「宙はさ、好きなことしていいんだよ。」
俺の手を取って握った。
先輩の手は俺の手より数段も暖かかった。
「好きなこと?」
オウムのように言葉を返した。涙のせいか、声が思うように出なかった。
「うん。」
「自分を愛せるのは自分だけだから。」
先輩のあの言葉には今も、今でも温かみを感じられる。俺の心にずっと残っている。
この河川敷であの時、先輩にボールを渡した。
もっと自分の未来を考えてみたい、という理由で。
先輩は笑顔で薄汚れたボールを受け取ってくれた。
今となってはそのボールは元々の居場所に帰ってくるように俺の足元に転がっている。
薄汚れたボール。
あの時と一つも変わらない。
ボールは変わらないのに俺のもとには帰ってきてくれたんだな。
やっぱり先輩のおかげだ。
ボールを手に取り、まじまじと見詰め抱き締めた。
“おかえり” 声になれない声はボールには届いた。きっと。それは俺のボールだから。
ぽろぽろと湧き出る涙は拭わない。
拭うことがボールに失礼だ。
俺は長い間置いてきぼりにしていた。
“ごめん。”“ごめんな。”
俺のだいじな モノ が帰ってきたんだ。
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