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れもんてぃ🍋
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童磨は繋いでいた手を離すと、今度はしのぶの背後に回り込み、その細い肩を包み込むようにして腕を回した。いわゆるバックハグの体勢のまま、彼は顎をしのぶの肩に乗せ、手慣れた手つきでスマホを操作し始める。「さて、何を食べようか。しのぶちゃん、今日は結構動いたから、しっかり栄養を摂らないとね」
耳元で響く童磨の温度の低い、けれど心地よい声。しのぶは、自分の背中に伝わる彼の胸板の厚みと、首筋に当たる吐息に、心臓の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。
「……近いですよ、童磨さん。画面が見えにくいです」
「いいじゃないか、これが僕たちの日常でしょ? ほら、このイタリアンの新作パスタなんてどう? しのぶちゃんの好きなジェノベーゼだよ」
童磨がスマホの画面を彼女の目の前に差し出す。しのぶは「全く……」と呆れ顔をしてみせたものの、彼の腕の中から逃げ出そうとはしなかった。むしろ、心地よい重みに身を委ねるように、わずかに重心を後ろへ預ける。
「そうですね。じゃあ、それと……サイドメニューのサラダも。あなたは肉料理を頼むのでしょう?」
「お見通しだね! じゃあ、このローストビーフも追加して……。あ、このデザートのベリータルトも美味しそう。二つ頼んじゃおうか」
「一つでいいです。半分個にしましょう。夜中にそんなに食べたら、明日の顔の浮腫みが大変なことになりますよ」
「厳しいなぁ。でも、半分個っていう響き、すごく好きだよ。じゃあ注文確定、と」
童磨が画面をタップし、注文完了の通知音がリビングに小さく響く。それでも、彼は腕を解こうとはしなかった。
「……注文が終わったなら、早く着替えてきてください。そのパーカー、さっきから私の鼻先にフードが当たって邪魔なんです」
「あと5分。あと5分だけ、このまま『お疲れ様』の充電をさせてよ」
そう言って、童磨は抱きしめる力を少しだけ強め、彼女の髪に深く顔を埋めた。しのぶは小さく溜息をつき、けれどその口元には、カメラの前では決して見せない、穏やかで柔らかな微笑みが浮かんでいた。