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どこからか現れる創造主達が作った物語がある。
そして彼らが生み出した創造物達が住まう地もあった。
その名は、“イマジエイト”
無数の世界で構成されるそこでは様々なドラマが日々語られる。
すべては創造者達のために…。
建国から1000年たつ由緒ある魔法国がある。
ゴシック様式やロマネスク様式が入り混じる建築物はこの世界では一般的である。
人々が信仰の対象として敬う姿なき創造主は中世ヨーロッパの街並みを再現したと発言した。もちろんその意味をこの国の人々が理解できるはずもない。
そして、創造主はよくあるファンタジー物が好きだとも語ったそうだ。
力のある少女とそれを取り巻くイケメンたちの王道のラブストーリーが見たいのだと…。
そんな趣旨によって、誕生した魔法国には文字通り、魔力を持つ貴族の紳士淑女が集う魔法学院がある。そして、予想通り物語はドラマチックに始まる。
何百年かぶりに治癒能力者が入学したのだ。それも平民階級の少女だ。歴史上で初めての事である。彼女は学院の中でよくも悪くも異質な存在であった。しかし、持ち前の明るさで苦難を乗り越え、同級生の王子との恋を実らせたのだ。
だが、まだ物語は終わらない。
シンデレラストーリーを完結させる彼女は今日、最も輝く事になる。
なぜなら、待ちに待った結婚式が始まるのだから。
「早く終わらねえかな…」
貴族青年Dの役割を与えられた青年は盛大なため息をついた。一瞬、自分の声が周りに聞こえたのではないかとひんやりしたが、杞憂で終わる。
皆、この世紀の結婚式の主人公たちに夢中である。しかし、青年のいる場所からでは二人の姿は遠く豆粒ほどしか確認できない。いつもの事だから仕方がない。
自分の周りには顔がぼやけた群衆しかいない。そういう青年も彼らと同じ顔だ。
一応切りそろえられているブラウンの髪と同色の瞳っぽいものは確認できる。
鼻や口も目を凝らせば、なんとなく存在は認識できる。
主人公や主要キャラとして作られた者達との格差は否めない。
あえて、自慢できる所といえば、取ってつけたような貴族の恰好をしてはいる点だ。
この身に着けている服の設定のおかげで貴族という身分が与えられている事は確認できる。
つまり、市民キャラ達よりも出入りできる所は多いという事だ。
だから、自分は運がいい方だと思っている。
まあ、セリフが一つもないのはちょっと悲しいし、貴族青年AでもなければBでもないDというモブの中のモブっぽい立ち位置にちょっとした不満がないわけでないが…。
「治癒能力を持っているとはいえ、平民の少女と結婚するなど王子は何を考えているんだ!君もそう思うだろ!」
年配の男性からの突然のセリフに貴族青年Dは驚いた。
こんなシーンあったっけ?
「何をおっしゃるの?素敵じゃない。身分を超えた恋。私も後、十年若ければね…」
今度は中年の女性がウットリする様子でつぶやいた。
何度も言うが、彼らもモブキャラだ。
ヒロインと攻略対象達を彩るためだけに生まれた背景。
あらゆるシーンに登場しては消える。
だが、貴族青年Dは不自然な展開に首を傾げた。
モブキャラの言葉はその言葉は必要でない限り創造主方々に届く事はない。
何度も繰り返されるエンディングを経験しているのだ。
ハッピーエンドを迎える事を思えば、このタイミングで二人の結婚式への不満を漏らす言葉は入るはずはない。そのことを鑑みれば、これはおそらく続編へのフラグか、もしくは隠しエンドルートへ移行直前のシーンに入ったのだ。その証拠に心なしか彼らの瞳が輝いているようにも思う。数少ないとは言え、セリフを与えられている事がうれしいのだろう。
クソ~うらやましい!俺だって…俺だってな!
思わず拳に力が入った。主人公や主要キャラへのあこがれは捨てたと思っていた。
それでも通り過ぎていくこの世界の中心人物達の力強いオーラや整った容姿が目に入れば認めたくないモヤモヤとした物が胸のあたりにざわめいている。
貴族青年Dは大きく息を吸い、そして吐いた。
こんな時は美味しい物でも食べて忘れるのが一番いい。
幸い今回は王子ルートであるのは間違いない。
であるならば、ごちそうが出るはずだ。
いつもと同じなら、国王陛下が結婚式のお祝いのために遠くの国から珍味を取り寄せているはずだ。
いや、待てよ。隠しルートに入るのならお預けの可能性もあるんじゃね?
それだけは勘弁してほしいと思いながら貴族青年Dは人知れず晩餐会シーンが飛ばされない事を祈った。