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夜は静かだった。
地下深くにある鬼の住処には、外の世界みたいな時計もない。
だから湊は、朧が帰ってくる足音で時間を覚えるようになっていた。
重い足音。
襖がゆっくり開く。
朧が入ってきた瞬間、冷たい外気と一緒に獣のような匂いが流れ込んだ。
湊は布団の中からそっと視線を向ける。
朧はいつものように無口だった。
けれど視線だけは真っ直ぐ湊を見ている。
「……何」
照れ隠しみたいに聞くと、朧は少しだけ目を細めた。
その顔に、胸が妙にざわつく。
朧はゆっくり近づき、湊の前へ膝をついた。
大きな手が頬へ触れる。
熱い。
指先がゆっくり肌を撫でるたび、身体の奥が痺れていく。
「また赤くなってる」
低い声で言われ、湊は顔を逸らした。
「……うるさい」
朧が小さく笑う。
その音だけで鼓動が速くなる。
朧はそっと額を合わせた。
呼吸が近い。
逃げたいのに、逃げたくない。
そんな感情が胸の中で混ざっていく。
朧の指が髪を梳き、耳の後ろを優しく撫でる。
それだけなのに力が抜けそうになる。
「お前は、触ると震える」
「……鬼の手、大きいから」
「俺の名前は鬼ではない朧【おぼろ】だ」
朧は少し意地悪な顔をした。
その表情が、人間みたいでずるかった。
朧はゆっくり湊を抱き寄せる。
硬い胸板へ身体が触れ、熱が移る。
安心する匂い。
心臓の音。
怖い化け物のはずなのに、その腕の中だけは落ち着いた。
朧は急がない。
まるで大事なものに触れるみたいに、何度も頬へ口づけを落とす。
首筋へ。
肩へ。
優しく触れられるたび、湊の呼吸が乱れていく。
「……そんな顔するな」
「どんな顔……」
「もっと触れたくなる」
囁かれた瞬間、胸の奥が熱くなった。
湊は誤魔化すように朧の服を掴む。
朧はその手を包み込み、指を絡めた。
まるで離さないと言うように。
提灯の赤い灯りが、二人の影を静かに揺らしていた。
提灯の赤い灯りが、静かに揺れていた。
朧の腕の中は熱い。
湊は抱き締められたまま、落ち着かない呼吸を繰り返していた。
近い。
近すぎる。
朧の指が背中をゆっくり撫でるたび、身体がびくりと反応してしまう。
「……敏感だな」
低い声が耳元へ落ちる。
その声だけで、胸の奥が熱くなった。
湊は誤魔化すように顔を逸らす。
「朧のせいだろ……」
鬼は小さく笑い、湊の顎へ指を添えた。
逃げられないように。
けれど強引ではない。
視線が絡む。
仮面を外した朧の顔は、人間よりずっと整って見えた。
鋭い目。
長い黒髪。
恐ろしいはずなのに、その目だけは驚くほど優しい。
朧はゆっくり額へ口づける。
頬。
首筋。
焦らすみたいに何度も触れてくる。
「っ……ぁ……」
吐息が漏れる。
朧はその声を聞くたび嬉しそうに目を細めた。
長い指が腰を撫で、布越しに熱を伝えてくる。
湊は思わず朧の肩を掴んだ。
「……やばい、から……」
「何が」
「……わかってやってるだろ」
朧は答えない。
その代わり、湊を抱き寄せる力を少し強くした。
硬い身体。
熱い体温。
逃げ場なんてないのに、不思議と嫌じゃなかった。
朧は湊の反応を確かめるように、ゆっくり指先を滑らせる。
優しい。
でも時々、わざと意地悪に敏感な場所へ触れてくる。
そのたび湊の肩が震えた。
「可愛い声出す」
「っ、うるさ……」
言い返したいのに、息が上手く続かない。
朧はそんな姿を見て、満足そうに笑う。
そして静かに湊を押し倒した。
提灯の灯りが揺れ、影が重なる。
朧はすぐには触れない。
逃げないとわかっているからこそ、じっくり反応を楽しむみたいに見つめてくる。
湊は耐えきれず、朧の服をぎゅっと掴んだ。
鬼は湊を抱き締めたまま、耳元へ低く息を落とした。
「……っ、ぁ……」
湊の喉から、熱を含んだ声が漏れる。
提灯の赤い灯りが揺れ、二人の影が重なった。
朧の手が背中をゆっくり撫でるたび、身体が小さく震える。
「は……っ、ぅ……」
呼吸が乱れる。
胸が熱い。
朧はそんな湊を見つめながら、何度も髪を梳いた。
優しい。
まるで安心させるみたいに。
湊は朧の肩へ額を押しつけ、小さく息を漏らす。
「っ……ぁ、朧……」
名前を呼ばれた朧が、嬉しそうに目を細める。
「もっと呼べ」
低い声。
その響きだけで身体が熱くなる。
湊は恥ずかしそうに朧へしがみついた。
「……っ、はぁ……ぁ……」
朧はそんな反応を愛おしそうに抱き締め、何度も背中を撫で続ける。