テラーノベル
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「────はい!ということで、高橋徹専務と田中結衣さんの婚約が正式に決定いたしました」
月曜日の朝礼。窓から差し込む朝の光が、埃一つないオフィスの床を白く照らしている。
部長のその晴れやかな宣言が響いた瞬間
張り詰めていた静寂は一秒と持たず、割れんばかりの拍手と熱を帯びた歓声に塗り替えられた。
「いい男捕まえたわね、結衣ちゃん!羨ましすぎて涙出そう!」
「ヒューヒュー!社内一のビッグカップル誕生だな!」
「高橋専務、おめでとうございます!!」
「結衣さんだけずるい~!!」
祝福の嵐、冷やかし
そして一部の女性社員からの嘆き。
同僚たちに囲まれ、私は顔が沸騰しそうなほど熱くなるのを抑えきれない。
ふと隣の席を見ると、徹さんはいつもの
「鉄の仮面」を貼り付けたまま、何事もなかったかのように淡々と書類に目を落としていた。
指先一つ動かさず、微塵も動揺を感じさせないその姿は
相変わらず非の打ち所がない『冷徹な専務』そのものだ。
けれど、私は知っている。
彼の耳の先が、隠しきれずにほんのりと赤く染まっているのを。
私だけが気づける、彼の不器用な喜びのサイン。
それを見つけた瞬間、胸の奥がキュンと甘く疼いた。
改めて公認の仲になったとはいえ、公私混同は許されない。
仕事に一切の妥協はしない。
むしろ、周囲の目を意識するあまり、午前中は普段以上に張り詰めた空気が流れていた。
ひっきりなしに続く打ち合わせ、容赦なく鳴り響く電話対応、そして複雑な契約書のチェック。
怒涛のタスクをこなし、ようやく一息ついたのは午後三時を回った頃だった。
少し喉を潤そうと、私は一人で給湯室へ向かった。
静まり返った廊下を歩きながら、ようやく火照った頬を休ませる。
お気に入りのマグカップを手に取り、お湯が沸き上がるポコポコという音をぼんやりと眺めていた。
その時、背後でカチャリとドアが閉まり、鍵がかかる小さな音がした。
「……お疲れ様、結衣。ようやく一段落かな」
「お疲れ様です──」
振り返る間もなかった。
背後から伸びてきた力強い腕が、私の肩を抱くようにして壁際へと追い詰める。
そこにいたのは、ついさっきまで第二会議室で冷徹にプレゼンをぶった斬り
部下たちを震え上がらせていたはずの徹さんだった。
「ちょ、徹さん……!? 誰か来たらどうするんですか…!ここ会社ですよ」
「いいよ、もう隠さなくていいんだから。部長がああやって公表したんだ」
徹さんはそう言って、器用に片手で自分のネクタイを緩めた。
いつも完璧に整えられているその首元が露わになる。
彼は私の腰をぐいと自分の方へ引き寄せると、逃がさないと言わんばかりに距離を詰めた。
#ワンナイトラブ
おまる
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