「なんとか抜け出せた……さて、見てみるか」
深夜0時頃。俺は病院を抜け出して、自◯場所候補の川岸にいる。
水深は……まぁまぁ深い。問題はこの川がどこまで続いているかだな。少し進んでみるか。
歩いて行けるのはここまでか。 それでも結構続いている、十分だ。
それに、水の流れが早い。飛び込んでもすぐに流される。問題はないだろう。
にしても……風が冷たい。川岸にいるからだろうか。
でも、星と三日月が綺麗だ。ん…あれ、魚座、だったかな。昔封魔と見つけては笑ってたっけ。
もしかしたら、これで魚座を見るのも………最後かもしれない。
「最後くらい、封魔と……見たかったな」
いつの間に、口にしていた。この言葉を。
無意識に言っていたんだろう。言ったこと、覚えていない。
でも、その言葉が願いを叶えたかの様に。後ろから、聞き慣れた声がした。
「封悪…?」
「………え?」
さっきまで誰もいなかったのに。そこには、封魔がいた。
俺は無意識に少しだけ、笑っていた。封魔も釣られたかの様に、笑っていた。
封魔と一緒に黙って星を、魚座を見ていた。その時、封魔が言った。
「また、見ようね」
「あぁ、また」
最後かもしれないのに。俺はそう、答えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー封魔目線ーー
中々寝れなくて、家を出た。少しこの辺を歩いてこようって思って歩いていた。
結構歩いて、少し眠くなった。そろそろ帰ろうって思ったその時だった。
川岸に、誰かいる。夜で周りが見えづらかったけど、すぐに分かった。
僕に似た何もない夜空と同じ様な紺色の長い綺麗な髪。 少しだけ見える星の髪飾り。
優しく揺れる右耳についているお札の耳飾り。 右腕に巻かれた血まみれの包帯。
「封悪…?」
「………え?」
すぐに降りて、思わず声をかけていた。封悪も驚いているみたい。
でも封悪は、無意識……かもしれないけれど、少しだけ、笑っていた。
久々に見た、封悪の微かな笑顔。僕は、嬉しかった。ずっと、笑ってくれなかったから。
そんな微かに笑う封悪に釣られたかの様に、僕も、笑っていた。
そして、二人で。星を……魚座を見ていた。僕は、封悪にこう言った。
「また、見ようね」
「あぁ、また」
封悪はそう、言った。でも、違和感を覚えた。
どこか、切なくて、儚い。 もう、次はない。そう、言っているかの様な。
そんな、声で、そんな、表情だった。
コメント
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とてもいい話だぁ……!