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都庁展望室
ガラス越しに見える新宿の街は、組織の赤い光に侵食され、巨大な基板のように明滅している。
システムと直結した影山の身体は、膨大な電流によって痙攣しながらも、その表情には狂気じみた陶酔が浮かんでいた。
「無駄ですよ、黒嵜君。このパルスはもはや『思想』です。個人の声が、数万人の脳に書き込まれた『絶対的な秩序』に勝てるはずがない」
「……思想だぁ? そんな高尚なもんじゃねえだろ。お前らがやってんのは、ただの『強制参加の葬式』だ」
俺は血を吐き捨て、志摩が開放したマイクを握りしめた。
脳が割れるような頭痛。
地底で取り込んだ「組織の残響」が、俺の意識を内側から食い破ろうとする。
だが、その痛みが、逆に俺を研ぎ澄ませていた。
『和貴、始めるぞ!』
スピーカーから志摩の合図が響く。
『お前の声を俺がデジタル変換し、アンテナの出力全開で街に叩き込む。……ただし、一音でも迷えば、お前の精神が街全体のノイズに飲み込まれて消える。賭けだぞ!』
「……上等だ。俺の人生、ずっと博打の連続だったからな」
俺は目を閉じ、深呼吸をした。
思い出すのは、システムが導く未来じゃない。
ガード下のラーメン屋の湯気。
深夜の歌舞伎町で響く、酔っ払いの怒鳴り声。
山城のバカ笑い。
親父の、不器用な背中。
――計算式には決して載らない、新宿の「生臭いノイズ」。
「……起きろ、新宿ゥ!!」
俺の咆哮が、マイクを通じて都庁の巨大アンテナへと送り込まれた。
デジタルに整えられた冷酷なパルスを、俺の怒りと
悲しみと、生への執着を込めた「不協和音」が真っ向から破壊していく。
「な…パルスが……打ち消されている!?馬鹿な、個人の意志がシステムを逆流するなど……!」
影山が目を見開き、吐血する。
地上では、立ち尽くしていた住人たちが、一斉に耳を押さえてうずくまり始めた。
瞳の赤い光が激しく揺らぎ、消えていく。
「……あ、俺……何してんだ?」
「ここは……?」
一人、また一人。
洗脳の鎖が解け、街に「人間の雑音」が戻り始める。
「……見たか、影山。これが俺たちの『秩序』だ」
俺は力尽き、膝をついた。
だが、影山の瞳の奥にある絶望は、まだ底を見せていなかった。
「……確かに、街の支配は解かれた。だが黒嵜君……その反動の『熱』を、君の身体が耐えきれるかな?」
アンテナのオーバーヒート。
都庁の最上階が、凄まじい爆圧と共に、オレンジ色の炎に包まれた。
残された時間は、あと81日。
勝利の代償は、あまりにも残酷な火柱となって空を焦がした。
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