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ふたりの様子チェックに戻ると、オムライスを半分こして、名物デザート、『ツンデレ☆パフェ』と『片思いサンデー///』を食べ始めていた。
(あぁぁ、いいなぁ、いいなああぁぁぁあ)
私、彼氏とそうやって食べるの夢なんですよ、先越された―――!!
……いや、違うもん……!
私なんて、いつかオムライスだけじゃなくて、山梨さんとパフェも半分こしちゃうもんねっ!!!
悔しい思いを噛みしめながら、ふたりを観察して一時間後。
山梨さんたちが店を出るのに合わせて私も外へ出た。
身を隠しながら後ろを歩いていくと、山梨さんはコインパーキングに止めてある、車体も窓ガラスもまっ黒の大きな車に近づいていく。
(えっ、もしかして山梨さんの車、これなの!?)
私の中でいかつい人が乗ってそうなイメージだったけど、もしや山梨さんは黒王子!?
ひとり突っ込みしていたら、山梨さんたちがその車に乗り込んだ。
(はっ! 隠れなきゃ!)
慌てて来た道を戻り、大通りにある自販機の陰へ隠れる。
しばらくして黒塗りの車が出てきて、左手に曲がった。
(あぁぁ)
尾行はこれまでかぁ。
ふたりはどこに行くんだろう。
山梨さんとひとことでも話したかった……。
……ていうか、尾行ってつらいな。
ぜんぜんこっち見てももらえないし、寂しい気持ちでいっぱいになっちゃう。
「……山梨さーん! 次は私とデートしてくださいね―――!!」
信号待ちをしている山梨さんの車に向かって手を振っていると、真横にタクシーが止まった。
(えっ)
後部座席のドアが開くも、乗客らしき乗客はおらず、まわりに私以外誰もいない。
目をぱちくりしてはっとした。
そ、そうだ、私、手を挙げてる……!
しまった、とおろおろしかけたけど、ピーンとひらめいた。
(こ、これはっ)
もしかしてふたりの行方をしかと見届けろって、神様のお告げかも……っ。
山梨さんの車は信号でひっかかっていて見える範囲にいるし、きっとそうだ!
「のっ、乗りますっ!!」
タクシーに乗るなり、前を指さして言う。
「運転手さんっ! あの車―――前の信号で止まってる、真っ黒の車を追いかけてほしいですっ!」
わっ、このセリフ、探偵っぽくない!?
内心テンションのあがる私をよそに、運転手さんはマジメに山梨さんの車を追いかけてくれた。
追跡して20分後、山梨さんの車は商業施設が立ち並ぶ海沿いのエリアへ入った。
観光客船が止まっているのが見える。
(ここは……有名な観光スポットじゃないですか!)
場所を変えてデートとか??
くぅぅぅ、羨ましいぃぃ!!
山梨さんの車は、客船ターミナルのロータリーで止まった。
「前の車止まりましたけど、ここで降りますか?」
「えぇと……」
ここは車の待機所って感じだし、船に乗るなら駐車場に止めるはずだよね?
「ちょっと……待ってもらえますか?」
移動するかもしれないと思い、黒塗りの山梨カーを見つめる。
しかし窓ガラスが真っ黒だから、中の様子が全くわからない。
しばらく待つと、アヤさんと山梨さんが車を降りてきた。
(ん? 車の傍で立ち話してるけど……)
ふたりはすこし話をして、アヤさんだけがターミナルに入っていった。
(んん?)
ってことは……ここへはアヤさんの見送りで来たの?
(わわ、これは……)
今山梨さんひとりだっ!
私がここから降りたら、偶然ですねー!って、山梨さんに話しかけられるかもっっ!
「あの、お客さん。結構込み合ってきたので、ここで降りるか、車を移動するかしてもいいですか」
「あっ」
運転手さんに言われて周りを見れば、いつの間にかロータリーに車がいっぱいだ。
「ここで降ろしてください……!」
料金を清算して降り、山梨さんがいたほうを見る。
すると―――まさかの山梨さんが、すぐ傍にいてこっちを見ていた。
「や、山梨さんっ!?」
いるのはわかってたけど、こんなにすぐ目が合うとは思わなかった!!
びっくりしている私と対照的に、山梨さんはぜんぜんびっくりしていない。
(んん??)
ここは「わぁっ!?」って驚くところだよね?
なんか、ちょっと呆れた感じなのは気のせい??
「サキちゃん、こんなとこまでつけてくるなんて、なかなか大したモンやなぁ」
「……ええっ!?」
ななな、なんで尾行がバレてるの!?
衝撃で口をパクパクさせていたら、山梨さんが呆れ顔のまま苦笑した。
「ちょ、サキちゃん。「なんで」って顔されても、後ろに同じタクシーがずーっとついて来てんねんで? つけられてるってわかるに決まってるやん」
「ああぁっ!!」
確かに!!
そこまで頭が回ってなかった!!
ガーン、とショックを受けていたら、山梨さんがすっと腕組みをする。
「それで、こんなとこまで俺をつけてきて、なにしようとしてたん?」
「え……ええーっと」
なにって、それは―――っ。
「秋葉原に買い物に行ったら、山梨さんとアヤさんがいるところを見かけちゃって! その時、「山梨さん、関西じゃなかったんですか!? どうしてアヤさんといるんですかぁ!!」ってなってっ」
「……おぉ、」
「ショックで、気にもなってっ! それでふたりの後をつけてきたんですっ!!」
言いながら、アヤさんと手を繋いでいたところとか、メイドカフェでの仲よさそうなところとか思い出しちゃう。
あぁぁ、ちょっと苦しい。
あの時、となりにいるのが私だったらよかったのに……っ。
ジェラシーから叫び気味に言う私を見て、山梨さんは呆気にとられたようだった。
しばし見つめ合って―――山梨さんは急に吹き出した。
「!?」
「なにそれ、マジで言ってるん?」
「えっ、マジですっ! アヤさんが羨ましすぎて、大人気の秘密を盗もうとか、山梨さんと話したい!とかも思いましたっ!」
「なんやそれー」
微妙な顔だった山梨さんは、声を立てて笑い出した。
(あっ、笑顔!! すごく素敵……!!)
めっちゃキュンってなるっっ。
その瞬間とらえたいっ、今すぐ100枚くらい写真とりたいっっ!!
スマホを出したくてうずうずしていると、山梨さんが笑いすぎて涙が出たのか、目尻を指で拭った。
「ほんま、サキちゃんは面白い子やなぁ。ちなみに、それってほんま?」
「めっちゃほんまですっ!」
「そーか。そんなん言われても普段なら信じへんけど、きっとほんまなんやろうな」
笑いながら言う山梨さんを見ながら、以前に『人を疑う癖がついている』と言っていたのを思い出した。
(あれが、どういうことかわからないままだけど)
楽しそうに笑ってくれるから、私もついつい笑っちゃう。
「今朝、関西から東京に来てん。それでアヤちゃんにデートしよ!って誘ってんよ」
「!!」
それ、すっごく気になってたこと!!
だけど、本人の口から聞くとダメージが……っ!
「そ、そうだったんですねっ」
あぁ、ハートがパリ―ンと割れた音が聞こえる。
でもでも、負けないっ!
東京で一番に会いたいのはアヤさんかもしれないけど、それは今の段階ですからっ!
「ちょ、サキちゃん、その顔……笑かさんといて」
「え?」
「無理しすぎ、笑顔が強張りまくってる」
「えぇっ!?」
とっさに両手で顔を触ったのと、笑いをこらえていたっぽい山梨さんが、また吹き出したのは同時だった。
「あー、これ言ったらサキちゃんがどんな反応するんかと思ったけど、思った通りの反応してくれたなー」
「な、なんですか、それっ」
「ま、これは尾行された仕返しや」
「うっ」
それを言われたら、なにも言えないっ!
引きつった笑いを浮かべる私と、おかしそうに笑い続ける山梨さん。
……あぁ、笑顔見てるとめっちゃドキドキする、永遠に見ていたいっ。
「さて、尾行はダメって教えたところで―――。正直者のサキちゃん見てたら、俺もなんか言ってみたくなったわ」
「?」
「実は俺―――。さっき、アヤちゃんに失恋したばっかやねん」
「……そうなんですか。アヤさんに失れ………――――」
失恋。シツレン、しつれん――――……。
「えぇぇぇえぇぇぇえっ!?」
し、ししし失恋っっ!?!?
喉がもげるかと思うほど声が出たっ。
目だって飛び出ちゃうくらいまん丸になってるって、自分でもわかる。
「さすがサキちゃん~、いい反応やなぁ。言った甲斐あるわ~」
「えっ! ちょ、ちょっと待ってくださいっ、失恋ってどういう―――」
「それ聞くってことは、俺に振られたって言わせたいん??」
「えっ!?」
「痛手負ってるのに、傷口に塩塗りこんでくれるなぁー」
「えっ、あっ!! ご、ごめんなさいっっ!」
そんなつもりなかったんですっ!!
勢いよく頭を下げれば、すこし小さくなった声が聞こえる。
「こう見えて俺、実はすごいショックやのに」
「そ、そうですよねっ……」
そりゃそうだよね、なにがあったのかわからないけど、私がその立場ならすっごくショックだよ。
「サキちゃんにフラれたフラれた言われて、俺傷ついたわ」
いや私、そこまで言ってないですっ!
山梨さんを傷つけたいわけないじゃないですかっ。
心の中で叫びながら、ちらっと山梨さんの表情を窺う。
するとうつむき加減だった山梨さんも視線をあげて――――にやっと笑った。