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「か、楓っ。私っ、梅雨が明けるの待つから……いいよ」
目頭が熱くなるのを必死で堪えながら愛想笑いを浮かべたら、柳川に溜め息をつかれた。
「なんだよ? 煮え切らねぇ態度取られると気になんだろ。――言えよ」
不機嫌に促されて、私は仕方なくシーツをコインランドリーに持って行きたいだけだと事情を話した。
「それ、……そのさんが居んだろ」
当然のように、憮然とした態度でそう返されて、グッと言葉に詰まった私を見て、楓がまるで助け舟を出すみたいに、
「彼氏とはまだ家を行き来するようなディープな関係にはなってないみたいでーす!」
とか……そんなこと、私、楓にも話してないよね!?
楓の言葉にオタオタする私を見て、柳川が呆れたみたいに吐息を落とした。
「まだ、って……。お前ら付き合い始めてひと月以上だろ」
小学生かよ、と溜め息まじりに吐き捨てられて、私は「それ以下よ!(だって偽装だもん!)」って叫びたい衝動に駆られる。
抑えきれない感情で、とうとう涙目になってしまって、慌てて2人に背中を向けると、「だって……私の気持ちが追いついてないんだもん。仕方ないじゃない」と、言ってはいけない一言をこぼしてしまっていた。
そのセリフに、楓が私のすぐ横に来てポンと肩を叩くと、小声で「素直になれ」ってささやいて、
「ごめーん! 私、用事思い出したからちょっと離れるね。あとは2人で話し合って」
と手を振って立ち去ってしまう。
「ちょっ、楓、待っ――」
今この状態で置いて行かれたら、私、困る!
そう思って、慌てて楓の後を追おうとしたら、
「鳴宮。今の、どう言う意味だよ?」
って、柳川に手を掴まれた。
握られた手首が熱くて。
投げかけられた声がいつも以上に低められていて怖くて。
私は彼の方を振り向けない。
「あ、あの、柳川……手……」
涙がまだ引っ込んでいない――ばかりか驚きのあまりポロリと落っことしてしまって。
振り向けないままに握られた手を取り戻そうとギュッと引いたら、「おーい柳川、何してんの〜?」とのほほんとした声がかかった。
柳川がいつもつるんでいるメンバーの声に、私、救われた!って思ったの。
なのに。
「悪ぃ、星野。次の講義、俺と鳴宮の代返頼めるか?」
って……何それ、聞いてないっ!
「えっ、なに、なに? 柳川と鳴宮ってそーいう関係だったん?」
言って、楽しげにクスクスと笑う星野くんへ、
「うっさい黙れ」
って柳川が返して。
でも、今、柳川肯定も否定もしなかった?って都合の良い解釈がしたくなるのは究さんの洗脳のせい?
「で、やってくれるの、くんねぇの?」
およそ人にものを頼む態度ではないと思ったのだけれど、星野くんは気にした風もなく「勿論、任せとけ」って言ってくれて。
「恩に着る」
って応えた柳川に、「今度昼飯奢りな」って声が返る。
柳川はそれに「セットメニュー以外な?」って言うと、「行くぞ」って私の手を引っ張った。
私、結局涙を拭えていなくて、ずっとうつむいていたから……。
柳川がどんな顔で星野くんとのやり取りをしたのか分からず終いだった。
けれど、星野くんの「ごゆっくり〜」という声に何となく照れ臭くなって。
授業をサボって柳川と2人きり。
究さんとお付き合いしている体だと言うのも忘れて、何だかワクワクしてしまった。
グイグイ少し強引に手を引かれるままに、うつむいて柳川の後を小走りで付いて行くけれど、顔が熱くてたまらないの。
チラホラと残っている同級生の視線がチクチクと痛いような気がするけれど、私は泣き顔を見られたくない一心で顔を上げられないでいるから、実際どんな目で周りから見られているのかは分からない。
私の盾になるみたいに前を歩いている柳川は……平気なの?
***
「あ、あのっ、や、ながわっ、お願、待って……」
廊下に出ても無言で私の手を引いて足早に歩き続ける柳川に、私は彼の真意が分からなくて少しずつ不安になってくる。
さっき星野くんが言ったような甘い雰囲気なんて微塵も漂いそうにないって分かったら、今度は柳川は何のつもりで私を連れ出したんだろう?って思って。
柳川の歩く速度に付いて行こうと頑張ると、身長差のためかどうしても小走りにならなきゃいけなくて、ちょっぴり息も上がってしんどい。
それで、息を切らしながら待って、と告げたら
「――すまん、早過ぎたか」
言って、柳川が速度を少し緩めてくれた。
でも、止まる気はないみたい。
「――ね、どこに……向かっ、てる、の?」
実際には私、柳川といられるなら何処だって構わないんだよ?
でも――。
行き先はやっぱり気になって。思い切って問いかけたら、
「ゼミ研室」
と吐き捨てるように言われて、私の心臓は息苦しさからだけじゃない鼓動を刻んでドクン、と嫌な音を立てて跳ねた。
「4年はもうほぼ授業ねぇから……多分居んだろ」
言われて、その〝4年〟が誰を指しているのか分かった私は、思わず立ち止まる。
場所は折しも階下に伸びる階段の踊り場。
急に私が止まったから、握られていた手がスルリとほどけて柳川が2、3歩つんのめったような形になって、ヒヤリとする。
踊り場じゃなかったら、柳川に怪我をさせてしまっていたかも知れない。
驚いたように柳川が壁に手をついて体勢を整えると、こちらを振り返った。
「鳴宮。何で急に……」
「ごめ、なさっ」
謝罪は柳川を危険な目に遭わせそうになってしまったことに対して。
大事に至らなくてよかったと思ったらホッとして、震えが止まらなくなった。
コメント
2件
ことりちゃん、しんどいね(涙)
みぅ🤍🥀 ああもう、この回……心臓に悪かったです……! 柳川くんが「煮え切らねぇ態度」って催促してくるところから、手首掴まれて連れ出されるところまで、ずっとドキドキが止まらなかったよ。 特に代返お願いするとこ、柳川が肯定も否定もしなかったのが気になりすぎる〜! 「私の気持ちが追いついてない」って本音がポロッと出ちゃう主人公と、それでも柳川と2人きりにワクワクしちゃう気持ち、すごく分かるよ……偽装関係の複雑さがじんわり伝わってきた🥀 次の展開が気になる……!
月詠 涼
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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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