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番外編
部屋に戻ると、さっきまでの静けさが嘘みたいだった。
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「ただいま」
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「…ただいま」
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同じ言葉なのに、さっきと全然違う。
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靴を脱いだあと――
元貴が止まる。
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「ねえ」
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「なに」
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「ちょっとだけいい?」
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返事を待たずに、近づく。
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「元貴?」
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そのまま、ぎゅっとくっつく。
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「……」
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「ちょっとだけ」
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「さっきも聞いた」
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「今回はほんと」
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声が少しだけ小さい。
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さっきの不安が、まだ少し残ってる。
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涼架は何も言わずに、そのまま受け止める。
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「……落ち着いた?」
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「まだ」
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「まだなの」
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「うん」
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少しだけ間があって、
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「…離れたら、また変になる気がする」
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正直すぎる言葉。
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涼架は少しだけ息を吐く。
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「じゃあ離れなきゃいい」
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「いいの?」
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「いいよ」
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その一言で、元貴の力が少しだけゆるむ。
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「……よかった」
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小さくつぶやく。
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そのまま、ソファに座る。
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でも――
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「元貴」
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「なに」
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「さすがにこのまま動けない」
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「えー」
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でも、少しだけ離れて、
またすぐ近くに座る。
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「これならいい?」
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「さっきとあんまり変わってない」
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「いいじゃん」
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涼架は少しだけ笑う。
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「ほんと甘えすぎ」
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「今日だけ」
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「さっきも聞いた」
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「今回はほんとに今日だけ」
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「毎回言ってる」
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でも、否定はしない。
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元貴はそのまま、肩にもたれる。
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「……ねえ」
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「なに」
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「さっきさ」
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「うん」
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「探しに行ってよかった」
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涼架は少しだけ驚く。
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「なんで」
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「会えなかったら、もっとやだった」
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まっすぐな声。
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「……そっか」
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「うん」
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少しの沈黙。
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「元貴」
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「なに」
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「俺も」
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「え?」
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「いなくなって、ちょっと後悔した」
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その言葉に、元貴が顔を上げる。
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「ほんと?」
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「うん」
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「じゃあもうやめて」
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「なにを」
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「いなくなるの」
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少しだけ強く言う。
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涼架は一瞬黙ってから、
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「…気をつける」
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「絶対ね」
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「うん」
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そのまま、元貴がまたくっつく。
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「ほんとズルい」
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「またそれ?」
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「こうやって離れられなくするの」
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「してないし」
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でも、少し笑ってる。
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「ねえ」
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「なに」
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「今日はこのままでいい?」
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「もうそのつもりでしょ」
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「うん」
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即答。
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「……いいよ」
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その一言で、空気が一気にやわらぐ。
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「ありがと」
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小さく言って、さらに寄る。
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「元貴」
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「なに」
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「さすがに近い」
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「いいじゃん」
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「まあいいけど」
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結局、離さない。
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さっきまでの不安も、すれ違いも、
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全部、もうどうでもよくなっていた。
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ただ――
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隣にいることだけで、十分だった。
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