──────ダーク視点──────
「───は?」
私は、そんな気の抜けたような、そんな声を漏らす。いや、だって。ありえないのだ。
私の鏡を無効化するなんて──────
私の鏡は全てを反射する。技も、力も、その技量だって。それなのに、そいつが使った無効化が反射されることは無い。
私は、無効化した相手をギロリと睨みつける。勇者の目は美しい光をたずさえ、殺意すらもない瞳で見つめ返された。
「おかしい…何をしたんだよ…!!おまえ!!」
私が思わず声を荒らげながら言う。そして、【勇者】は初めて【笑った】。敵を嘲笑うかのような、憐れむような、そんな笑いをうかべながらいう。
「なんでいつからその力が絶対だと思ったんです?」
───私の背筋がゾッと凍ったような気がした。勇者が初めて笑ったのは強者の余裕なんかではなく、煽るためのものではなく。ただ、面白い間違いをした相手をからかっていたかのようだった。
───【鏡】。正しくは【天変地異の魔鏡】
その鏡は神器のひとつ。この神器が持つ能力は『写ったものと正反対のものを生み出す』。無から有を生み出す。まさに神々の御業であった。
水を写せば火を吐き出し、悪人を写せば善人が生まれる。
───その逆も然り。
善人を写し出せば悪人が生まれる。幸福を写し出せば不幸を呼び起こす
しかし、これには神の遊びが混じっていた。ほとんどが真逆としているというのに、髪は全員黒や灰色。紫などのこの世の鮮やかな色とは対象的な色を持つのだ。それに、頭脳はなぜだか高くなる。───生き延びるためだ。力も強くなる。───殺されないためだ。
鏡に映し出されたものを【ミラー】と呼ばれることが多い。ミラーは迫害されることが多い。───所詮は鏡に映っただけの偽物に過ぎないのだから。だから、私達は知恵を持ち、力も持つ。そうでもしなければ殺されるから。そして、私達はひっそりと本体───写った人物と入れ替わる。魂を、少しづつ、少しずつ我がものにして。そうして、成り代わるのだ───。
「ふふっあははっっw!!!」
私は、思わず笑いが溢れる。あいつは私のミスを笑ったが、あいつは、見直しを忘れている。彼もまた、私と同程度だ。なぜ、一体いつから。私は逃げないと言ったのだろうか?
勇者が怪訝そうな表情で私を見る中、私は自分の陰へと落ちる。
───ポチャンッ
そんな水音と共に私は地面の下でも、天界でもない、新たな空間へと入る。ミラーのみが入れる、不思議な空間。移動や、身を隠すのにうってつけで。それが唯一の生き残る手段であるミラーもいる。
───そう、私は【ミラー】。ぐさおのミラーだ。ある日、偶然。神殿に訪れたぐさおが鏡に写ったのがきっかけだった。その幸せだった笑みが、恐怖で凍りついたその表情が忘れられない。彼女は純粋無垢で、愛らしい少女だった。───残念ながら、そんな彼女を映し出した私の性格は捻曲ってしまったが。そんなぐさおには兄がいた。『メテヲ』と『ガンマス』だった。長男ガンマス、次男メテヲという兄弟がいて、その2人にたいそう愛されて育っていた。───私が来るまで。そんな、幸せのぐさおが写ったのだ。真逆になったら、それ以上に不幸になるものだろう?
最初の不幸。ぐさおの長男であるガンマスが壊れた。弟のメテヲと、妹のぐさおは戦闘の才に恵まれたが、ガンマスも恵まれたものの、2人と比べれば見劣りした。それをきっかけに、ガンマスは顔を覆うようになった。黒い布で目元を覆い、その救済の瞳を見せなくなった。そして───堕ちた。イヴィジェル家の掟である、常に平等に。常に公平な心を。───彼は嫉妬に狂い、堕ちた。行き場のない気持ちを隠して。
ガンマスがイヴィジェル家から堕ちたことにより、ガンマスの記憶は神の配下の者全員が忘れ去った。───それくらい、イヴィジェル家は堕ちることを許されない。事実を破壊された。
次の不幸。両親が壊れた。今まで散々平等を説き、公平さを第1としていたのに。2人は、狂ったかのようにメテヲに重圧を乗せた。今まで、ガンマスが受けていた両親の重たい期待を、重圧を。メテヲが一身に受けた。───両親は未練がましく死んでいった。
その次の不幸。メテヲが壊れた。両親がいなくなったメテヲとぐさおは神に育てられるようになった。ぐさおはケン神の元へ。メテヲは最高神直々に。───壊れる始まり。メテヲは縋るものも、助けてくれるガンマス、両親も居なくなった。あとは、神にすがるしかなかった。神の思いどおりだ。神にだけ絶対忠誠を違う、従順な道具。それだけのために、メテヲの周りは確実に破壊されたのだ。
さて、どうして神はそんなことを行ったのだろう。引き金は私。ダークぐさりんと言われる、自分でも躊躇うほど可愛らしい名前をつけられた私だ。───可愛いというのは百歩譲った言い方だ。
私は、ぐさおの魂を吸い続けだ。それが、間違いなく神の注目を受ける原因だった。 そして、戦闘の才に恵まれたメテヲが一番の適任者であった。だから。確実に。ゆっくりと。壊された。あいつはもうなおらない。止めることは出来なかった。
───いや、できた。できないことは無かった。けれど、面白くはなく、また、不幸になる運命を変えることは出来ない。
【ぐさおに対し、できる限りの干渉はせず、そして守ること。代わりに殺さない】
メテヲが知ってのとおり、私たちミラーは無意識に相手の魂をすする。わざわざ意識して啜るのが面倒だから、なんていう怠慢な理由だが。
私は、放置した。けっか、予想通り面白いことになった。これは是非とも、見ていたい。
「───ハハッw」
私は、アイを影で笑う。
ここで切ります!いやーちょい長!書くのめちゃくちゃギリギリになって焦りました…。今回はイヴィジェル家を深掘りしました。と、同時に伏線回収ですね。メテヲさんの狂信者化とガンマスさんがメテヲさんにあたりの強い理由が分かりますかね…?ちなみに補足ですが、メテヲさんやぐさおさんはガンマスさんが兄であったことを忘れてますが、ガンマスさん側は鮮明に覚えています。ガンマスさんめちゃくちゃ記憶力いいので。
伏線はメテヲさんのキャラがあまりにも違いすぎる…は、さすがにわかるかw
それでは!おつはる!