「それにしても、不細工だなー。」
───え?
「こら、五月雨君!とっーーても失礼です!凪君はとても可愛らしいお顔なんですよ?」
「美麗サマが綺麗すぎるんですぅー。」
………一体この子どもは何者なんだ?
「あ、あの…夜桜さん?」
一応、確認しよう……。
俺は覚悟を決め手夜桜さんに声をかける。
「何でしょう?」
さすが、夜桜さん……。
「その子どもって……?」
“子ども“という言葉に反応したのか、五月雨が風鈴を鳴らすと空中にたらいが現れ、凪の頭の上に勢いよく落ちてきた。
バコーン、と大きな音がする……これは痛い。
あまりの痛さに、涙目になりながら頭を押さえる凪。
「痛っ~!何するんだよ!!」
「うるさい!ボケ!!お前が悪いんじゃ!」
…………口悪い……。
「五月雨君?たらいは痛いです。」
よ、夜桜さぁ~ん!!
俺の味方をしてくれるんですか!?
「………ふん!!美麗サマは甘いんです。」
「すみません、凪君。五月雨君は──」
「……はい……?」
「雨の妖怪なんです。」
──雨の……妖怪…!?
ええええええ!?
「よ…妖怪って……!?」
「ボクが妖怪で悪いか。」
妖怪──コレが?
そんなバカな話があるのか……?
俺の目の前にはふわふわと宙に浮いている
子ども─じゃなかった…五月雨……君がいる。
それにしても、五月雨(さみだれ)って
珍しい名前だな……。
「ねぇ、五月雨(さみだれ)君─」
チリン──
また風鈴の音がして、今度は凪がいる場所に
だけ雨が降っている。
──何だ、何だ?佐伯のところだけ!?
──しかもずぶ濡れ!!
──雨雲すらないのに!!?
など………また後ろの方で言いたい放題。
お前らはいいよなー…濡れなくて。
俺はまた五月雨君を怒らせたらしい。
今度は何だ───?
スゥ─と息を吸う五月雨。
そして───
「あーーーーー、うるさい!!ボケ!!!!ボクの名前は五月雨(さみだれ)って書いて!
“さつきれい“って言うんだ!!!そのくらい勉強しろっつーの!!このチンチクリン!!美麗サマのオトモダチだからって、馴れ馴れしいんだー!!!」
物凄く怒鳴られた。
いや……知らないし……君の名前とか…。
なんなら…さっき聞いたばかりだから。
夜桜さんが、五月雨(さみだれ)って言ってたからそう呼んだだけで……え?俺が悪いの?
「はぁ……はぁ……!!」
──腹式呼吸。
「……五月雨(さみだれ)君?」
「何ですか、美麗サマ。」
…………え?
夜桜さんと俺との接し方全然違う……。
「何で夜桜さんにはOKなの?」
「当たり前だ!美麗サマは特別だから!」
「え?」
特別?何か意味があるのか?
「凪君、その雨の水ですが人体に害は無いので安心してください。綺麗な水なので。」
「は……はぁ……。」
夜桜さんそんな事は今どうでもいいんです。
それより、この生物(?)について色々教えてください!!
「五月雨君、もういいでしょう?」
「……美麗サマが言うなら……。」
夜桜さんがそう言うと、
五月雨は風鈴を鳴らし雨を止ませた。
「助かった………。」
凪は髪……服……何もかもびしょ濡れ。
無理もない、あれだけ濡れれば誰でもそうなる。
「大丈夫ですか、凪君?」
「あは……は…」
全然大丈夫じゃない!!!!!!
さっぶ!!寒いわ!!!
心配してくれる夜桜さん!!マジ嬉しい!
あーーー、神!!
「今すぐ乾かした方が良さそうですね。」
「あー、はい。それはもう──」
「では──目を閉じてください。」
「分かりました……。」
何だろう……いきなり目を閉じろって……。
閉じたけどさ………何、この音…。
なんか…桜が舞うような…。
「──“桜花爛漫“」(おうからんまん)
夜桜さんが呟くと、数えきれないほどの
桃色の桜が空を舞う様に凪達の視界を襲う。まるで、夜桜さんと五月雨を守る様に。
両手にお札を持ち、くるりくるりと舞い踊る夜桜さん。
──何も見えない…どうなってんだ!?
──何が起きてるの!?
──目の前の桜のせいで状況が分からない!
「我が名は夜桜美麗、風の精達よ。
夜桜の名において命令する…─風よ吹け!」
凄まじい風とともに舞う桜。
「──解(かい)!」
そして───
「もう目を開けて大丈夫ですよ。」
「ん………。」
凪が目を開けると、何事も無かったように
元の校庭。先ほどの桜や風はどこにも無い。
「チンチクリン、美麗サマに感謝しろ。」
「え……乾いてる……!?」
「ふふっ、驚きました?」
………はい、凄く。
「…どうやったんですか?」
凪の質問に対する答えは、もちろん─
「─秘密です。」
でた……夜桜さんの“秘密です。“
でも、目を瞑っていたから分からないけど
さっきの音…まるで桜が舞うような音に聞こえた。後、桜の舞う音がうるさくて聞こえなかったけど、何か言ってたような………。
『ちょっと、美麗サマ?ボクの妖術に何も
使うことないじゃないですか!!』
『いいえ?アナタの妖術はコレでも少しだけ抑えてありますから…いくら人体に害は無いとはいえ…。アナタの妖術は“水“。私が助けなければ凪君は風邪を引いてしまうところでした。』
「あの…何話してるんですか?」
「何でもありません。」
凄く気になる……!!!
でも、まぁいいか…服も乾いたし。
「そろそろ、戻りましょうか?」
「あ……はい。」
教室に入ると、何事も無かったように
授業が始まった。
……俺への視線は相変わらずだけど。
「えっーと…次の問題は……。」
俺はなるべく気にしないように問題を解く。
この時間は、数学。
カリカリとシャーペンで字を書く音、
チョークで字を書く音、あくび。
色んな音が聞こえる。
なるべく授業に集中しようと俺も手を動かす。
「ふむふむ…そういうことですか…。」
顎に手を添えて考え込む夜桜さん。
………可愛い。
って、何してんだ、俺!!!
集中、集中!!
『授業ってつまんなーい。』
ふわふわと宙に浮いている五月雨。
『えいっ、てりゃ…!これでもくらえ!』
五月雨は凪の頭を軽く叩いたり、定規と消しゴムと輪ゴムで特製弓矢を作り、凪の頭に狙いを定め消しゴムを飛ばして遊んでいる。
………我慢…我慢!!
『よいしょ──っと!!』
ゴンッ─二度目のたらい攻撃。
「っ……………!!」
たらいが床に落ちる音が教室内に響く。
──何でたらいが!?
──佐伯、一人で何してんだ?
──変な奴だなーー。
変で悪かったな………。
ていうか…五月雨君、いたんだ……。
もしかして…皆には見えてないとか?
「な…凪君……?どうしたんです?」
「突然……たらいが………。」
『アハハハッ、最高~。』
隣の席の夜桜さんが心配そうに俺を見る。
「…………たらいですか……?」
「は…はい……。」
今回は風鈴の音はしなかった。
五月雨の攻撃(?)は大体風鈴の音とともに
始まるのが多い、妖術も同じ。
『次は何しようかな~。』
宙に浮きながら、隅から隅まで移動する。
ぱたぱた………ぱたぱた……
飛ぶのは少し遅いんだな……五月雨君って。
あれが妖怪かぁ……信じれないよ……。
雨の妖怪だっけ?夜桜さんは特別って言ってたけど…、昔何かあったのかな?
長かった授業がようやく終わり、凪はすぐに五月雨に問いかけた。
「何で君がいるの!?」
「ボクの勝手だろ…!チンチクリン!」
「私も凪君と同じ意見です。」
五月雨は服の懐から、市松模様の古びた袋を
取り出し紐をほどくと袋の中から赤い飴玉と青い飴玉が5個ずつ入っていた。
「飴玉?俺にもちょうだい!」
「嫌だよ、これはボク達妖怪専用の飴玉だ。赤い飴玉は、普通の人間に姿を見られる。で青い飴玉は、逆に姿を隠すことができる。」
「へぇ……そうなんだ。」
再び話し始める五月雨。
「ボク達妖怪は、こうやって姿を隠したりしてるってこと。後、今は青い飴玉を飲んだからチンチクリン以外の人間にはボクの姿は見えていない。」
この飴玉は四六時中効果があるわけでは無い。普段は懐に隠し必要になったら飲むシステムになっている。
「すみません、凪君。頭大丈夫ですか?」
「は、はい。」
心配して言ってくれてるんだよね?
“頭、大丈夫ですか?“って煽ってる感じに聞こえるんだけど。
その後も、普通に授業を受け昼休みになると夜桜さん達は屋上へ向かった──。
「風が気持ちいいですね~凪君。」
「そ、そうですね。」
心地いいそよ風が吹いているなか、
フェンスにもたれ掛かる夜桜さん。
「……凪君。少しお話をしても良いですか?」
「………はい。」
何だろう……。
「五月雨君のこと悪く思わないでください。あの子はきっと凪君と仲良くなって一緒に遊びたいんです。…………また一緒に。」
・・・・
また一緒?どういうこと?
………待て。夜桜さんが秘密主義なら………
五月雨君から情報を聞きだせばいい!!!
そうすれば、五月雨君とも仲良くなれる!
「─五月雨君の過去はとても残酷でした。」
「────え?」
五月雨君の過去?
残酷だった…って一体何があったの?
「………あの子は名前すら親につけてもらえなかったんです」
「え……!?名前すら!?」
夜桜さんは制服のポケットからお札を取り出し、“五月雨“と書くとお札をその場に置いた。
な、何してるんだろう…この人。
しばらくすると──
ボンッ─と霧のような煙がもくもくと出て、そして五月雨が現れた。
「いったぁ~い。ここどこ?」
「屋上です。」
冷静な夜桜さんとは逆に凪は酷く驚いている。無理もない、目の前のお札から子どもが出てきた─いや、召喚されたら誰でもこうなる。
「この召喚システム、ボク嫌なんだよね。」
「何回も聞きました。仕方ないですよ。」
何が、仕方ないのか凪には分からない。
「五月雨君…人間を憎むのもそろそろ…。」
「い、嫌だぁ~!人間は酷い生き物なんだ!
ボクが今生きていられるのは美麗サマのおかげなんです。」
美麗サマのおかげ─凪にはこの意味が分からなかった。
「この“五月雨“(さつきれい)っていう名前も!!あの日…アナタがボクにくれた!」
五月雨の怒鳴り声が響く。
「全ての人間が悪いのではありません。
人間を憎むアナタの気持ちも分かります…。全てはあの日から始まった───」
“あの日“の言葉に反応した五月雨は─
「っ……人間は……嫌い…だ!!!
ボクは…お前たち(人間)を許さない…!」
指を鳴らすとパッ、と姿を消した──。
「五月雨君!」
「夜桜さん……聞いてもいいですか?」
深刻そうな表情をしながら凪を見る。
「五月雨君は、何で人間をそんなに憎んでいるんですか?もしかして、過去が関係しているとか!?教えてください!!」
頭を下げ必死に頼む凪。
その凪の行動に思わず目を丸くする。
「─分かりました。」
「ほ、本当ですか?」
「嘘を言ってどうするんです?」
意外だった。
すんなりOKがもらえるとは思えなかった。
自分のことではなく、他人のことを言うのはこれが初めてだ。
「君が言うように過去が関係しています。」
「…………やっぱり…。」
「─実は───」
夜桜さんが言いかけたその時、
「あれ………雨……?」
突然、ぽたぽたと雨が降ってきた。
「……驟雨(しゅうう)ですね。」
驟雨─とは、急に降りだす雨のこと。
「……教室へ帰りましょう。」
ん?もしかして、この雨って……。
五月雨君のしわざ?
雨の妖怪ってことは、雨を降らせる妖怪。
「夜桜さん、この雨って…。」
「……おそらく、あの子のしわざです。」
……きっと、さっきのことを気にしているんだ。なんとか、五月雨君の力になれないかな。五月雨君には悪いけど君の過去を聞いて自分にできることを探すしかない──!
“五月に訪れる不思議な雨“──雨の妖怪
五月雨は、何処かで独りで泣いているに違いない。この雨は彼の悲しい気持ちを表現している“涙“のように感じられる──。
五月雨はなぜ人間を憎んでいるのか。
そして、彼の残酷な過去とは?
──4話に続く
名前:五月雨(さつきれい)/(さみだれ)
誕生日:5月5日♂(夜桜さんと出会った日)
好きな物:柏餅、美麗サマ、自然
嫌いな物・苦手な物:チンチクリン(凪)、人間
気になる人:チンチクリン(?)
雨の妖怪で使える妖術は主に“水“。
夜桜さんと話すときは、大体敬語で話しているが凪と話すときは口が悪くなる。
人間でいうと6歳くらいの年齢だが
実際は、100歳をこえている。
当時、名前がなかった五月雨だが、
ある日をきっかけに夜桜さんによって
“さつきれい“という名前をもらう。
可愛い見た目とは裏腹に実はかなりの
ツンデレで口が悪い。
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なりきりしよ
ネーミングセンス良きなの羨ま...