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カプセルの中で、リョーカはぼんやり瞬きをした。
まだ焦点が合っていない。
長い眠りから無理やり起こされたみたいだった。
「……ヒロトくん?」
「おう」
「モトキくん?」
「……あぁ」
その返事を聞いて、
リョーカは安心したように笑った。
本当に、
いつもの笑い方だった。
モトキはカプセルに手を当てる。
冷たい。
だが、
確かに生きている。
「出せるか?」
ヒロトが周囲の端末を調べる。
古い研究設備。
ヴェルトラウム式の文字列。
「んー……たぶんいける」
「たぶんってなんだよ」
「いやこれ触ったら爆発しそうで怖ぇんだよ」
その時
リョーカが小さく首を振った。
「……まだ、出ないほうがいいかも」
空気が止まる。
モトキの眉が寄る。
「どういう意味だ」
リョーカは少し黙る。
言いづらそうに。
「ボクね、今まだヴェルトラウムと繋がってる」
ヒロトの顔から笑みが消える。
「……どのくらい」
「かなり」
冗談じゃない。
モトキは拳を握る。
リョーカは続けた。
「ボクが中枢を止めたあと、残った意識を全部ここに閉じ込めたんだ」
周囲の壁が、
微かに脈打つ。
まるで、
施設そのものが生きているみたいに。
「この施設、ボクを檻にしてる」
静かな声。
「ボクが外に出たら、またヴェルトラウムが動き出す可能性ある」
沈黙
ヒロトが舌打ちした。
「……クソ」
せっかく見つけたのに。
ようやく、
取り戻せたと思ったのに。
また
また奪われるのか。
その時。
リョーカがふわっと笑う。
「でもね、前より全然平気だよ」
「……」
「モトキくん達の声、ちゃんと届いてたから」
モトキは目を伏せる。
そんなこと言われたら、
何も返せなくなる。
「ねぇ」
リョーカがガラス越しに手を当てる。
モトキも、
ゆっくりその位置に手を重ねた。
透明な壁一枚。
届きそうで届かない。
「外、どうなった?」
「平和になったよ」
モトキが答える。
「まだ完全じゃないけど」
「そっかぁ」
リョーカが嬉しそうに笑う。
「よかった」
ヒロトが近くの椅子に座り込み、
大きく溜息を吐いた。
「なぁリョーカ」
「ん?」
「お前、今どんな感じなんだ」
少し考えるように目を閉じる。
「……いっぱい声が聞こえる」
「声?」
「うん」
リョーカの瞳の奥で、
微かに黒い光が揺れた。
「ヴェルトラウムの中にいた人達」
空気が静まる。
「みんな、寂しかったんだって」
その声は、
悲しそうだった。
「だから“ひとつ”になろうとした」
モトキは静かに聞いている。
「でもね」
リョーカが笑う。
「最近、少し変わったんだ」
「?」
「みんな、“別々でもいいかも”って思い始めてる」
ヒロトが目を丸くする。
「は?」
「モトキくん達見てたからかなぁ」
その瞬間。
施設全体の光が、
少しだけ柔らかくなった。
脈動も穏やかになる。
まるで
ヴェルトラウムそのものが、
静かになっているみたいだった。
「……リョーカ」
モトキが口を開く。
「絶対、連れ帰るから」
リョーカが目を見開く。
モトキは真っ直ぐ言った。
「時間かかってもいい」
「方法がなくても探す」
「だから」
その声は、
以前よりずっと強かった。
「一人で諦めるな」
沈黙
リョーカの瞳が潤む。
そして
少し泣きそうに笑った。
「……うん」
その時だった。
施設の奥から、
低い警告音が鳴り始める。
ビーッ、ビーッ。
赤いランプ。
ヒロトが顔をしかめる。
「おい、嫌な予感」
直後
施設全体が揺れた。
天井から埃が落ちる。
そして
聞こえる。
遠くから、
“何か”が歩いてくる音。
ゴン
ゴン
ゴン
重い
巨大な何か。
リョーカの表情が変わる。
「……え」
「どうした」
リョーカの顔から、
血の気が引いていた。
「なんで……」
黒い瞳が震える。
「まだ、“あれ”残ってたの……?」
次の瞬間。
研究施設の最奥。
超巨大隔壁が、
内側から吹き飛んだ。