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あれから1ヶ月ちょい。
究さんと私の〝恋人ごっこ〟はずっと継続中です。
で、柳川はと言うと、別段変わったところはない――と思うの。
やっぱり究さんの、脈があるようにしか見えないと言うのは気のせいだったんじゃないかなとか思ったりしています。
***
6月に入って、絶賛梅雨の真っ只中。
今年は例年よりずいぶん早い梅雨入りだったけれど、いつかの年みたいに空梅雨ということもなく、このところしっかりと雨続き。
洗濯物は乾かないし、何となく湿っぽく感じられる布団カバーなんかも洗いたいのに、干す場所を考えると洗うのが躊躇われて。
コインランドリーに行けば短時間でカラッとふんわり乾かせるのは分かっているのだけれど、あいにく徒歩でとなると、それも二の足を踏んでしまう。
私、車の運転免許証は持っているけれど、肝心の車がなくてコインランドリーに行くにも、大きな袋を抱えてえっちらおっちら歩くしかない。
雨のなか大きな袋を抱えて傘をさして……はしんどいな、と思って。
そもそもそれじゃ、せっかく乾かしたシーツが濡れてしまいそう。
***
「楓ぇ〜。誰か車出してくれる人いないかなぁ〜」
講義後。
次もこの教室で引き続き別の授業があるから、そのまま居座って。
もぉ、限界だよぉーっと机に突っ伏すようにして、窓の外の景色を濡らす雨を横目に眺めながらウダウダ言っていたら、楓にサラリと「ほら、例のゼミの先輩彼氏は?」って言われてドキッとする。
いちいち説明しなくても、さすがに1ヶ月以上も経てば、楓にも究さんとのことはバレていて。
私、柳川に偽装がバレては意味がないので、親友の楓にも先輩とのことが仮初めの関係なのだと説明できていないの。
究さんはマイ原付は持っているけれど、車には乗っていらっしゃらなかったはず。
何よりマイカーを持っていらしたからと言って、家のことを頼むとかそんな間柄ではない。
そもそも私と彼が恋人ごっこを興じるのは柳川の前でだけ。
結果、基本的には学内――それも研究室――がメイン舞台だから、当然我が家に来てもらったことも、究さんの家に伺ったこともない。
とっても清らかな関係なの。
楓はそれを知らないから「彼に頼めばいいじゃん。大好きな彼女の頼みとあれば、何とかしてくれるでしょ?」とかニヤニヤするの。
「いっ、家になんてっ」
呼んだこともないのにっ!て言いそうになって、柳川がほんの数席先にいるのを思い出して、グッと言葉に詰まる。
付き合ってひと月以上経つのに、彼氏を家に招待していないのはおかしい気がするし、かと言って来てもらったことがあると嘘をつくのも何だか嫌で。
結果、究さんの話をすること自体がダメなことに思えてきてしまう……。
究さんの意思を汲むなら、逆にガンガン柳川に聞こえるように上手くいってるアピールをするべきなんだというのは分かっているんだけど、どうしても究さんのリードがないと煮え切らない態度になっちゃうの。
何なら、家に来たことのある異性は柳川だけだよ!?って力説したいくらいだもん。
ふと気になってちらちらと視線を転じたら、何故かたまたま柳川と目が合ってしまってドキッとする。
今日はいつものお友達たちと一緒じゃないのかな?
柳川は珍しくひとりで座っていて。
焦るあまり、即座に視線をそらしてしまったけれど、感じ悪かったかも。周りに友人たちもいなかったんだし、「やっほー」みたいなノリで、小さく手くらい振るべきだった?
あれこれ考えてソワソワする私を見て、楓がほんの少し声のトーンを落として、「もしかして柳川のこと、まだ吹っ切れてないの?」と聞いてくる。
「あ、うん、もちろん。――え!? あ、違っ、そ、そんなことな、……」
――吹っ切れないどころか、今でも絶賛片想い中です!
そんなことを思っていたせいか、思わず無意識に肯定しかけて、慌てて否定したけれど……どこか歯切れの悪い返事になった。
そんな私の様子を見た楓が、「ははぁーん」とつぶやいてニヤリとするの。
――ん? 楓?
楓の笑顔に不穏なものを感じた私だったけれど、一歩遅かった。
「ねぇ、柳川ぁー! アンタ最近時々車に乗って来てるわよね?」
言うが早いか、楓がツカツカと柳川の方へ行ってしまって。
――や、ちょっ、楓っ、なにを!?
私はひとり取り残された形で、楓の方へ手を伸ばしたまま中途半端に腰を浮かせて、絶賛口をパクパクさせながらフリーズ中です。
そういえば柳川、このところ時々大学にも車で来てるのを見かけることがある。
幼なじみちゃんを、高級車に乗った彼氏に攫われた一件があったから、柳川的に何か思うところがあるのかも知れない。
「あ? あぁ、まぁ、親の車だけど、空いてる時は運転の練習がてら使わしてもらってるよ」
それが何?と怪訝そうな顔をするのへ、「近いうちにさ、車出してもらえたりしないかな?と思って」って、何言い出すの!
「別に構わねーけど……仁科、どっか行きたいトコでもあんの?」
柳川の言葉を聞くや否や、楓がこちらを振り向いて
「いんにゃ。私じゃなくて言凛がね。ねぇ、言凛ぃ〜、こっち来てさっきの困りごと、柳川に話してみなよー!」
って、何考えてるの!
楓が私の方へ話を振った途端、柳川があからさまにムスッとしたのが分かって。
私は泣きたい気持ちになった。
コメント
2件
楓ちゃん、ある意味ナイスアシスト!?ꉂꉂ ( ˆᴗˆ )
いやもう楓ちゃんマジで何してくれてんの!?!?😭💦 ことりの「絶賛片思い中です!」って心の声、めっちゃ切なくて胸キュンしちゃったよ…。 柳川くんがムスッとしたのも気になるし、車の話からどう転ぶのか続きが気になりすぎて夜しか眠れないかも…!!📖💕 究さんとの清らかすぎる関係も含めて、このモヤモヤした空気感が梅雨の湿気と重なってエモかったです…🌧️💗
月詠 涼
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