「もう、俺を殺してくれ」
俺にそう告げたお前は、すごくすごく幸せそうだった。俺は今でもその理由がわからない。
いつもみたいに、笑っていた日々だったのに。普通という幸せを噛み締めていたのに。あんなことがなければ。
「お前なんて生きてていいわけがないだろう!?」
そう、俺にナイフを向けてきた男性の声が路地裏に響き渡る。すぐ後ろを振り向いたら人々がガヤガヤとしていた。俺が何をしたというのか。
「お前が会社のデータを盗んでから、俺の、俺の家族の人生は狂ったんだ!!お前さえいなければ!!」
俺は生きるために仕事をしただけだ。何も悪いことはしてない。
「俺は、悪いことなんてしてないけど?」
そう否定したって、男性は聞く耳を持たない。
「お前の仲間も全員殺してやるよ!!お前と一緒にな」
適当に躱しておこうと思ったがその言葉だけは信じられなかった。そんなことあってはいけない。俺のせいでみんなが死ぬなんてダメなんだよ。みんな幸せなのに。
「お前、何て言った?」
「は?聞こえなかったのか!!お前の仲間、風楽奏斗と四季凪アキラ、それとセラフ・ダズルガーデンとか言ってたか?そいつらと一緒に殺してやるって言ってるんだよ!!バカが!!」
は?なんで俺のせいであいつらが死なないといけないんだよ?おかしいだろ。俺のせいでっ、、、。
「俺以外にあいつらに苦しめられてきた奴が山ほどいるんだ!商売を邪魔され、仲間に裏切られ、家族を殺されたような、俺はそんな奴らの救世主になるんだ!!」
俺らから見たらただの人殺しだけど。俺らから見たらただの幸せを妨害する奴だけど。結局お前だって人の幸せ奪ってるじゃん、俺らの普通をやっと手に入れた幸せを奪って、人生を狂わせてるんじゃんか。結局前の俺らと変わってるのか?変わってないだろうが。
「やってみればいいよ」
その時は死ぬよりも痛い目に遭わせるから。もう、こんな奴の相手をしたくなかった。俺がこいつを殺したら、みんなは悲しい顔をするだろうと思ったから。殺したい気持ちをグッと抑えた。
「嘘じゃねぇぞ」
男性は今すぐ殺す程馬鹿じゃない去っていった。絶対に守ってやる。俺の命を引き換えにしても。
最近雲雀の様子がおかしい。おかしいと言っても普段を大きく変わっているところはなく、なんとなく長年友人としていて、暗殺者として雰囲気を感じ取ることが必要な世界に生きてきた俺だからわかることだった。多分俺以外も奏斗も凪ちゃんも気づいてると思う。口に出していないだけで。
「セラお、帰り道気をつけてな〜」
いつも雲雀は気をつけてを言ってくれる。そんなこと言われる年代ではないけれど、その言葉に嫌気がさしたことは一度もなかった。雲雀が俺を心配してくれる証拠だったから。でも、今は違うよ、雲雀。
「セラお、帰り道殺されないように気をつけてな?」
なんでそんなこと言うの?何か、気がかりなことがあったの?
「言われなくても死なないよ。で、何を隠してるの。雲雀は」
土壇場で嘘が上手な雲雀のことだ、上手にはぐらかすんでしょ。
「なんもないよ?ただ今日は雨が降ってるから、人の気配に気づきづらいかなぁ思って!」
ほら、嘘ついてるのなんてバレっバレだよ?いつもなら、
「帰り道、雨降ってるけど大丈夫か?」
って声かけてくれるもんね。あんまり俺を舐めないでよ。ちょっとした変化くらい気付けるって。
「雲雀、うざいよ」
俺はそう言っていた。俺に隠し事を、バレバレな嘘をついてまでそんなこと言いたいのかと嫌気がさした。初めて雲雀に、うざいと言ったかもしれない。いつもならあんなに笑顔でバイバイって言えるのに。今日はそんな気分じゃなかった。俺に嘘をついただけで嫌気がさした俺もいやだ。
「そっかぁ、ごめんな」
でも雲雀は怒ることなくてただ、ただただ悲しげに瞳を揺らしていただけだった。なんでそんな顔するの、俺は雲雀に、
「嘘をついてほしくないだけなのに」
雲雀と別れて傘にあたる雨の音に俺の小さな嘆きは掻き消された。ただ、ただ雲雀にあんな顔をさせた俺が腹立たしくなった。俺の無力さを呪った。
男が姿を現してから早一ヶ月、一向に姿を現さないものだから夢なんだと思っていた。あれは逆夢なんだと。夢で起きたことは起きないから今起きてないんだと。そう信じていた。そうであったらいいのにとひたすらに、願っていた。そうソファで目を瞑っているときに、着信音が鳴る。相手はアキラだった。仕事の連絡か?と思いすぐに既読をつけようとスマホを開くと。
「セラ夫が行方不明です」
そうひとつのメッセージがヴォルタクションのグループラインに届いていた。今思えば俺の悪夢はここから始まっていたんだと思う。
セラおが行方不明。アキラによると
『いつものように任務に向かっていました。任務の内容はただの引越し手伝い。それから音信不通状態が続き、何かあったとするならば、任務帰り。セラ夫はショートカットで路地裏を使うことが多いのでその時に襲われたと見るのが妥当だと思います。家に足を運んでも出る気配はなし。何者かによる誘拐と見て色々と情報を仕入れているところです』
何者かによる誘拐、十中八九あの時姿を現した男だろう。
「雲雀、知っている情報があるならすぐに吐いて」
奏斗の言葉に俺は戸惑った。俺が何かを隠しているのに気づいたんだろう。みんなの命が俺のせいで消え去るかもしれないってのにみんなを巻き込みたくなかった。俺だけで全て解決したかった。こいつらにまた苦しみを味合わせたくない。
「どんなことよりも、今はセラのことが大優先だ。それでも雲雀が吐かないっていうんだったら雲雀は調査に参加するな。セラの命がかかってるのに情報を吐かないやつは調査に足手纏いだ」
そう奏斗は俺を吐き捨てた。何か情報を手に入れた時に共有しないやつなんてどれだけ一緒にいたって信頼できないから奏斗の判断は正しい、けれど俺にだって守りたいものくらいある。譲れないものがある。でも、
「アキラ、雲雀が情報を吐くまで調査に参加しないようにさせておいて。調査は僕とアキラで進める。雲雀は安全圏で見守ってるといいよ」
冷たい目線で俺を見つめる二人。言わないと、セラおを助けれない。俺のせいだったのに、、。そう思ったら俺は口を開いていた。
「そっか、よし雲雀の証言を元にアキラは調査を続けて。雲雀の証言的にみんなの実家と関わりがある人とそいつは関わってるはずだ。そこまで僕たちの実家と関わっていた人と繋がってるのは少ないはずだからね、アキラの情報網なら余裕だろ?」
「私を舐めてもらっちゃ困ります。現役よりは衰えましたが余裕です」
そういいアキラはすぐにパソコンと顔を見合わせる。言ってよかったのだろうか、奏斗はまた無茶をしないだろうか。アキラは背負いすぎないだろうか。
「雲雀はアキラと僕が仕入れた情報をもとに走り回ってくれ。雲雀も序盤は情報を仕入れてくれ。どんな手段を使ってもいい。何がなんでもセラを助け出すぞ」
奏斗はそう言ってランドリーを去っていった。アキラはずっとパソコンと睨めっこしていた。俺も奏斗に続いてランドリーを出る。いろんなツテを使い、いろんな情報を仕入れるつもりだ。一見関係なさそうに見えても重要な情報は山ほどある。一句一句聞き逃さないように情報を探る。
そう調査を続けて約三日が経った。それでも一向にセラおの情報は入らない。ここまで来るとおかしいと思うのが当然だ。
「アキラの情報網、僕の家の情報、雲雀の人間関係からの情報、全て使っても情報が何ひとつないなんておかしい、絶対に裏がある」
そうランドリーに三人で集まると奏斗がぶつぶつと独り言を言っている。ここ最近はまともに寝れてない。ずっと情報を探しているからだ。それでも、セラおを見つけるためなら力を惜しまない。そうして静まり返ったランドリーに一つの着信音が鳴る。
「プルルルルプルルルル」
一般的な電話の着信音が鳴る。音先は奏斗の携帯らしい。いちいち立ち上がって離れたところに行く気力もないのか奏斗はソファに座りながら電話をとった。
「すみませんが、誰でしょうか?」
見知らぬ電話先だったのか、丁寧な口調だった。俺とアキラはそんなことどうでもよくて、ただセラおの手がかりとなる情報がないか仕入れた情報をもう一度確認していた。
「は?」
そしたらいきなり奏斗がゲスの聞いた声でそういうんだから驚いた。
「どういうことだ?おい!!」
怒鳴るような口調でスマホの画面を見つめる。何があったのか何も知らない俺とアキラはただ奏斗が叫び散らかしている様子を見つめてるだけだった。セラおが行方不明でいきなりかかってきた電話に奏斗が怒鳴りつける。その3つの情報で勘のいい俺とアキラはすでに何があったのか目処は立てていた。相手側が勝手に通話を切ったのか、今すぐに人を殺しそうな雰囲気を出して奏斗は言った。
「セラの居場所がわかった。僕の実家、ひばの実家、アキラの実家、セラの実家全ての家から反感を買っていた家の若造が犯人だ。死ぬより苦しい目に遭わせるぞ」
そう言い放った奏斗に反論することなく俺とアキラは頷いた。その時の三人の瞳にハイライトがなかったのは言うまでもないだろう。
セラの居場所がわかった。やっと、やっとだ。ずっと調べでも出てこなかった犯人が教えてくれた。何がなんでも死より苦しい目に遭わせる。”俺”の仲間を人質にとったことがどれだけ重いことか知らしめてやる。
「行くぞ」
「「はい/あぁ」」
セラがいる、とある廃ビルの目の前に僕たちはいた。僕は銃を持って、雲雀はナイフや睡眠薬を持って、アキラはハッキング用のパソコンと銃を持っていた。絶対に助けてあげるから、待っててねセラ。
「きたぞぉ!!」
僕たちがビルに入ると一斉に大群が押し寄せてくる。でも、僕らは微動だにしない。こいつらはただの犯人の手下。そんなのどうでもいい。僕たちは手を真っ赤にしながら進んでいった。ここでは感情を殺せ。セラを助けること以外どうでもいいんだから。そうやって進んでいくと鍵のついた部屋についた。セラがいると犯人が言っていたところだ。アキラが鍵を開けようとしている間、僕はターゲットサイドを起動させていた。
「開きましたよ」
アキラはそう言うと同時に乱暴に扉を開けた。アキラも怒りが沸々と湧いているのだろう。雲雀だけは、後ろで目を瞑っていた。
「ようやくきたな」
そう言う男。拘束されたセラの前に立っている男こそがセラを誘拐した張本人なんだろう。
「何が望みだ」
僕はそういった。何も渡さないけれど、最後の望みくらい聞いてあげようか。
「お前らの命だよ」
そう男が言った瞬間、僕の銃弾は男に向かっていた。男は間一髪で交わしたが、右腕に大きな傷を負った。傷を負った状態ならば大きく動くことはできない。
「油断したな?」
男がつぶやいた。僕は意味が一瞬理解できなかった。そして僕は後ろからナイフを刺された。心臓からは離れているが出血量が半端ないだろう。セラを解放しようとしたアキラも同じような目に遭っていた。そして、雲雀は背後にいるのか姿を見ることができなかった。
これで終わりか。そう悟った。もう生きれない。出血量が多すぎて立ち上がれない。口からも血を吐く始末だ。
「最後の遺言でも聞いてやるよw」
そうアキラに銃を立てているのが見えた。アキラ、死ぬなよ、、?僕らの中でも、僕が死んでもお前が生きてれば、この逆境を乗り越えられるから、、、。
「奏斗、たらい、セラ夫、あなたたちと出会えて幸せな人生でした。次はまt____」
バァン。男はアキラの遺言を最後まで聞かずに銃を撃った。アキラ、アキラ、、?な、んで。
「ごめんw長すぎて待てなかったわw」
そう嘲笑う男が死神にしか見えなかった。僕らの幸せを妨害する悪魔にしか見えなかった。僕らの愛すべき仲間を殺した殺人鬼にしか見えなかった。
「お前もじゃあな」
そう男は”俺”の頭を撃った。今までありがとう。み、んな___。
部屋に入る前、後ろからの刺客に気づいた俺はナイフを取り出して一人を殺した。けれどまだいたのか三人ほど部屋に入って行った。
「待て!!!」
そう言った瞬間にはもう遅かった。扉は頑丈で開けるのには時間が掛かった。そして部屋を開けると、男と三人の刺客がいた。そして、倒れている奏斗とアキラ。俺はなんとなく察してしまった。
「遅かったn___」
男がそう言う前に俺はそいつを殺していた。周りの刺客も同様に。長く苦しめられるように腹にナイフをブッ刺して、多めにナイフを持ってきてたから、三人同時に刺していた。無我夢中にそいつらを苦しめていた。
「セラお、生きてる、、?」
セラおのお腹には大きな穴があった。頬に触れると少し冷たい。だけどまだ息がある。まだ希望がある。
「ひ、ばり、、、?」
セラおがそう呟く。
「生きてるな!!今すぐ助けを呼ぶから待ってろ、頑張れ!まだ生きれるぞ!!」
俺は希望の光が見えた。奏斗とアキラの分まで二人で生きよう。セラおは死なせない。まだ、生きられるんだお前は。一緒に生きよう。二人の分の夢も背負って。
「もう、俺を殺してくれ」
だから、なんでそんなこと言うんだ?なんでそんなに幸せそうに言うんだ?そんなに笑顔で言うんだよ。
「もう、出血量が多すぎて、生きれない。雲、雀もわかってる、でしょ?でもこのまま、死にたくない。死ぬ、んだったら、大好きな、雲雀の手、で死にたい」
俺はさずっとお前のわがままを聞いてきたよ。だけどそのわがままは無理だよ。まだ生きれる可能性があるなら生きよう、生きようよ!
「雲雀、最後のわがまま聞いてくれる?」
セラお、俺がその顔に弱いこと知ってるだろ。やめてくれよ、そんな末っ子の願い叶えたくなるから。そんなに笑顔で言わないでってば。
「雲雀、幸せだったよ俺。次の人生はさ、普通の家庭に生まれようねぇ」
「セラおを殺したら俺も死ぬよ。一緒に転生しような、幸せになろうな?」
俺はお前らと一緒に死ぬつもりだ。心中しようぜ。仲間を助けにきた三人は、敵に殺され、仲良く四人で息絶えました。感動的じゃないか。
「ダ〜、メ、雲雀が自殺、したら俺雲雀の、こと嫌いに、なるからね」
「それはやだな」
涙が勝手に流れていく。涙は頬をつたり、セラおの足にあたる。
「今まで、ありがとね、雲雀」
俺の手にあるナイフはセラおの心臓をさした。俺は愛すべき仲間が死んだ土地で一人寂しく泣いていた。泣き叫んでいた。
「奏斗っ、アキラっ、セラおっ」
俺はただ三人の名前を呼ぶこと以外何もできなかった。そして三人の身体を持って、ビルを出た。俺はそっと車に積んで、車を動かす。俺の体は勝手にランドリーへと向かっていた。
それからと言うものお前らのことを忘れたことは一度もない。お前らと生きた記憶が滝のように流れてくる。セラおが幸せそうに笑う姿、奏斗が無邪気に笑う姿、アキラが控えめに綺麗に笑う姿。全てが綺麗に鮮やかに思い出せる。
「飽和ってこう言うことか、、」
セラおが一度言っていたことがある。
『俺さ、ずっとみんなのこと考えてるかもしれない。飽和状態みたいな感じ』
笑顔で、いきなりそうつぶやいたもんだから意味は理解できなかった。でも、今ならわかるかも。
「お前らのことで頭がいっぱいいっぱいだよ」
お前らのことを救えたんじゃないか?もっと早く行動していたら。もっと情報を仕入れていたら。まだみんなと幸せに笑えていたかもしれないのに。
ずっとずっと、みんなが死んでいく様を思い出す。なんでセラおはあの時、笑顔だったのか、なんでみんなは笑顔の遺体だったのか。俺はわからない。俺が馬鹿であることを言い訳にして考えないことにした。
なぁ、、みんな!!!俺、生きてていいのかな?みんなのこと、見捨てたのに、、、、。
飽和とはまさにこのこと
「お母さん!これすっごく美味しいよ!!ほら!」
「お父さん、これ本当に美味しいです!」
「お母さん!お父さん!また来ようね!」
「もー汚さないでよ、奏斗、アキラ、聡」
「ずっと行きたがってたお店とはいえはしゃぎすぎだぞ」
CAFE Zeffiroにてとある三人の男の子が父親と母親ともに姿を現すようになる。
その頃渡会雲雀は精神を病みカフェ店員としても、ライバーとしても活動をやめ、一人で家にこもっていた。ただみんなが天使となり舞い降りてくるんじゃないかと願って。にじさんじの時の先輩から「流石に外に出ろ雲雀」と言われ、息抜きで訪れたZeffiroに三人に似た男の子がいるならば、それは転生だと信じて疑わないだろう。
「み、んな、、だよな?」
コメント
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いや待って1話目からわかる これは神作なんだ…、 やばい良きすぎるよもうなんか、幸せです()