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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ここ最近のエリオがおかしい。 それこそ私が記憶を落としてしまった日から。 やけによそよそしくて、自分の話をしない。なのに私の健康面や仕事のことにやけに首を突っ込んできて…正直、少し困る。

私が彼を拾ってから一番恐れていたことは、私の仕事が彼に悟られることだった。男娼なんてこの世の醜さの具現化のような汚職に手を染めているのがエリオにバレてしまったら、私はきっと正気を保っていられない。霜一つない氷の像に自らの手でひびを入れてしまう様なものだ。絶対に避けなければならない。最も、此方の苦労も知らずにエリオは土足で踏み込んでくるわけだが。

…こんな言い方は止そう。彼が私に興味を持ってくれるのは嬉しいことだ。要するに、バレなければ良いだけの話だ。少年の拙い詮索を交わすことくらい容易い。はず。


「…ユーリ?」


前方から彼の声が飛んでくる。考え事していたせいか、話が聞こえていなかったらしい。目の前にある少し伸びたインスタント麺を食べ進めようとフォークを持ち、口を開いた。


「ごめん、考え事してた。何か話した?」


言い終わると麺を掬い上げ、口に入れる。すっかり伸びて柔らくなった微妙な味の縮れ麺、勿体ない。


「うぅん、特になんも。ユーリの元気なさそうな顔してたから、声かけてただけだよ。」


両頬に麺を詰め込みもごもごと口を動かしながらエリオが言葉を紡ぐ。どうやら心配してくれていたらしい。思い返すと悟られぬようにすることばかり考えていたとこもあり、表情が強張りがちだったかもしれない。彼は自分が思っている以上に細かいところまで観察している様だ。図太い私には、他人の表情の差異を気にする余裕なんてない。


「そうだったかな、ごめんよ、暗い顔を見せてしまって。」


最近、彼が来てからというもの、私が住むこの町には無い清いタイプの人間らしさに触れ過ぎてしまっている気がしている。前は感情を無意識に顔に出すなんてこと絶対にしなかった。そんなこと、許されなかったから。……誰に?誰に許されなかったから、私は表情を押し殺していたんだっけ。最近こんなことばっかりだな。思い出せないことが多い。疲れてるんだ。きっと。


「大丈夫。最近のユーリは色んな顔してるから、見てて楽しいよ」


ぁは、とエリオは人差し指で頬を掻きながら言った。まぁ、彼が喜んでくれるのなら…悪くはない、かも知れない。仕事相手に晒さなければ良い話だ。エリオの前では、自然体で良い。


「…そう。ならいいんだ。」


麺を頬張り、話の流れを無意識に断ち切ってしまった。人と話すの、やっぱり慣れない。


「…そう言えばぼくさ、もうすぐ誕生日なんだ」


自分でいってテンションが上がったのか、声を弾ませてエリオが話題を投げる。この家に来て、四回目の誕生日。エリオはその日11になる。


「知ってるよ。プレゼント、何がいい?教会にも行かなきゃね。神父様に報告しないと」


噛まなくても勝手に解れていく麺を飲み込み、言葉を返す。エリオの家はキリシタン一家らしく、誕生日に教会へ行くらしい。なので住んでいる家に一番近い教会へ、私とエリオも誕生日の報告へ行くことにしている。あそこの神父、エリオの天真爛漫なところを気に入っているらしく行くたびに果物やらお菓子やらもんだから、無宗教の私もついキリシタンと名乗って教会へ向かうようになってしまった。エリオを利用しているようで胸が痛むが、生きるためなので致し方ないと思う。


「うん、楽しみ。」


フォークを左手で握りしめ、エリオが照れ臭そうに微笑んだ。いかにも子供らしい反応で可愛らしい。伏し目をした睫毛が西日で影を落としていて、美しかった。


「夜ご飯はエリオの好きなものを食べよう。誕生日のためにお金貯めたんだ」


そう伝えるとエリオの顔が一瞬、曇った気がした。そんなはずはない。去年も同じことをいったけど、凄く喜んでいた。たしか、ブドウのジュースとパエリアがいいと言ったから、レストランへ行ったんだ。懐かしい。自身が働いていないことへの申し訳なさでも感じたのだろうか。エリオは優しいから、あり得る。そんなこと思わなくたっていいのに。


「…そっか。嬉しいや。ありがとう、食べたいもの、決まったら言うね。」


少し間を開けて、何処か悲しそうな声色でエリオがお礼を言ってきた。やはり気になっていまう。父親にでもなったきでいるのだろうか。図々しい奴だ。けれど憂い顔の天使が目の前にいたら、きっとどんな人間であろうと目で追い気遣ってしまうだろう。そういう事だ。きっと。


「うん。遠慮せずに言ってね。」


そう返してまた麺を口に入れる。正直もうあんまり美味しくないが、食べられるのに諦めるのは性格上難しい。それにしても、いつもこのインスタント麺より安いパンや野菜なんかしか食べてないのに伸びた麺をまずいと感じるとは不思議なものだ。こんなに舌を肥やした覚えはない。そう一人で不審がっていると食べ終えたエリオがフォークを置いて立ち上がり、寝床の方へ顔を向けた。


「もう寝るのかい?まだ夕方だよ。」


もう少し二人で話していたかったのに。なんて残念に思い、やんわりとエリオを引き留める。すると彼は此方を向き、やけに寂しそうに目を細めた。


「うん、もう眠いから…おやすみ、ユーリ。大好き」


感情を隠すように微笑み、そう言って手を振りエリオは寝床へ向かって行ってしまった。



…どうして、そんな顔をするの?

ここ最近の詮索と言い、この所君の考えてる事が、分からなくなってきている。


これを、成長と喜ぶべきなのだろうか。

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