「そうだったんだ……」
「ええ、ですからこの店は、私たちにとってはホームのようなもので、とても大切な場所なんです。なのに、そんなところで喧嘩をするなどと……」
三日月が声のトーンを低く落として、銀河と流星とを冷ややかな眼差しで流し見た。
「悪かったよ…あん時は…」
銀河が気まずげに口にする横で、
「……ふん、ドSメガネ野郎め…」
流星がぼそっと小さな声で呟いた。
「誰が、ドSメガネ野郎なんですか?」
低音を効かせ、三日月の声にさらに凄みが加わる。
「うっわ…リュウちゃんが、ミカちゃんをついに怒らせた…」
天馬が、芝居がかったような大げさな言い方をする。
「私を怒らせたら、どうなるのかわかってますよね……?」
締めているネクタイを片手で軽く緩めつつ、三日月が座っていたソファーの端からゆらりと立ち上がる。
「げっ…悪かったって! 怒るなって、三日月! 喧嘩したりして、すまなかったってホントに……!」
流星が慌てて頭を低くして謝る。
「いいえ、許しません。日頃から、あなたの行いには目に余るものがありますし、
今ここで、性根を叩き直しておかないと……さて、どうしましょうか?
喧嘩で理沙に恐い思いをさせたところもありますし、彼女のいる前で、土下座でもしてもらいますか?」
三日月が流星を見下ろしながら、かけているメガネのブリッジを指の先でスッと押し上げた。
「ど、土下座はカンベンしてもらっても、いい…か?」
流星が三日月の顔を恐る恐る上目に見る。
「ならば、土下座は免除する代わりに、今後一切、私たちには立てついたりしないように……」
腕組みをし、さすがの気迫を感じさせる鋭い視線で、ノンフレームのメガネの奥から見下ろす三日月に、
「うぇぇーい……」
流星が、降参だとばかりに情けないような声を上げる。
「ミカちゃん、本領発揮! さすがっ!」
天馬が、手をパチパチと叩いて笑い出し、
「やり込められてやんのー流星の奴!」
銀河がククッとからかい半分の笑い声を漏らした。