テラーノベル
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「けどさ、どう探すん? けっこう厳しいんじゃねぇの? 手掛かりが全然ないってなると」
「うん。それは……、そう」
幸介が至極もっともな意見を述べた。
「若者なら足つかえ足」と、そこに大将が口を挟んだ。
まるで刑事ドラマのベテラン刑事のような言い回しであるが、一応は理にかなっているか。
「そうなるよねー……」
「あぁ、やっぱり?」
多少の労力は必要だけど、この状況下で思い当たる方策と言えば、それくらいだろう。
「足を使うんですね? うん。良いと思います」
この提案に、まずは友人が手放しで賛同した。
昔ながらの堅実な作戦が、彼女のお眼鏡によく適ったのだろう。
「もちろんお父も使うんですよね? 足」
「あ? それは……、そう」
これには提案した張本人として、大将も付き合わない訳にはいかない。
何より、やはり彼としてもふゆさんのことが気掛かりだったのだろう。
昨夜、その身柄に引っ付いて離れなかった彼女の体温が、まだどこか身近に感じられたのかも知れない。
斯くして、落とし物の捜索は始まったわけだが、対象物の正体は未知である。
当の落とし主をもってしても、それが何なのか、まったく見当がつかない代物だという。
果たして大きなものか、小さなものか。
やはり物体であるのか、または概念のようなものか。
大体のサイズも予見できなければ、形象さえ判らない。
そんなものを見つけるのは、至難を通り越して不可能に近い。
ともすれば、ここはやはり彼女に先導を務めてもらうのが最善だろう。
なにを置いても張本人だ。
落とし主の気の向くままに、まずは歩を進めてもらう。
その後ろを私たちが追随する。
道々にそれらしきものを見つけ次第、彼女に確認を取る。
あるいは、本人の反応から大まかな推察を立て、落とし物の全容を徐々に突き詰めてゆく。
この流れが、現状ではもっとも合理的な施策だと思う。
逆に考えれば、それくらいしか方法がないとも言えるが。
「………………」
ゆったりと歩き出す彼女に倣い、私たちも後続を開始する。
まずは、商店前の道路から通じる手狭な小路へ向かう。
この路はなだらかな坂になっており、左右に年季の入った民家が並んでいる。
豊かな生垣があって、旧家に通じる短い石段がある。
梅雨の中休み。
朗らかな陽光は、この道行きが上手く運ぶよう、前途を祝してくれているようだった。
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