テラーノベル
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雪華と彩絲は相談して奴隷たちを二つのパーティーに分けた。
雪華が担当するのは、兎人《とじん》妹のセシリア、天使族忌み子のフェリシア、リス族の長女ネル、末っ子ネリだ。
購入してから今までの行動で、既に転売を考えさせられるネリがいて頭が痛い。
冒険者ギルドへ四人を連れて行き、アリッサの代わりに主《あるじ》登録をして、パーティーを組ませる。
奴隷が奴隷だけでパーティを組むには、この主登録が必要だ。
また奴隷の冒険者カードは一般の物と違い、ランクが存在しない。
代わりにどれだけ優秀なダンジョンアタッカーであるかが表示される。
今、揃って銅色に鈍く輝くカードには、初ダンジョンアタック、とだけ明記されていた。
冒険者ギルドに併設されている休憩所で、打ち合わせをさせる。
まず、冒険者キットは全員きちんともらっていた。
恥ずかしいからもらわない馬鹿がいると聞いて驚きだが、説明を怠《おこた》るギルド員がいると聞いて更に驚きだ。
運良くというか、さすがは王都の冒険者ギルドというか、ギルドマスターが締めつけたのかは分からないが、四人を担当した職員は丁寧に説明をしていた。
ネリは説明をほとんど聞いておらず、フェリシアとセシリアは額面通りに受け取り、ネルだけが幾つかの質問をしていた。
さすがはフォロー上手の長女。
日頃の苦労が見受けられる。
問題は打ち合わせで噴出した。
今回ダンジョンアタックをしようと思っているのは、王都初級ダンジョン。
全五階層。
完全踏破されており、かなり詳しいマップと説明冊子が売られている。
この、購入についてだ。
まずネルは、絶対に購入すべきだ、と主張した。
フェリシアは、主から預けられた大切な資金を無駄に使うべきではない、また見極めというのであれば、持ち込みは最低限にすべきだろう、とどちらも不必要と判断する。
セシリアは、自分は方向音痴なのでマップは買いたい、と折衷案らしきものを提案した。
ネリに至っては、それよりも食糧を最優先で買いに行くべきだ、と胸を張ったのだ。
この場合、正解はネルの両方必ず購入、だ。
しかし、フェリシアも一般的な主の思わくをきちんと読んでの意見だ。
主が奴隷も大切にするアリッサでなければ、彼女の意見こそ正解だろう。
セシリアは、まだ為人《ひととなり》がよく分かっていない、パーティーの細やかな不和こそ問題だと考えたに違いない。
また自分は方向音痴だ、と己を落としているところにも好感が持てた。
ネリは……論外だ。
フェリシアに意見を求められたので、主の考え方を告げる。
有り難いことです、とやわらかく微笑んでネルの意見に賛同した。
セシリアも同様だ。
ネリは早く食糧を買いに行こうと、椅子から腰を上げかけている。
小さいその体全体を使って、ネルがネリの頭に拳骨落としならぬ、全身アタックをした。
頭を抱えるネリを冷ややかな眼差しで見下ろしてから、フェリシアにマップと冊子の購入を頼む。
フェリシアは快く受けて、手早く購入を済ませた。
全身アタックから復活したネリが、食糧! 食糧! とうるさい。
セシリアがネリを連れての買い物を買って出た。
フェリシアは兎人なら買い物には向いているだろう、と言いネルは御迷惑をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願いします、とセシリアに深々と頭を下げる。
雪華は両掌を勢いよく差し出したネリを完全無視して、セシリアにお金と背負えるタイプのマジックバッグをわたした。
マジックバッグの中身は空っぽだが、かなりの高性能で初心者が持つ物ではない。
セシリアは迷ったようだが、どちらも受け取って、ギルドを飛び出していったネリを追いかけて走った。
「……妹御は大丈夫なのだろうか?」
「本当に申し訳ありません。甘やかしたつもりはなかったのですが……手助けをし過ぎたようです。戻りましたら、勝手な行動は慎むこと、勝手な行動をしたら私は絶対に助けないことを再度伝えようと思います」
「本来パーティーとは助け合うものなのだが……今回は致し方ないか……」
小さな体を更に縮ませて申し訳なさそうに告げるネルの頭を、フェリシアが優しく撫でる。
驚いた表情のネルは、そのごも嬉しそうにしばらく撫でられていた。
二人はマップと冊子を懸命に読み込みながら意見を交わしている。
買い物に出かけた二人が戻る頃には、五階踏破までの予定を、かなり綿密にたてていた。
「買ってきたよ! ネル姉《ねぇ》! 美味しい物がたくさんあるから、楽しみにしていてね!」
「申し訳ありません、雪華さん。資金……全部使い果たしてしまいました……」
わたしたお金は鉛貨100枚。
初心者向け装備品一式を全員分揃えたら厳しい金額だが、食糧だけだとしたら、間違いなく買いすぎだ。
青い顔をして謝罪をするセシリアの頭を軽く叩いて労っておく。
姉思いの彼女はネルに同情して必死に止めたのだろう。
ネリの無謀な行動はネルの評価、ひいてはパーティーの評価に繋がるのだから。
しかし天然ドジっ子には、セシリアの心情など分かりはしないのだ。
「……ネリ殿。ピクニックに行くのではないのだ」
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ユイ
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#死亡遊戯で飯を食う
ユイ
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「……こんな高級な茶菓子まで……貴女は、主様からお預かりした資金を何だと思っているんですか?」
「え! なんで怒るの? 優しい御主人様がせっかく下さったお金だもの! 全部使い果たさないと失礼でしょう?」
「……これは君のお小遣いでも報酬でもない、パーティーメンバー全員で使う資金だ! 次の買い物には絶対君を連れて行かない!」
「えぇ! 酷いよぉ、セシリアちゃん! 助けてよぅ。一緒にたっくさんお味見したじゃない!」
「していない! 君がどんどん食べるから、申し訳なくて、お金を支払ったんだ!」
「駄目だよぉ? 試食にお金を払うなんて、そんなもったいないことしちゃ、めっ!」
ネリの指がセシリアをでこぴんしようとしたので、握り込んで止める。
「い、痛いです! 雪華さん!」
想像以上にやってくれる。
どう言えばネリは静かになるのだろう。
ぎしぎしと指を握り込む力を強くしていく。
「勝手な行動は、他のパーティーメンバーにも迷惑がかかるんです! 今後絶対にやめなさい! もし、次に勝手な行動をしても私たち他のパーティーメンバーは、貴女の手助けを一切しません!」
「ね、ネル姉?」
「返事は!」
「でも、私!」
「返事っ!」
ネルの声に合わせて力を込める。
骨ではなく、爪にぱきりとひびが入った。
「はい! わかりました!」
ちっとも分かっていないだろう、投げやりな声だけが大きい返事。
雪華が手を放せば、わざとらしく上目遣いに雪華を見詰めながら、手を摩っている。
「準備はいいの?」
「セシリア殿、大丈夫か?」
フェリシアが与えているのは、マジックバッグから取り出したらしいイエローポーション。
恐らくフルグレ味だろう。
初心者には過ぎた代物だが、今のセシリアには必要な物だ。
でこぴんが成立しなくても、精神的なダメージが蓄積した状態なのだから。
「……はい。大丈夫です。お手間をおかけしました」
「いえいえ、妹が御迷惑をおかけしたせいです。本当に申し訳ありません」
「ネルさんが謝ることじゃないですよ。今後はネリさん本人からの謝罪しか受け取りませんから、そのつもりでいらしてくださいね」
「そう、ですね。はい、わかりました」
ここまでのやり取りなのに、ネリは唇を尖らせて不服そうに彼女たちを見詰めているだけだ。
ネリ自身の謝罪が一切ない。
ダンジョンへ入る前に、転売許可を取った方がいいのだろうか、悩む。
「では、行きますね」
四人が揃って頷いたので、雪華は興味深そうにこちらを伺っていた面々を軽く見回してから冒険者ギルドをあとにした。
冒険者ギルドから、徒歩三十分。
王都初級ダンジョンに到達する。
途中ネリが、セシリアがしっかりと背負っているマジックバッグから、菓子や飲み物を勝手に取り出しては堪能していたが、他のメンバーは完全無視を貫いた。
既に注意するだけ無駄という域に到達してしまったようだ。
ダンジョンの入り口に並ぶ前に、三人は水分補給をしっかりしている。
ネリは食べ過ぎ飲み過ぎで必要ないらしい。
「では、雪華殿、よろしくお願いいたします」
「うん、頑張ってね。私はよほどのことがない限り見ているだけだから」
「はい、了承しております。それじゃあ、皆入るぞ!」
先頭に立つのはフェリシア、肩にはネルが乗っている。
そういえばネルは何時からか、ネリではなくフェリシアの肩に乗っていた。
続いてネリが続き、セシリアが続いて、最後に雪華が殿《しんがり》となって、ダンジョンへと足を踏み入れた。
ダンジョン内はほんのりと明るい。
歩くだけなら大丈夫かもしれないが、モンスターの襲撃を避けるには、より強い明かりが必須だった。
セシリアが火打ち石を使って松明に火をつける。
横からネリが燃料を勢いよく振りかけた。
「ちょ! あぶなっ!」
「ネリっ! 勝手な真似をしないでっ!」
火が勢いよく燃え上がり、セシリアの髪の毛を一房焼いた。
咄嗟にフェリシアが髪の毛を握り締めて消火しなかったら、よりにもよって顔に火傷跡などが残ったかもしれない。
「ふぇりしあ! てぇ!」
「大丈夫だ。赤に祝福されしネックレスを装備しているからな。この程度、すぐに治癒される」
安心しろとばかりに差し出したフェリシアの掌から、火傷特有の赤みがみるみるうちに跡形もなく消え失せる。
「でも痛かったでしょう? ごめんなさい……それにしても、私。幸福を呼ぶリボンをつけてたんだけどなぁ……」
「やっぱり、お姉さんがいないと、効果がないんじゃないんですかぁ?」
双子が身につけた段階で効果が出るレアアイテムだ。
離れたからといって効果が薄れるものでもない。
しかも幸福を呼ぶリボンは、効果が良質と評価されているアイテムの一つなのだ。
ネリの悪影響は当初の想像を遥かに超えている。
彼女自身が厄災であるかのようだ。
その手前勝手な行動も、物言いも。
「……本当に、勝手なことしかしないな、貴様」
「フェリシアさん、ひどぉい! 五人もいるんだから、作業は分担しなきゃ! アイテムの拾い忘れは避けたいし! 明るい中で探索した方がいいじゃない? モンスターの襲撃も避けられるし、一石二鳥。最適な行動しかしてないのに、勝手なこととか、本当に酷いよ! ねぇ、雪華さん? ちゃんと評価してくださいね!」
返事はしない。
だが、フェリシアに向かって頷いておく。
アリッサの奴隷に、屑は、必要ない。
敬愛する主に害が及ぶなんて、冗談だって御免なのだ。
現時点で評価が良い方に傾くなんて夢物語でしかないだろう。
「さぁ! さくさく行こうね!」
一人で勝手に歩き出したネリを止める者は誰一人としていない。
姉であるネルでさえも、冷ややかに一瞥しただけだ。
「……蛇形態でついて行くつもりだったけれど……彼女、想定以上に問題児みたいね。やっぱり人型で同行するわ。基本的に手助けしないスタンスは変わらないけれどね」
「お手数をおかけいたします。私たち三人はせめてお手を煩わせないように努めます」
フェリシアが頭を下げるのに他の二人も倣う。
雪華は会釈の返事をしておいた。
「各階層二~三時間くらいで攻略できるそうだ。丁寧に回っていこう」
「ええ、宝箱は一階からあるみたいですよ? 中身も違うそうですから、必ず入手したいですね」
「マジックバッグのおかげで、ドロップアイテムや素材を余すことなく持って帰れるのは、有り難いよね」
セシリアがバッグを叩いて笑う。
「ちょ! なんで、ついてこないの? 足下が見えなくて転びそうになっちゃったんだから!」
そうならないように、アリッサが決して転ばないパライン皮ブーツを履かせたのも、すっかり忘れたようだ。
「……時間をかけて、丁寧にマップを埋めていくって、三人で決めているの」
「主様に喜んでいただきたいからな。採取などもするつもりだ」
「よく食べる人はさぁ。お小遣い、稼いだ方がいいんじゃないの?」
「えー。どうせ、主が全部持っていっちゃうんでしょ? さくっと攻略して帰宅した方が楽なのにぃ」
アリッサはダンジョンに興味津々だ。
自ら潜って十分に堪能する心積もりなので、奴隷たちが得た素材やドロップアイテムは全て売却させて、得たお金は全額奴隷たちのお小遣いにするだろう。
他の三人はアリッサが全て持っていくのが主としての権利だから当然と思っている。
だからこそ、丁寧に攻略してより多くのアイテムを持ち帰りアリッサを喜ばせようと考えているのだ。
評価が良いに決まっているが、それ以上にアリッサに失望されたくない思いが強い。
ただ一人分からぬ愚か者は何処までも空気を乱していた。
「じゃあ、一人で帰宅するといい。我らは三人で攻略する」
「それって問題じゃん? ねぇ、雪華さん?」
「私は評価するだけだけど?」
一人で帰宅したければするといい。
猶予を与えていたアリッサもさすがに速攻で見限るだろう。
「ほら、怒られちゃった! ああっ! モンスターだよっ!」
雪華の発言の一体どこに怒りの要素があったのか。
自分に都合の悪いことは全て人のせいにしてしまうネリの態度には慣れてきたが、不愉快さが地味に蓄積されてしまう。
三人の背後からころころころっと、初心者泣かせのスピードで転がってきたのは、ダンゴー。
虫型モンスターだ。
ウィークポイントは腹部。
通常状態では、ひっくり返して攻撃するのが一般的とされている。
転がってきた場合の対処は本来、初心者には難しいのだが……。
「いきます!」
フェリシアが出た。
ダンジョンは初めてでも、戦闘には慣れている。
更にきちんとギルド配布の冊子を読み込んだ成果が迅速な行動となって現れた。
ぎりぎりまで引きつけて素早く横に飛びながら、ウィークポイントの腹部にハルバードの切っ先を突き刺した。
「ぎいいいいいいいい!」
ハルバードでその場に縫い止めたので放置しても死亡するだろうが、ネルがミニサイズのククリナイフを手早く投擲する。
「ぎ、ぎ、ぎぃ……」
ウィークポイントを貫かれた状態での毒攻撃は致命的だった。
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