公式な“人体実験所”だった。
ないこ(回想):(感情を消し、命令通りに歌う。
それが、俺たちの“存在理由”だった)
子供たちは分類される。
「共鳴性」「音域拡張性」「感情再現度」。
優秀な子は前に出され、他の者は“沈黙室”へ送られた。
沈黙室――
そこでは、外の音も自分の声も遮断された状態で、
ただ黙って「失敗作」として放置される。
俺も、何度もそこに入れられた。
*
ある日、研究所に“特別な来客”があった。
男の声:「……この子の声、いいね。調整すれば“共鳴核”に使える」
研究員:「はい、ないこ(104)は感情抑制の適性が高く、
冥音共鳴の兆候も出ています。副人格も3体以上、分裂済みです」
そのとき初めて知った。
冥晶たちは、“副人格”ではなく「共鳴因子」だった。
俺の心の代わりに、音を吸い、叫び、泣き、壊れてくれていた。
そのすべてを、“武器”として使おうとしていた大人たち。
ないこ(現在):「ふざけんなよ……」
ギターを握る指が震えていた。
あの頃の“俺”が、今の“俺”を見ている。
冥晶(心の声):「だから、お前はここにいる。
歌うためじゃない。叫ぶために、だ」
俺たちは、歌い手なんかじゃなかった。
「声を奪われた被験体」だった。
でも――
ないこ:「今の俺は……“自分のために”歌う」
*
その瞬間、鏡が軋むように揺れた。
そして、ひとつの「黒い影」が、静かに笑う。
???(男の声):「ずいぶん、喋れるようになったじゃない。ないこくん」
ないこ:「……お前は……!」
冥晶:「また、“次の扉”が開くぞ」
音を巡る真実が、ひとつずつ暴かれていく。
次回:「第三十九話:双影の男」