テラーノベル
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ネオンが滲む。
雨上がりの新宿。
眠らない街は、今日も誰かを食い潰しながら呼吸していた。
雑居ビルの屋上で、
霧矢直斗はフェンスにもたれ、煙草を咥えていた。
長い金髪。
適当に結ったハーフアップ。
だぼついた派手なパーカー。
夜風に髪が揺れる。
「……はぁ」
スマホの画面には、
SNSのコメント欄。
《また変なことしてる》
《あのNPO、偽善っぽくね?》
《ガキ拾って何になるんだよ》
《働けよ》
霧矢はへら、と笑った。
「なに抜かしてんスかね」
煙を吐く。
その隣で、
冬橋航が缶コーヒーを開けた。
黒パーカーのフードを被ったまま、
街を見下ろしている。
「見んなよ、そういうの」
「えー? 面白いじゃないッスか」
「面白がるな」
「別に面白くて面白がってねえッスよ」
怒りじゃない。
苛立ちでもない。
ただ、
“雑音”だった。
耳障りなだけ。
『おい』
『なんでそんなことやってんの?』
『無駄なことしてるの?』
街のどこにでもいる。
口だけの人間。
何も知らないくせに、
知ったような顔で喋る。
『そんなことしてないで、勉強でもしておけば?』
『だから頭悪いって言われるんだよ』
霧矢は笑う。
へらへらと。
「へー、大したもんだ」
誰に向けた言葉かもわからないまま。
「口先だけなんスね、コイツら全員」
冬橋が横目で見る。
「……霧矢」
「なんスか」
「今日、機嫌悪いな」
「そう見えるっスか?」
「見える」
「マジッスか? そんなことないッスけどねぇ」
軽い。
ふにゃふにゃしている。
なのに、
冬橋は知っていた。
霧矢が今、
“殺したがっている”ことを。
◇
依頼人は、若い女だった。
しぇるたーに保護されていた少女。
震える声で言う。
「……あの人、また来るんです」
「誰」
冬橋が訊く。
「スカウトっていうか……」
「違う子、連れてかれて……」
冬橋が静かに続きを聞く。
少女は泣きそうな顔で俯いた。
「警察行っても意味なくて……」
「名前は?」
冬橋が訊く。
少女は答える。
その名前を聞いた瞬間。
霧矢が、へらりと笑った。
「あー」
知ってる。
裏側の人間だ。
女を薬漬けにして売るタイプ。
しかも、
ガキ相手。
「合六サンに許可取るッスか?」
霧矢が言う。
冬橋は少し黙ったあと、
短く答えた。
「……取らなくていい」
「りょーかいッス」
その瞬間、
霧矢の目から、
感情が消えた。
◇
深夜二時。
雑居ビルのバー。
男はソファに座っていた。
酒。
女。
札束。
典型的なクズ。
「でさァ、最近のガキってマジ簡単――」
ガチャ。
扉が開く。
男が顔を上げた。
派手なパーカー。
金髪。
片手には金属バット。
にこにこ笑う男。
「どもー」
霧矢直斗は、
コンビニに入るみたいな軽さで現れた。
「……誰だお前」
「んー?」
霧矢は首を傾げる。
「簡単に言うとクリーナーッスかねぇ」
男が立ち上がる。
舎弟が武器を抜く。
だが、
次の瞬間。
ぐしゃ。
一人目の首が、
壁に叩きつけられていた。
速すぎて、
誰も見えない。
「は?」
男の顔が引き攣る。
直斗は笑ったまま。
金属バットを振り回す。
ヤラララ、
一歩ずつゆっくり。
鈍い音。
二人目の腕が折れる。
ヤラララ、
もっと着実に。
蹴り。
悲鳴。
血。
ヤラララ、
程遠くても。
直斗は、
まるで歌うみたいに動く。
軽やかに。
楽しそうに。
「ぎ、ァ……ッ!!」
男が銃を向ける。
パン。
銃声。
けれど、
霧矢は止まらない。
パーカーに穴が空いていた。
「ざぁんねぇーん」
へらへら笑う。
男が後退る。
「ば、化け物……」
「アンタらに言われたくねえッス」
ヤラララ、
息が切れても。
霧矢が男の前に立つ。
『ねえ、これ面白くない?』
『ねえ、これ馬鹿らしくない?』
頭の中で、
誰かの声がする。
世間。
SNS。
他人。
全部、
ざわざわとうるさい。
だから。
霧矢は男の顔を掴み、
静かに笑った。
「地獄を見て来いクソ野郎」
次の瞬間。
鈍い音が響いた。
◇
帰り道。
冬橋が歩きながら煙草を吸う。
「終わったか」
「はいッス!」
霧矢は返り血だらけのまま笑う。
「いやー、今日はいっぱい喋るヤツいたッスね」
「……お前」
「ん?」
「楽しそうだったな」
霧矢は少し考える。
そして、
ふっと目を細めた。
「別に」
夜風が吹く。
遠くでサイレンの音がする。
街は何も知らない。
誰かが消えても、
朝になれば普通に回る。
霧矢は空を見上げた。
「千里眼を持つという友よ」
ぽつり。
「足元の石も見えぬか?」
冬橋が横を見る。
霧矢は笑っていた。
壊れたみたいに。
「遥かな旅を行く友よ」
ネオンが揺れる。
「セイレーンの声に惑わされたか?」
その声は、
まるで自分自身に向けているみたいだった。
コメント
1件
ああ、もう…めちゃくちゃ重くてかっこよかったです🥀 霧矢、表面ではへらへら笑ってるのに、ちゃんと“♡♡♡たがってる”のを冬橋に見抜かれてるところ、ゾクっとしました。SNSの声とか世間の雑音に侵されながらも、自分の手で“掃除”するスタイル、ヤバいほど刺さる。 最後の「千里眼を持つという友よ」の一節、霧矢が自分に言い聞かせてるみたいで切なかった…。雨上がりの新宿のネオンと血の匂いが浮かぶような、映像的な描写が本当に好きです。続き、気になります🌙