板の先にみんなで足を踏み入れる。そこには広い空間があった。真ん中には廃品で作られたごつい机があり、奥にはいかにも…ではない、小学生くらいの子供の姿があった。大きい目で静かにこちらを見すえている。
「…あなたたち、だれ?お兄ちゃんの敵?」
子供っぽい高い声で聞いてくる。お兄ちゃんとは?兄の方がボスなのだろうか?
「君、名前は?」
雨栗が優しい声で問い返すと、その子からにじみでていた緊張がふっと解けた。
「ぼく、紗内夜海斗!お兄ちゃんは紗内夜礼人と雷斗(らいと)!」
「ん?礼人?」
礼人と言えば、さっき案内してくれた腰の低いヤンキーではなかっただろうか。
「海斗くん、か。いい名前だね」
雨栗がそれっぽいことを言って微笑む。仮面を外した雨栗はなかなかのイケメン+優男である。子供を間違っても怖がらせることは無い。
「お兄さんたちは名前なんて言うの?」
「お、お兄さんたち?うーん…」
俺たちは全員まとめて10人くらいだ。さっき決めたグループ名でいい。
「お兄さんたちは、ちぴちゃんく社っていうひとつのグループだよ」
ルザクがドズル社さん達も含めて言う。社をサラッと入れるところがすごい。海斗くんは嬉しそうな笑顔になっていた。俺も心が和む。
「へぇ〜!ちぴちゃんく社さんは、何しに来たの?」
「えっとね…ここのボスに会いに来たんだよ」
サクッと説明すると、海斗くんは俺たちからして右を指さした。
「こっちに雷斗にいちゃんがいるよ!いってらっしゃい!頑張ってね!」
海斗くんに軽く応援され、右に進む。扉ではなく、穴があった。横穴空きすぎだろ、ここ。
「おうおう、誰かなぁ〜?人のナワバリに勝手に入り込む馬鹿はぁ〜?」
そいつは金髪に髪を染め、ギラギラとしていた。雷斗という名前の通りと言えばいいのか、雷のイレズミが入っていて、目つきも鋭い。
そこの空気だけ張りつめていて、異様に冷たかった。おらふくんはもう怖がって最後列に移動して、ぼんさんの後ろに隠れている。
「えー、ひとつ言わせていただきます。私たちは馬鹿ではありません」
桃栁が強気に言い返すと、雷斗は目を見開き、怯えの色を宿した。
「あ、前の…」
「そうです。桃栁ぴのです」
「なんの御用件でしょうか」
さっきの威勢はどこへやら。礼人と同じように敬語を使っている。手のひら返しが早すぎる。この紗内夜という血筋なのではないかと思う。
「また、噂を流して欲しいのだけど」
「はい、仰せつかりました…って、は?」
「おおせつかりました…?」
こいつ今、仰せつかりました、と言わなかっただろうか。わかりましたではなく。丁寧すぎる紗内夜の家系にゾッとした。
「噂、でございますか?」
「そう、噂。あなた達のせいで、私、大分嫌な思いしてきたんだからね!私が怖いって噂、流したでしょ!おかげで女王様なんてあだ名がついちゃったじゃない!」
「は、はぁ…」
「さっさと噂を消してよね!」
「畏まりました」
謎のやりとりの後、サクッと終わらせて校門前に来た俺たちは、自分たちの仕事の速さに驚いていた。
「あのさ…僕たち何しに行ったんだっけ?」
ルザクはもう目的すら忘れ、
「どんだけ仕事速いんだ私」
雨栗は自惚れ、
「ふう…殴れなかったけどすっきりしたなー」
「せっかくだから殴れば良かったのに」
ちろぴのは物騒な会話をし、
「僕たちはほんと助けられただけで申し訳ないな…」
「まあまあ、出られただけ良かったじゃない」
「外がなんだか久しぶりに感じる…」
「やっと外出られたぁぁぁあぁぁぁ!」
「おらふくん!声抑えて!」
ドズル社組は三者三様ならぬ五者五様の反応をしていた。
俺も実際、ちろぴのだけで終わった件なのでは?と思っている。
その後一週間で、桃栁の女王様呼びは無くなり、噂も広まって、普通の学校生活になったそうな。
毎回毎回すみませぬ…
コメント
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おもろかったです!
これで終わりの可能性大だと思ってください