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「…ナタリーは美しいね。特に髪が好きだよ」
骨張った大きな手が私の髪を撫でている。誰だろう、この声、聞いた事があるような気がする。優しくて、暖かくて、背筋が伸びるような恐ろしさ。
「なんで髪なの?」
私は髪を撫でる男に問うた。チラリと見えた顔は私によく似ていて、優しい笑みを受かべている。そういえば、私のことを呼ばれているというのは分かるけれど、私はユーリだ。この男は、ずっと人違いをしている。
「東洋の国の小説に、『髪はカラスの濡れ羽色』という表現があってね。僕はその言葉が大好きなんだ。ナタリーの髪はまさしくカ濡れ羽色なんだ。艷があって、陽の光に晒すとほんのり青みがかるんだ。大好きだよ」
そういうと男は私の髪にキスをした。それが堪らなく嬉しくって、自然と笑みが零れる。日中のこの男は優しいんだ。…やはり、私はこの男を知っている。何故だろう、何故こんなにもこの男に愛を孕み、恐れているのだろう。
「ぬればいろ…分からないけど、父さんが好きならきっと私も好きね。」
微笑んで返す。……そうだ、この男は、私の父だ。口から自然と溢れ出て、ようやく思い出した。ドレスをきゅっと握ると父の手が私の手に伸びてきて、上から覆い被さるように握られた。
ドレスを着ている?私は男なのに。そういえば、髪がやけに長い。自然と零れた言葉は全て女口調だし、リラックスしている姿勢が内股気味だ。おかしい、何かがおかしい。けど、何が可笑しいのやら検討もつかない、
「あぁ…愛してるよ、ナターリア」
父が私の前髪を両側に追いやって、額にキスをした。私も、愛しているよ。とうさん。
「……リ、ユーリ!」
頭の傍で天使が呼んでいる。重い瞼をシャッターみたいに押し上げて、瞳孔を動かした。
「エリオ、ごめんね。俺…なに、してたっけ」
何か、大事な事の前で…急に眠ってしまったような気がする。つい先程の記憶が、すっぽりと抜けているような。心地好い夢を見ていた記憶はあるのに、どんな夢を見ていたかも思い出せない。夢を見る前の事だって、思い出せない。
「ユーリ、話してる途中に急に吐いて倒れちゃったんだ。怖かった…死んじゃうんじゃないかって、思ったんだ。ぼく……」
エリオが両目から大きな雫を幾つも零して必死に話している。あぁ、どうか泣かないで。君の笑顔だけが、私を癒してくれているのに。私の事で泣くなんて、勿体ない。私は彼の頬を撫で、とびきりの元気を意識して微笑む。
「…君を残して死んだりしないさ、エリオ。ところで、何を話していたんだっけ。記憶が曖昧で…」
エリオは安心したように床に座り込み、私の手に頬を擦り付けた。頬が白くて柔らかくて、暖かかった。私が眠りこけている間に、沢山泣いたんだね。目元が赤くなってる
「…いいんだ、大したことじゃないから。なんでもないよ」
天使が何処か寂しそうに笑った。