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私には付き合っていた人がいた。私が14歳の頃から付き合っていたのだから、かれこれ12年になる。
その彼氏が昨日亡くなった。
原因は私にある。デートの最中に些細なことで喧嘩をしてしまった。
「もうあなたの顔なんて見たくない!」
そう叫びながら飛び出してしまったのだ。道路の真ん中に。
気づいた時にはもう遅かった。車が目前まで迫っていて、死ぬかもしれない、と思った。だが、彼が助けてくれたらしい。
「らしい」というのは、私はその場面を見ていないからである。
車が迫ってきていた時には気を失いかけていて、目を覚ました時そこは既に病院だった。
後日その場面を目撃していた人から話を聞いたのだが、彼は飛び出した私を押しのけ車に轢かれて犠牲になってしまったらしい。
看護師さんに彼のことを聞くと
「非常に申し上げにくいのですが…」
と言われながら霊安室に案内された。そこでは台に横たわった彼がいた。
顔を覆っていた布を取ると、眠っているといってもいいほどの穏やかな死に顔だった。
だが、握りしめた手はびっくりするほど冷たかった。
「ねぇ…起きて…?もう、朝だよ?」
滑稽に思えるかもしれないが、それしかかける言葉が見つからなかったのである。
「目、開けて…?私まだ、あなたと仲直りしてないよ…」
当たり前だが、どれだけ呼んでも目を開けてくれない。
「ねぇ、お願いだから起きてよ。昨日のこと謝りたい…」
彼の冷たくなった手に体温を移すかのように、強く強く握りしめる。「痛いよ。離して」そう笑ってくれることを期待して。
だが、いくら待ってもあなたは目を開けるどころか何も言ってはくれなかった。
「ねぇ!起きて!起きてよ!!」
私の泣き叫ぶ声が、霊安室に響いていった。
あなたが死んで1週間が経つが、世界は相も変わらず回っている。そんなことはどうでもいい、というように。
空が近い。手を伸ばせば、そのまま掴んでしまえそうな錯覚に陥る。今日はとっても天気がいい。
暖かな陽気が気持ちよくて目をつぶる。なんだか、下が凄く騒がしい。私のことを指さして、焦っているようだ。
何をそんなに騒ぐのだろう。彼のいなくなった世界にさよならを告げるだけだというのに。
下に向けていた顔を上げると、そこには彼がいた。両手を広げて微笑んでいる。
きっと幻覚だろう。それでも嬉しかった。
「ねぇ、今から私もそっちに行くから、」
待ってて。そう言って私もにっこり笑う。
彼の暖かな胸元を目指して、屋上から飛び降りた。