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蹴ったサッカーボールは帰って来ない。一人きり。
寂しそうにボールが転がっていた。
このボールも行き先を知らないのだろうか。俺みたいに。
今後の将来が不安で不安で仕方がない。
怖い。
一人きりのボールを見つめて考えていた。
「お!そーらっ!」
俺の名前を呼んだ、知ってるようで知らない。
そんな声が俺の背後から聞こえてきた。
俺は振り向いた。
「久しぶりっ!」
それは白衣を着た先輩だった。
あのキムタクの先輩。格好良い先輩。
「先輩…」駄目だ。先輩とはもう会いたくなかった。
俺はあのサッカー部に情けをかけてしまったから。
止めたくても止められない涙を無我夢中で拭った。
「宙!? どーしたの 、」
俺を包みこんでくれるような優しい声。
先輩の声は最後に会ったときより少し声変わりしていた。
「俺…」俺は事情を話した。
サッカーが関東大会まで行けなかったこと。
俺は教師になること。それは本当は嫌なこと。
ほとんど聞き取れないような涙声で、聞き取れるはずもないのに先輩は、俺に寄り添って頷いてくれた。
「僕はね、今したかったことしてるよ。」
俺の話の後に先輩は答えた。
「俺も本当は大学行こうって思ってたんだけど、もっとしたいことが見つかったから。」
「宙はさ、好きなことしていいんだよ。」
俺の手を取って握った。先輩の手は俺の手より数段も暖かかった。