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背中に、じっとりとした視線を感じる。
気のせいかと思い、足を止めて不自然に後ろを振り返ってみたけれど
そこには誰もいない。
街灯の下に広がる影だけだ。
「気のせい……だよね?」
自分に言い聞かせるように呟き、再び歩き出す。
けれど、確実に感じるのだ。誰かが
暗闇の中から僕の背中を凝視しているような、不快な肌感覚。
それどころか、今度は静まり返った夜道に
僕の靴音とは違う「もう一つの足音」が聞こえ始めた。
トコ……トコ……と、一定の距離を保った規則正しい靴音。
(だ、誰か、普通に後ろを歩いているだけ……だよね?)
そう思って、もう一度さりげなく周囲を確認する。
だが、やはり人影は見当たらない。
電柱の陰や住宅の隙間に隠れているのだろうか。
それなのに、足音だけは確実に僕の後ろをついてくる。
「……変なの」
不意に冷たい夜風が吹き抜け、街路樹の木々がザワザワと不気味な音を立てて揺れた。
街灯の間隔がさらに開き、暗闇が濃くなるエリアへ差し掛かる。
「……っ」
三度目、今度は勢いよく振り返った。
やっぱり、誰もいない。
しかし、僕が足を止めると同時に、あの足音もピタリと途切れるのだ。
そして僕が歩き出すと、また。
トコ……トコ……トコ……
「……ッ!!」
恐怖のあまり、全身の毛穴が収縮して鳥肌がブワッと立った。
(こ、怖い……っ!何これ、絶対気のせいなんかじゃない……っ!)
夜道の孤独感と相まって、底知れない恐怖が一気に膨れ上がっていく。
僕が恐怖に耐えかねて早足になると、後ろの足音もそれに合わせるように速さを増した。
心臓が口から飛び出そうなほどバクバクと鳴り響く中で、必死に頭を回転させる。
(とにかく、早く家に帰らないと……っ!)
僕は全速力で駆け出した。
心臓が破裂しそうになりながら、角を何度も曲がり
見慣れた我が家の玄関が見えた瞬間
文字通り駆け込むようにして扉を開けた。
「っはぁ…!はぁ……!!」
玄関に飛び込み、背後の重いドアをバタンと閉めてすぐさま鍵をロックする。
チェーンまでしっかりと掛けたところで、僕はへなへなとその場に膝から崩れ落ちた。
「な、何だったんだろ…すごく胸騒ぎがした。不気味すぎる……」
得体の知れない恐怖から、無我夢中で走ったせいか息切れが激しくてまともに立ち上がれない。
リビングにいる母親に気づかれないよう
玄関の冷たい床の上で、靴を履いたまましばらく肩で激しく息を繰り返していた。
「あっ…そういえば、コーラ……」
レジ袋の中に目を落とすと、
案の定、激しくシェイクされたコーラは中で限界まで炭酸が膨張し
今にもペットボトルを突き破らんばかりの恐ろしい圧力を生み出していた。