テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
。. .。 .:・.。. .。.
竜馬は文也の家のキッチンに置いてある、気味の悪い琥珀色のカプセルが瓶にびっしり詰められているのを、マジマジと見ていた
「これは何だ?」
顔をしかめて文也に尋ねる
「凝固したオイルの塊みたいだ」
文也がキッチンに入ってきて竜馬に答える
「そいつは凝固したオイルの塊だな、韓国のビタミン剤だよ、一つのカプセルに400ミリのビタミンEが入っている、肌や爪や髪の毛に良いらしいよ、竜ちゃんがメシを食わないって言ったら母さんが心配して持って来たんだ」
竜馬は文也の言葉を聞きながら、ぶよぶよしたカプセルをつまんで、部屋のライトにかざした
「これを飲むより腹が減ったな・・・・文也なんか作ってくれ」
リビングで宗一郎がゲームコントローラーを放り投げて、キッチンにやってきた
「珍しいなぁ~、お前いつも一日1食なのに!文也!俺!Udonがいい!Udon(うどん)作って!」
「何か腹に溜まるものがいい」
自分達を心配する文也の母親の気持ちを汲んで、竜馬と宗一郎はひどい匂いのする、サプリを口に含んで水で飲み干した
「うえーーーっ!」
「くそっ!舌が黄色くなったぞ!」
「もうっ!二人共リアクションがいちいちアメリカなんだよ!大げさなんだから」
たかが健康サプリ程度で大騒ぎしながら、くだらない茶化しあいをしている二人を後目に、文也が冷蔵庫からTボーンステーキを取り出してフライパンで焼き出した
文也の料理の腕前がプロ並みなのはありがたかった、なにせセドリック・マミーの料理を食べる事しかしらなかった竜馬と宗一郎だ、手際のよい文也の調理を見ながら、後ろでワイワイ騒ぐことしかできない、文也は塩コショウと専用おろし器で擦ったニンニクを刷り込み、表面を焦げ付かせるとアルミホイルで包み、後は余熱で肉の中に火を通した
「おお~~!!」
「おお~~!!」
「宗一郎はなべ焼きうどんな!」
(裏声)「素敵!文也君!今夜アタシを抱いて!ドーテーでもOKよ!」
ワニの顔の鍋つかみを手でパクパクさせながらからかう宗一郎を無視して、文也が大きなキッチンカウンターテーブルに大皿に盛ったTボーンステーキとなべ焼きうどんを置く、この短時間でTボーンステーキには付け合わせのキャロットバターソテーに大盛りのライスまでついていた
「竜ちゃんにはタンパク質が必要だよ」
それに異論はなかった、竜馬は熱心に見つめる二人の観客を無視してステーキにかぶりついた、数分後、すっかり綺麗になった皿を見て文也が感動して言った
「竜ちゃん!やっとまともに食事をしてくれるようになって嬉しいよ、どういう心境の変化?」
「そりゃ、アレだろうよ」
キヒヒと宗一郎がいやらしく笑う、実際竜馬自身も驚いていた、本当に彼女に会うまでは一日めんどくさかったら平気で食事をとらない日もあった、今は腹が減ってメシを食うと旨く感じられた
「ごっそさん、今度は僕がカレーを作るよ」
二人は心底驚いた顔を竜馬に見せた、特に宗一郎は竜馬が料理が出来るなんて、長い付き合いの中で生まれて初めて聞いたからだ
「といっても、カレーしか作れないけどな」
宗一郎と文也がゲームをしないかと竜馬に尋ねたが、竜馬はハナの世話があると文也の家を後にした
竜馬はエレベーターに乗ってゆっくり息を吐き出した、なんだか酷く落ち着かない・・・大勢の人に囲まれていてもなぜか一人でいるような気分だった
たぶんあの自立した一人の気の強い女性のせいだ・・・彼女をつけまわして煩わせる理由などないのに、一郎さんの会社を守れたのだから、社長の自分は一歩引いて見守っていればいいのに・・・
それでも、また無意識に21階のボタンを押す、今や竜馬が21階に降り立つのは日課になっていた、どうしてここに足が向かうんだろう?
そして見つけた、奥のジェニのデスクのスペースの蛍光灯だけ煌々と明かりがついている、今は夜の8時過ぎ・・・ なんと彼女はまだオフィスで仕事をしていた
いつものビジネススーツを脱いで、ブカブカのTシャツにヨガパンツで、いくら毛足の長いカーペットが敷いてあるといってもそこに胡坐をかいてペタリと座り込み・・・ノートパソコン2台とスマホをスタンドに2台立てて仕事している
竜馬は遠くでジェニから自分が見えない角度で少し近づき・・・デスクの椅子に座り、大きな観葉植物の葉っぱの隙間から見守った
こんな時には隠れる観葉植物は役に立つなと思った 「フレキシブル・ワークスペースシステム」を廃止してもいいかもしれない、彼女はワイヤレスマイク付きのイヤホンで、得意先と打ち合わせをしながらノートパソコンとスマートフォンで広告宣伝用の動画をチェックしていた
・・・いつからそうやっているのだろう・・・ とっくに社員は帰っているのに・・・
どうして彼女はこれほど仕事に情熱を燃やせるのだろう、ポニーテールにした髪が彼女が喋るたびにゆらゆら揺れている彼女は観葉植物の影にいる竜馬の存在などまったく気づいていないそして竜馬は思った彼女は本当に亡き一郎さんの会社で遊んでばかりの役立たたずの給料泥棒だったのだろうか・・・
それは勝手な自分の思い込みだったのではないだろうか、一度ゆっくり彼女と仕事について話してみたいと思った、素敵な場所で上手いものを食べさせてあげて、リラックスした状態で・・・今からでも遅くはない― ―
バンッ! 「いっやーーーーーーっっ!!もう限界ーーー!!」
突然すっくと彼女が叫びながら立ち上がった、竜馬はその叫び声にのけぞり、椅子から転げ落ちそうになった所をなんとかデスクを掴んで持ちこたえた
あまりの驚きに竜馬の心臓はハンマーのようにあばらを打ち付けた
ドキン・・・ドキン「な・・・何事だ?」
彼女はまだこちらに気付いていない、すると彼女は突然大きな声で泣き出した
「もうやってもやっても メールが終わらないぃぃ~~~!いったいみんないつ寝てるのよ~~~!!嫌い!嫌い!こんな付箋なんて見たくもないわ!」
彼女はワンワン泣きながら、デスクにびっしり貼られたピンク色の付箋を一枚一枚はがしてあちこちに放り投げた
「お腹へったよぉ~~~~!お風呂はいりたいよぉ~~!ネネチキン食べたいよぉ~~~!味変三種スパイシーソース付きぃぃぃ~~」
ついに彼女は正座のまま、お尻を高く突き上げてカーペットに突っ伏して大声で泣き出した
うわぁ~~~~ん!!「お父さぁ~~~~んん~~~~」
その一言で竜馬の胸がズキンッと痛んだ、彼女は一郎さんが死んでからもこの会社を頑張って守って来た、そして肝心な兄の豊がいなくなってもまだ頑張って来た、会社を買収されてまでも社員を守って来た、たった一人で・・・27歳の若い女性がすることではない
そんな彼女が一郎さんを恋しがって泣いている
可哀そうに可哀そうに・・・ああ・・・胸が締め付けられる
必死な訴えに竜馬は彼女の気持ちが楽になるなら、両腕で抱きしめて何でも言うことを聞いてやりたくなった、何とか彼女の心に平和をもたらし慰めてやりたい・・・・
オロオロ・・・「な・・・泣くなよ・・・ジェニ・・・ 」
竜馬はそっと立ち上がり、ジェニに近づくために一歩を進めた、すると彼女は咄嗟にすくっと立ち上がった、思わず竜馬は近くのデスクの下にさっと隠れた
心臓がバクバクいってる、デスクから目だけフクロウのように出して彼女の動向を探る
彼女は自分で自分の頬に喝を入れるべく相撲とりのようにペシぺシ叩いた、パシンッパシンッと打撃音がシンとしたオフィス中に響く
「いよっしゃぁ~~~~~!!5分泣いたぞぉ!さぁ!気持ち切り変えていこ~~~!! 」
ええっ?!(゚Д゚;ノ)ノ
竜馬は、はらわたを掴まれたように驚いた
「泣いたらスッキリしたぁ~~!!さぁ!あと9時まで5分あるわ!キャー――ッッこの5分でまた メールが10件増えてるっっ!よし!あと1件電話出来るっ! 」
そう言うと、彼女は得意先に電話をかけ出した
「あっ!もしもしぃ~~~♪神崎のジェニですぅ~~~お世話になってますぅ~♪部長さんこの間のア・レ・ありがとうございましたぁ~めっちゃ美味しかったですよ、部署のみんなで美味しくいただきました♪え?いやぁだぁ~(笑)ダジャレ好きなんだからぁ~アハハハハ♪それでですね、先日の件なんですけど―― 」
ハラハラしながら竜馬は、彼女の「一人泣きの一人笑い」を見守っていた、心配でたまらなかった、だがやがて熱心にまた仕事に戻った彼女を見て竜馬は安堵に包まれた
もうケロっとしているのか?・・・竜馬はそっとその場を離れた
「ネネチキ?ネネチキが食べたいって彼女叫んでなかったか? ネネチキって何だ? 」
竜馬は廊下ですかさずスマホを取り出し 検索した
「ネ・ネ・・・・チ・・・キ?・・・ネネチキン!! 」
検索した結果「ネネチキン」とやらは 韓国発祥のから揚げのテイクアウト専門店だった、店舗検索をすると、なんと一番近い店舗はメビウスビルのすぐ裏にあった
「・・・彼女は・・・ これが食べたいのか? 」
竜馬は顎に手を置いて考えた
。. .。 .:・.。. .。.:・
ジェニは大きなあくびをしてトイレの鏡をのぞき込んだ、なんと目にうっすらクマがある、ここ2~3日ろくに寝ていない、家に帰ってもソファーに座ったら最後、記憶が無くなって気が付けば朝になっている
家に帰ってもソファーで寝落ちするのなら、通勤時間が無駄だというものだ、そkどえ今夜はここに泊ろうと良いものを持ってきた
にんまり笑ってもう一仕事しようとオフィスに戻った、するとジェニのデスクからほんわか良い匂いがする・・・何だろうと訝し気にジェニはデスク上に置かれた謎の物体を袋から出した
きゃぁ~~~~~(はぁと)「ネネキチン~~~ 味変三種ソース付きぃぃぃぃぃ!」
ジェニはネネチキンのテイクアウトボックスを掲げて、くるくる回って踊った
「きっと藤子ねぇ~~~♪ 今日はオフィスに泊まるって言ったから 買ってきてくれたんだぁ~ 」
泊まるのかっっ??(゚Д゚;ノ)ノ
竜馬はジェニからは見えない壁に隠れて、蜘蛛のように張り付いて彼女の大きなひとりごとに驚いた、するとジェニがくるっと振り向くと、ダッシュで入口に走って来た、弾かれたように竜馬はすぐ目の前の男性トイレに隠れた
ドキドキドキドキっっ― Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) み・・・見つかったのか?
竜馬の背中は、さきほど閉店しかけていたネネチキンの店舗に走って買いに行った時の汗と、今の冷や汗とで汗だくだ、そして咄嗟に見つかった時の、言い訳を頭の中でぐるぐる考えた
ジェニは男性トイレの前を通り過ぎて、エレベーターの横の窓にびたっと張り付き、下の駅に向かって御堂筋を歩く人を見た
「なんだぁ〜 私がトイレに行ってたから、藤子帰っちゃったのね~~~ まぁ・・・いっか!明日お礼を言おう 」
そう言うと、またジェニは自分のデスクに戻り、備え付けの透明な手袋を装着すると、ホカホカのネネチキンにかぶりついてコカ・コーラで喉に流し込んだ
「あ~~~~ん(はぁと)おいしい~~~~ん♪ いくらでもいけるぅ~~~♪あっさりしててまたこのソースがバッチリ合う~~~ 」
ジェニは味変三種のカップに入ったソースを並べて、順番にデイップしながらかぶりついた
「ハニーマスタードォ~♪ピリ辛ヤンニョム~~ ♪おろしポン酢ぅ~~~♪藤子ぉ~~~ありがとう~~~~」
一口食べるごとになんとも彼女は騒がしい、柱の陰から見守る竜馬も思わず口元がほころんでしまう
―思い出した・・・・彼女はとっても泣き虫だけど・・・強いんだよなぁ~―
。. .。 .:・.。. .。.:・
柱の壁に背中をつけ、ズルズルとしゃがんで物思いにふける、ジェニが美味しそうに食べ物を食べる姿は竜馬の心をとても温かくした、その仕種を見ているのは自分が旨いものを食うよりずっとよかった、できれば顔を見ながら旨いものを一緒に食ってみるとどうなるだろうかと想像した
ビルの空き店舗に「ネネチキン」を導入しても良いなと考えた、彼女がいつでも食べれるように
「ごちそうさまでした」と空のボックスに向かって彼女が手を合わせ、ボックスを捨て、デスクを綺麗に拭く、こーゆー所も素敵だなと思った、なぜか仕事にも生きるのにも一生懸命な彼女が誇らしい
―でも泊まるって・・・ここで? ―
竜馬はもう少し彼女を観察してみることにした
#死亡表現あり
こあたん
6,526
坂颯(さか はやて)
151
コメント
1件
読み終わりました!今回のエピソード、すごく心に残りました。特にジェニが一人で泣いて、すぐに「5分泣いたぞ!」って切り替える強さ、でもその後ネネチキンに無邪気に喜ぶギャップに胸が熱くなりました。そして竜馬がこっそりネネチキンを置いて、柱の陰から見守ってる優しさ…まだ直接向き合えないもどかしさも伝わってきて、次がすごく気になります!