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萩原なちち
「だいきがいいなら、いいよ」
「やったぁ!」
いつきくんの許可が出て、りゅうせいが無邪気に喜ぶ。
三人に手を振ってから、俺としゅうとは席について軽食を口にした。しゅうとも俺と同じような軽いメニューを頼んでいるけれど、さっきから少し元気がない気がするのは気のせいだろうか。
「朝早かったから、疲れた?」
「ううん、そんなことないです。疲れたとすれば、昨夜の居酒屋からのいっちゃんの襲撃のせいやと思う……」
「確かに。いっちゃん、今日いつにも増してテンション高いもんな」
「あの人、見た目クールやのにずっと喋ってますよね。それでいて面白いから、ずっと笑わされて、こっちもツッコんでしまう癖があるからなかなかきもちが休む暇がなくって」
「……たった一泊しただけなのに、そんなに気が合うんだな。……いっちゃん、本当、格好いいし仕事もできるし面白いし。非の打ち所がないよな」
――うわっ、俺、格好悪い。
今の流れ、まるで嫉妬だし、「だいきさんも格好いいですよ」っていう言葉、待ち構えみたいじゃないか。勘のいいしゅうとのことだから、きっと気づいているんだろうな。なんだか自分が嫌になってくる。
「……だいきさん、」
「あ! 来週、動物園だろ? どうする? 電車で行ける近場にするか、車を出して大きめのところに行くのも良くない?」
「え、……ほんまに連れていってくれるんですか?」
「なに。冗談だったの?」
「いや……『カレンちゃん』の時の話やったから、なかったことになったかなぁって」
「カレンちゃんだって、しゅうとなんだろ? じゃあ、約束は約束だ」
「……はい!」
そんなに嬉しそうに笑うなよ。
俺なんかの、どこがいいんだ。顔だけはいいなんて陰口を叩かれるくらい、性格だって悪いんだぜ? 好きなやつにしか優しくしない、最低の人間だ。カレンちゃんにもあんなに冷たく当たったし、その後だって酷いことを何度も言った。
「ねえ。……昨日のLINEのメッセージのことなんだけど。あれも、前みたいに俺をからかってる?」
「え? いや……本気です」
「俺が男好きなの、知ってたんだろ? だったら、なんで初詣に女の子の姿で来たの?男だって言った方が、よっぽど楽だっただろ」
ずっと気になっていたんだ。なぜ、わざわざ自分が不利になる道を選んだのか。
「……ちょろそうやなって、思って」
「はぁ!?」
「りゅうせいくんから聞いてたんです。だいきさんの恋愛対象は確実に男の人で、芳本課長の事が本当に好きで、なっちゃんもタイプっぽいって。でも2人にはふざけてるだけで本気でいこうとはしてないし、俺たちが知らないとこで誰か相手がいるんじゃないかなって」
「なにそれ。……俺がめっちゃ遊んでるみたいじゃん」
「でも、実際そうなんですよね。僕、何度か外でだいきさんをお見かけしたことがあって、見るたびに違う男の人といたし……」
「マジかよ……」
好きな人を大事にしすぎて、それが裏目に出ている。
なんだか、猛烈に恥ずかしくなってきた。いい歳した大人が、本命の恋人も作れずに遊び歩いているなんて。……それを、しゅうとは全部知った上で近づいてきたのか。
「……僕が欲しかったのは、その日一回限りの関係やなくて、この先もずっとだいきさんと一緒におれるっていう確信やったんです。だから、あえてもう一つ壁を作って、そこを超えられたらきっと大丈夫やって。
……でも結局、女の子はダメってトドメを刺されて、焦ってこの姿に戻ったんですけど。やっぱり、芳本課長やいっちゃんに勝てる気はしなくて。
でも、これから時間をかけて、だいきさんの心を僕のものにしていきたい。お二人みたいに色気のある男に成長して、だいきさんが離れられなくなるような男になりたいんです」
――うわ。
真っ向勝負の、猛烈な告白だ。
この間のラブレターといい、昨日のメッセージといい、そして今の言葉といい。……多分、俺、こんなに真っ直ぐ想われるのは人生で初めてだ。
嬉しい。けれど、なんで俺なんだろう。俺が遊びまくっているのも、裏で性格が悪いって言われているのも知っているはずなのに。
「……本当、嬉しいよ。ありがとう。これからゆっくり時間をかけて、しゅうとのこと、知っていけたらなと思う。……今はとりあえず、来週どこの動物園にするか決めない?」
「はいっ!!」
俺のどこをそんなに好きなのかはまだわからないけれど、それも含めて、これから知っていきたい。
「育む」っていうのは、きっとこういう感覚なんだろうな。……なんだか、次にしゅうとに会えるのが、もっと楽しみになってきた。
「じゃあ、りゅうせい。だいきにワガママ言っちゃダメだぞ?」
「はぁい! ぬいぐるみ置いたら、すぐいつきくんち行くから待っててね!」
「おう。パスタ作って待ってる」
「いいなぁ、俺も行っていい?」
「だぁめ。だいきくんはすぐいつきくんにベタベタするからぁ」
車のドアを閉めて、いつきくんに手をあげる。
去り際、その後ろからしゅうとが、ちょこんと顔を出して小さなサメのぬいぐるみをフリフリしていた。
「なんすか? デヘヘって、気持ち悪いですよ」
「上司に向かって気持ち悪いとか言うな!」
「また『おとうさん』の怒り方じゃん」
「……うわぁ、楽だわ。りゅうせいといると」
「今日、ずっと調子悪かったですもんね、だいきくん。全然面白くなかった」
「本当、自分でもそう思うわ……」
車を発進させ、家路につく。ここからりゅうせいの家までは、四十分くらいか。
「なんか、でもわかりますよ。俺もいつきくんといると『いい子でいたい』とか『可愛くありたい』とか、そういうのが先行しちゃって、あんまりふざけられない時ありますもん」
「だよな? ……まだ『好き』って段階じゃないんだけどさ。でも、人として惹かれる部分はあるわけじゃん? その人が自分のこと『めっちゃ好き』だってわかってたら、やっぱり、カッコつけちゃうよな」
「言われたんすか? しゅうちゃんに」
「……ああ。なんか、すっごい愛の告白をもらった」
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