「いえ、こちらこそ……。カッとなってしまい、申し訳ございません」
橋本も丁寧に謝り、小さくぺこりと頭を下げた。
「喧嘩両成敗したところで、本題に戻すよ。橋本さんには悪いけど、その手帳を1週間預かってもらう。自宅でなくさないように、保管してくれるだけでいいから」
「わかりました。ちなみにこれを持ってるせいで、トラブルに巻き込まれたりしませんよね?」
訊ねられた言葉を聞き、藤田が口角を上げて意味深に微笑んだ。
「俺が保管しているときは、特に何もなかったよ。昴さんがダミーを、盛大にばらまいているせいだったりする?」
「おっかしいなぁ。ダミーの話なんて、昇さんに一言もしていないのに。どこかで、そんな話を聞いたのか?」
「昴さんに言われた『中身は知らないほうがいい。じゃないと、ヤクザと警察の両方に狙われる』というセリフをもとに、俺なりに推理してみただけ」
(ゲッ! そんなヤバいものを平然と預ける、コイツらの気が知れねぇ……)
橋本は顔をしかめながら、助手席に置かれた大判の手帳を持ち上げてみた。
「重っ!」
見た目はただの手帳なれど、中に何か重たいものが入っているのか、想像以上に重かった。
「それ、持ち歩ける金庫になってるんだ。大型トラックが踏んでも潰れないし、炎の中に投げ込んでも燃えたりしない仕様になってる。そういうことで、手帳の保管よろしく頼む」
両手を合わせて橋本を拝む笹川に、橋本は渋々頷いた。
「昴さん、ちなみに橋本さんは両刀使いだよ。慰めてもらったら?」
「真面目そうな顔して、意外とやるんだなぁ」
いいんだか悪いんだかよくわからない感想を告げられたせいで、橋本の表情がますます硬くなる。
「すみませんが恋人がいるので、抱くことはできません」
人相が怖いヤーさんを相手になんてできるかよと、ちゃっかり心の中で感想を述べていたら、藤田が声をたてて笑いだした。
「だよねー。首の後ろにマーキングされてる橋本さんは間違いなくネコなんだから、昴さんを抱くことはできないよねぇ」
「なるほど! 恋人と仲良くヤってることをアピールするのに、わざわざ見えるところにマーキングされてるのかぁ。熱々だなぁ」
他にも口々に何かを言われたが、橋本の耳を素通りしていった。首の右横だけじゃなく、後ろにも痕をつけられていたことに、憤りを隠せない。
長距離の仕事のあと、疲れきった宮本が橋本にお説教されることが決定した瞬間だった。
(しかしながら俺が怒ったところで、アイツにとってはご褒美になるような気が激しくする――)
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