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「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
三日後、聖女殿の前に止った金色の装飾が施された白い馬車に私とリュシオルは乗り込み、出発する。
私はガタンゴトンとゆれる馬車の窓の外を眺めていた。
今日は天気が良く、風が気持ちいい。
そう思っていると、リュシオルが話しかけてきた。
彼女の方を見ると、リュシオルはにっこりと微笑んで私の顔を見ていた。
「凄い機嫌いいんだね……リュシオル」
「そりゃ勿論! だって、あの双子に会えるのよ!? 楽しみで眠れなかったわ」
「私は違う意味で眠れなかったんだけどね……」
私は思わず苦笑いをする。
ダズリング伯爵家に行くとグランツに伝えたとき、もの凄く寂しそうな顔をしていた。連れて行ってあげたい気持ちも山々だったけど、彼も自分の立場と仕事の関係上いけないことが分かっていたので、本当に寂しそうな飼い主に置いて行かれた子犬のような顔で私を見つめていた。
『――――――ていうことだから、今回は、そのお留守番って事で』
『はい、分かりました』
(思っていた以上にあっさりと……もっと引き止めるかと思ったけど……)
前日、ダズリング伯爵家にいくと言うことをグランツに伝えに行ったのだが意外にもあっさり彼は承諾してくれた。
いつもなら、護衛を付けずに行くんですか? と突っ込んでくると思っていたのだが、彼は意外にも素直に受け入れてくれた。
もしかするとこの間の件以降、彼の中で何かが変わったのかも知れない。
『どうしたんですか?エトワール様』
『あ、いや。珍しいなあって思って! グランツがあっさり認めてくれたというか、承諾してくれたというか……!』
『…………』
私の言葉に、グランツは一瞬黙り込む。
そして、いつもの無表情でこう言った。
まるで、私が何を言っているのか分からないとでも言いたげだ。
私としては、もう少し何か言われるかなと覚悟をしていただけに、少し拍子抜けしてしまった。
『星流祭についての騎士団の会議があるので』
『騎士団の会議?』
『はい……以前は、そういった会議に参加できなかったのですが、聖女様の護衛騎士にもなり、プハロス団長にも推されたのでようやく』
と、グランツは少し嬉しそうに言った。
以前、というのは平民だと馬鹿にされていた時期のことを言っているのだろう。
そう思うと、かなりの進歩であり、逆にそれまで平民と言うだけで騎士団の会議に参加できなかったのかと私は少し苦しい気持ちになった。
それでも今はグランツに笑顔を向けるとしよう。主として。
『そう? じゃあ、グランツはグランツのやるべき事があるのね。頑張ってね』
『はい……ただ、心配じゃないというわけではありません』
『うん?』
『光魔法の家門とは言え、護衛なしで他の貴族の地に足を踏み入れること……エトワール様の護衛騎士としてついていけないことが悔しくもあります』
私はグランツの言葉を聞き驚いた。
普段の彼からは想像できない言葉だったからだ。私は思わず目を丸くして彼の顔を見た。
しかし、すぐに我に返り笑みを浮かべる。
最近ちゃんと自分の思いを言葉にして言ってくれるグランツを見ていると、成長したなあと親目線で思ってしまう。
『心配してくれてるんだ』
『……当たり前です』
『それでも、嬉しい』
『……』
私がそう言うと、グランツは何も返さなかったが、代わりに彼の好感度が3上昇する。
相変わらず上がりやすいなあと思いつつ私はグランツに頑張ってね。ともう一度言って彼の元を離れた。
「わあ……なんというか、メルヘン……」
―――そんなこんなで、私達はダズリング伯爵家の屋敷の前に立っていた。
それは今まで見た貴族の屋敷とは比べものにならないほど煌びやかで装飾だらけで、お城のように大きな建物だった。
庭には噴水があり、黄色い薔薇のアーチが何十もあり、手入れが行き届いている。白い石畳の道は綺麗に掃き清められていて、花壇にも同じく鮮やかな黄色い薔薇が咲いていた。
その先には大きな扉がある。おそらくあれが玄関口だろう。
馬車から降りてその立派な建物を見ていると、豪華な玄関が勢いよく開きピンク色の頭の子供が私の方へ突進してきた。
「ぐへッ……!」
「え、エトワール様!?」
突然タックルをかまされ、私は後ろに倒れる。
痛い……! と声を上げそうになるのを堪えて、私は自分に抱きついている子供を見る。
そこには、ピンクのふわっとした髪の子供が二人いた。
「あわわわ、待って下さい! ルクスお坊ちゃま、ルフレお坊ちゃまッ!」
と、慌てた様子で開かれた玄関からそばかすのメイドが走ってくる。が、彼女は段差に躓き転んでしまう。
(うわ……痛そう……)
メイドは思いっきり顔をぶつけたらしく、鼻血を出していた。大丈夫だろうか……
そして、彼女は涙目になりながら起き上がると私達の元に走って来た。
「よ、ようこそお越し下さいました、聖女様」
そばかすのメイドは深々と頭を下げる。
「あ、はい……こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございます。ところで、その大丈夫ですか?」
「え、はい! 大丈夫です! これぐらい!」
そういって、そばかすのメイドは頭を下げる。
しかし、それはいいとして……
「一応、招かれた客なのだけど……私。退いてくれないかな?」
「ええー招かれた客かもしれないけど、招いたのは僕達だよ」
「そうだよ。僕達が招いてあげたんだよ。じゃなきゃ、聖女さまはここにこれないんだよ」
と、私の上に乗っていた二つのピンク色の頭の子供が頬を膨らまして言う。
「おおお、お坊ちゃま! ダメです! 聖女様の前ですぅ!」
「ちょっと、メイドの分際で僕達に指示しないでよ」
「そうだよ。メイドの分際で」
そばかすのメイドは私の上に乗っていたピンク達をどかそうとおどおどしていたが、二人に睨まれ萎縮してしまった。
確かに、主と従者の関係かも知れないけどあまりにも扱いが雑というか……私だったら、そんなことしないなあとリュシオルを見る。だが、リュシオルは完全に妄想モードに入ってしまったらしく私の視線など気づくよしもなかった。
「ででででで、ですが、ルフレお坊ちゃま、ルクスお坊ちゃま……聖女様のぉお」
「はあ……ねえ、何年僕達に仕えてるの? 僕はルフレじゃなくて、ルクス」
「そうだよ。何年目になるの? 僕はルクスじゃなくて、ルフレ」
と、二人は口を揃えて言う。そして、メイドを馬鹿にするようにクスクスと笑いだしたのだ。私の腹の上で。
そばかすのメイドは困った顔をして私を見てくる。
うん、気持ちわかる。
私はピンク色の頭の子供を交互に見て、どちらがルクスなのかルフレなのか見分けることにした。
(……まあ、出会ったばっかりだし好感度は0か。アルベドのマイナスよりはマシ)
多分、此の世界の人達は貴族達はそこまで気にしないだろうから分からないと思うけど、彼らは決定的に違う部分がある。
仕草も髪型も喋り方も似ている、似せているけど瞳の色だけは違う。
「そろそろ退いて欲しいんだけど、ルクス・ダズリング様、ルフレ・ダズリング様」
「!?」
「!?!?」
私がそう言うと彼らは蒼い瞳を丸くし互いに顔を見合わせた。
そして、不思議そうに小首を傾げると私に尋ねてきた。
「どうして、僕がルクスだと思うの? ルフレかもしれないよ?」
「どうして、僕がルフレだと思うの? ルクスかも知れないよ?」
と、二人が口々に言う。
私はため息をついて、二人を見た。
「瞳の色よ」
「瞳?」
「瞳?」
「そう……ルクス様は雲一つない快晴のような爽やかな青色、そしてルフレ様は星が輝く深い宵色の瞳。仕草も言葉遣いも何もかも互いに『似せてる』けど、それは隠せないでしょ?」
(……なんて、ヒロインが言っていた言葉を引用しただけだけど)
そう、ゲームではそういう設定だった。だから、ルクスとルフレの見分け方は簡単。
まあ、じゃなかったらこの二人を見分けるのは非常に難しいだろうけど。
私はそう言い終えて、安堵の溜息を漏らした。すると、彼らはまた互いに顔を見合わせた後私に抱きついてきた。
「え、ちょっと」
「アハハ! すごーい。初めてだよ。僕達を初見で見分けれた人は!」
「アハハ! すごーい、すごい。初めてだよ。僕達の遊びを見抜いた人は!」
と、二人は嬉しそうに私から離れてくれた。
そして、そばかすのメイドは二人の変わりように驚いたのか目を白黒させている。私は何のことやらさっぱりと、二人を見ていると、彼らの好感度は3上昇していた。どうやら、お気に召したようだ。
「ねえ、メイド。狩りがしたい、クロスボウと弓準備して」
「ねえ、メイド。狩りがしたいから、結界魔法を森にかけておいて」
「え……はい! かしこまりました!」
と、双子が指示を出すとそばかすのメイドは慌てて屋敷の方へ戻って行った。
(今、狩りって聞えたんだけど……)
嫌な予感しかしないと、ようやく私から離れた双子はクスクスと私の方を見て笑っていた。
二人でナイショ話をしているかのように、それを見せつけるかのように。
「僕達聖女さまのこと気に入っちゃった」
「僕達聖女さまのこと気に入っちゃったんだ」
そう、双子は口をそろえていった。
快晴の瞳と、宵色の瞳は私を捉えて離さない。
彼らは子供のはずなのに、その瞳は鋭く光そして私を試しているかのようだった。大人でも萎縮してしまうほど狂気を孕んだ瞳。
それから、また二コは口を開きこういった。
「「聖女さま、僕達とゲームをしよう」」