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コールタール 畠山 里香
「ああ……あれね……」
「そのようだね……」
畠山 勇は私の父で探偵だった頃の先輩だった。今日も私と同じく眠い目を擦って訪れた。勇は大の夜型人間で、いつも朝は大量の缶コーヒーを飲んでいた。
「またいつもの缶コーヒー……」
「ああ……」
依頼にあった問題のゴミ屋敷が目の前にあった。少しだけの悪臭が鼻につく。私たちは、ここで事件の全容を少しでも早く知ろうとしていた。
ここで……。
悪夢は始まった……。
「もう二件新たにでたんだよ……」
「これじゃ、都市伝説にもなるわね……」
「ああ……」
勇は缶コーヒーを何度も片手で振っていた。目はまん丸としていて、顔と肩も丸い。体だけは尖ったようなひょろ長い父だった。そんな父のよく見かける仕草だ。そうすると、コーヒーの味に何か変化が起こるのだろうか?
「ここは事故物件だったし、買い手を探すのも一苦労だったろうね。まあ、良い町だから買い手も出たようだけど」
「そうね。でも、不可解過ぎない?」
「そうだね」
「もう十件よ」
「うーん……そうだね」
二件の遺体の写真が、また新しく町にばらまかれたようだ。勇は今朝に二件とも遺体の写真が郵便箱に入っていたと言った。私の方には事務所の郵便箱には何もなかったはずだ。それと、勇が言うには遺体の損傷はやはり酷かったようだ。この怪事件は一体いつまで続くのだろうか?そうね……もし、この町の人たちが全員霧の中に消えるかしたら、もう事件は起きないんじゃないかしら?
私は皮肉を呟いていた。
遺体となった人達は、この周辺。つまりは町の人だったのだ。何故、どうやって、そして、何のために……。
疑問は尽きないのだ。
犯人は本当に人間なのだろうか?
「あ、犯人は目星がついてきたんだ。徐々に警察と私たちが黒だと候補している人たちから、除外したり、めどをつけたりしていたんだよ」
勇は意外なことを言った。
「え! ……父さん?……それって……この……」
「そう、この町の人だったんだ。全員ね……。その人達は、まだ犯人かは定かではないけれどもね」
缶コーヒーを煽る父。勇の顔は、どことなく青白かった。私もそうなのだろう。青白い顔をしているはずだった。
でも、私にはこの仕事はやっぱり向いてないだろう……。時には素晴らしい好転をすることもあるが……。
この怪事件も事件解決の糸口が父によって見えてきたようだ。
「除去法というものの考えをしていくと、私の中では一人の男性が浮かび上がったんだ」
勇はあっという間に空になった缶コーヒーを道路の脇に投げ捨てた。
「その人は、交換レンズとSLRビューファインダーを備えた超小型電子カメラ製作に長く携わっていた男性で、名前は、えーっと……西村 研次郎だ」
一瞬、私は父が何を言っているのかと、首をかしげた。
犯人……? 西村 研次郎……?
本当……何のことを言っているのかしら?